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48.西へ

「成る程な、結構俺の格好とかが出回っているのか」

「ああ。だからあんたの背格好を見て旅で使えそうな服を選んで来たかったんだが……既に服屋は閉まっている上に、服を着替えても意味が無い事が判明したんだ」

 真顔でそう言うシリルに、ニールは思いついた事を口走る。

「魔力が無いから結局ばれると?」

「ああ。結局は一時凌ぎにしかならない。それにあんたの顔も英雄様にばれてしまっているから、フードでも被っていないとまずいかも知れないな」

 シリルはそう言うものの、それでも少しでも変装しておけば追跡から逃れられる確率はアップ出来そうな気がするニール。

「それでも良い。俺は結局逃げられれば問題が無いし、変装出来るならしておきたい」

「分かった。じゃあさっさとこの帝都から出て最初の遺跡に向かおう。それなりの情報も騎士団に流して来たから、奴等は当分の間そっちを目指すだろうからな」

「ああ、俺が東へ向かうって言う話だろう?」


 情報収集を終えて戻って来たシリルからその話も既に聞いているニールは、自分達がこの先に取る行動をある程度予測出来る。

「つまり、偽の情報を流して俺達が東へ向かったと思わせておいてその裏をかき、別の方角へ向かうのか?」

「そうだ」

 偽情報を流して敵をかく乱するのは地球でも当たり前の作戦だが、こうやって自分が逃走する為に流してくれるのは有り難かった。

 その有り難がっているニールを見て、やや心配そうな口調でシリルが尋ねる。

「でも、本当に良かったのか?」

「何がだ?」

「遺跡を巡る旅をするって選択だよ。例えあんたがその遺跡の封印を解いてその奥にあるって言うアイテムを手に入れたとしても、それがあんたの世界に繋がる物だとは限らないんだぞ。それにそのアイテムは俺と同じギルドの連中が狙っているんだし、そこまでのリスクを負ってまで行く意味があるのか?」


 心から本心でそう口をついたシリルの疑問だったが、ニールは間髪入れずに力強く頷いて返答する。

「意味はある。それを集めて元の世界の鍵になるんだとしたら行ってみる価値はあるだろう。だが最初からチャレンジもしないで諦めるのは嫌だし、そのアイテムとやらを俺と同じく狙っている連中が居るんだったら先を越されない内に回収したいからな。それを集めても地球に帰れないんだったら、その時はまた別の帰る方法を探しに向かうだけだ。俺は何としても地球に帰りたいからな」

 ハッキリと迷いの無い口調でそう言うニールに、シリルも諦めがついたらしい。

「わーったよ。そうまで言うなら俺は止めねえ。だったらさっさと出入り口から出て西に向かうぞ。馬車を用意してあるからそれに乗って行こう」

「もう用意したのか」


 やけに用意が良いんだな……とシリルに対して思うニールだが、ここで彼は忘れていた事があるのを思い出した。

「あっ、そう言えばユフリーと合流しなければ!!」

「ユフリー……って、確かグラルラムであんたと一緒に居たあの金髪の女か?」

「そうだ。俺が帝国の英雄様とやらに追われてからサッパリ行方が分からないんだ。出来ればユフリーも一緒に連れて行きたい」

 色々と騒ぎがあったので今の今まですっかりユフリーの事が頭から抜け落ちていたのを悔やむニールだが、帝都から出てしまう前に気がついて良かったとも言える。

「その女は何処に向かったか分からないか?」

「実はそれ、俺が真っ先に聞きたいんだ。少なくとも俺はこの帝都の宿屋までは一緒に居た。1階が酒場になっている宿屋で夕食を摂っていて、そこで酔っ払い同士の喧嘩に巻き込まれてから離れ離れになってしまったんだ」

「うーん……1階が酒場の宿屋って言われればあんたが騒ぎを起こしたって言ってたあの宿屋で間違い無いと思うが……俺がもう1度そこに向かってその女が居るかどうか確かめた方が良いか?」

「そう……してくれると非常に嬉しい」


 またその宿屋に行かせる展開になってしまってシリルには申し訳無い気持ちのニールだが、そんな彼等の後ろからいきなり声が掛かった。

「あらっ、貴方達もこっちに居たのね!!」

「っ!?」

 甲高い女の声が響いた方を振り向けば、息を切らしながら現れたユフリーと、シリルの仲間の1人であるあのミネットと言う女が地下水路の出入り口から現れたのだった。

 人の噂をしていればその張本人が目の前に現れる、とはニールも良く聞くエピソードだが、実際にそんな展開がこうして自分の身に起こるとなかなか驚きを隠せない。

「なっ、何であんた等がこっちから出て来るんだ!?」

 自分が地下水路の出入り口を駆け抜けて来たのはシリルに導かれたから……と言う理由がある自分はまだしも、彼女達2人まで何故ここを通って現れたのだろうか?


 その理由はユフリーを連れて来たミネットの口から語られる。

「ああ、彼女とは街中で偶然遭遇してね。騎士団での簡単な事情聴取を終えて宿屋に戻る途中だって聞いたんだけど、貴方が宿屋で騒ぎを起こしたって話を聞いて一緒にその宿屋に向かったの。でもその途中でギルドの人達が誰かを追い掛け回しているって話が耳に入ったから、もしかしたら貴方が追い掛け回されているんじゃないかと思って彼女に話を聞いたの。そしたら地下水路がどうのって話を聞いたからそこを通って手近な出口から出てみたら、偶然貴方達にこうして出会ったのよ」

「そ、そうか……」

 偶然とは言えこうして再会出来たのは捜しに行く手間が省ける結果になったので、この騒がしい帝都から退散するべく4人はシリルが用意したと言う馬車に向かって歩き出した。


 ステージ3 完

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