47.他人任せの諜報活動
ニールの真っすぐな意志の強い瞳に、シリルは観念して再び溜め息を吐いた。
「……分かったよ。俺達もしばらくは別の任務でこの国に滞在するからあんたに協力しよう」
こうしてシリルやミネットの協力も得られる事になったのだが、問題はそのアイテムがあると言われる古代の封印の場所だ。
一種の指名手配をされている状態の自分がこの帝都の中をウロウロと歩き回って、情報を集めて無事に戻って来られる訳が無い。
そこでさっそく協力して貰う事に。
「じゃあ、さっそくなんだがその古代遺跡の情報を集めて来て貰いたい」
「分かった」
シリルも今までのやり取りでその辺りの事情は察しているのだろう。
ここで待っていろ、と動かない様に指示をした上でニールをその場に残し、彼は夜の帝都の雑踏の中に姿を消した。
そんなシリルがやって来たのは、ニールが騒ぎを起こしたあの酒場。
そこに居る騎士団員達を相手にして、色々と自分の機転を利かせるつもりで情報収集を開始する。
「あー、ちょっと聞いて良いか?」
「む……何だ?」
騒ぎの後片付けや状況確認、現場検証と言った職務を遂行している帝国騎士団員達に話し掛けたシリルに、1人の騎士団員が対応する。
「何用だ?」
明らかに部外者と言う出で立ちの男を止めるのは、この帝都を守っている騎士団員としては当然の事。
だからそう言った質問も出て来るのだが、呼び止められたシリルは涼しい顔をしたまま答え始める。
「ああ、俺、ここで騒ぎを起こした奴が東に向かうのを見たんだ。だからそれを伝えに来たんだ」
「何だって?」
腕を組んで考え始めた騎士団員に、その様子を見ていた他の騎士団員やギルドの傭兵達が合わせて4人程集まって来た。
「何だ、何かあったのか?」
「ああ、何かこの男がここで騒ぎを起こしたって言う茶髪の男を見かけたらしいんだけど……」
何処か腑に落ちないと言う態度を示す騎士団員に、傭兵の1人がシリルに対して疑いの目を向ける。
「あんた、何だか怪しいな……?」
勿論そう言われる事はシリルもシミュレーションしているので、事前に用意していた答えを出して反論する。
「俺が仮にそいつの関係者だったとして、こんな大胆にその男を追い掛けている者達の所に真正面から来ると思うか?」
腕を組んだ、余りにも堂々とした仁王立ちの狼獣人の大男に対して騎士団員と傭兵達は顔を見合わせる。
「それに俺だって傭兵だ。ここに来たのはそれ以外の情報収集もあるんだよ」
シリルは真顔で自信満々にセリフを続けるが、内心ではこのハッタリと出任せのメッキが何時剥がれてしまうか冷や汗と変な汗が止まらない。
それでもうろたえる様子を全く見せず、さも事実であるかの様に話すシリルに騎士団員達と傭兵達の緊張も若干緩んで来る。
「……それ以外の情報収集って?」
「俺だって傭兵の端くれだ。その男を捕らえた者には多額の賞金が出るって言う話を聞いたんだが、俺1人じゃ不安でね。だからその男の追撃を頼みたいのと男の情報をもっと詳しく教えて貰おうと思って」
そこまで言い切ると言う事は、本当に傭兵として追撃作戦に参加するのかも知れない。
実際にその男には多額の賞金が掛けられている上で追撃の通達が出されているので、それが目的でわざわざでここまで来たのなら、無碍に断って要らぬトラブルを起こす訳にも……と騎士団員と傭兵達はシリルを近くのテーブルに座らせた。
「それで、男の情報を提供するのは良いがそれ以外の情報と言うのは?」
「あー、それなんだけどさ。この国には色々と遺跡があるらしいな。そこで古代の封印がされていて、奥に進めないって言う話を前に俺が聞いてね。そこに俺も挑戦したいんだ」
「ああ……君もそのクチか?」
騎士団員が尋ねると、シリルは組んでいた腕を解いて毛むくじゃらの頭をボリボリと掻きながら続ける。
「そう。俺も色々な国を回って傭兵家業をしているんだけど、金になりそうな依頼ばかりじゃないって言うのはよーく分かってる。だが何かしらのチャンスが転がっているんだったら少しでもそのチャンスにすがってみたくてな」
「そんなに言うなら場所を教えるから遺跡を見て回っても良い。しかし……あんた1人で遺跡を回るのか?」
騎士団員の1人がそうシリルに尋ねるものの、当のシリルは首を横に振った。
「まさか。俺にだって傭兵の仲間は居るよ。ついでにその追撃要請が出ているって男を見かけたらそいつも捕まえて突き出してやるさ」
「だったら大丈夫だな。それで後はその男の情報か?」
2つもいっぺんに依頼をこなせるのか?と 騎士団員達は疑問に思うが、彼なりの事情もあるのだろうとすぐにその疑問を打ち消して問題の男の情報をシリルに伝え始める。
「ええと……それじゃ今から話すけどメモは取るか?」
「勿論だ。しかし、そんなに多くの情報が入っているのか?」
「ああ。英雄様が言うにはかなり素早い男みたいだし、割と覚えやすい服装だったらしいからちゃんとその情報も届いている。後で手配書も渡そうか?」
「それは嬉しいな。じゃあその男の情報を言ってくれ」
本当はその男に協力する為に、こうして情報が何処まで広まっているのかを調査しているんだけどな……とシリルは頭の中で思いながらメモを取り始めた。




