45.1vs2
その2人はニールを捕まえるべく躍起になっている帝国の英雄エジットと、以前ニールと揉め事を起こしていた痩せ身のシャムシール使いのあの男だ。
「そこまでだ、大人しくしろっ!!」
「逃げ場は無いぞ。観念するんだな!」
そう言って痩せ身の男がシャムシールを構える横で、エジットも愛用の斧を構えてニールを2方向から取り囲む形でジリジリと歩み寄る。
「油断するなよ、こいつはなかなかすばしっこいぞ」
「ええ、かなり強いみたいですしね。行きますよエジット様!」
「……」
どうやら見逃してくれそうに無いその2人を見て、ニールはやれやれと首を横に振った。
「悪いが、御前達にこれ以上追い掛け回されたくないんでね。それから前に俺は忠告した筈だ。もし次に同じ様な事があれば容赦はしないとな」
それでもその2人は戦闘態勢を解こうとはしない。
この状況で自分に逃げ場が無いのであれば、こちらとしてもやるしか無い。
他の追っ手達がここに来る前に短期決着を目論むニールを生かして捕らえるべく、ギルドの傭兵の2人もニールに向かって来た。
先に自分の元に辿り着いた痩せ身の男の腹に先制でボディブローをかまし、次にエジットが横に回りこみつつ斧を繰り出して来たが、その斧で自分の相方を傷つけてしまっては困るのでなかなか思う様に振れない。
一方のニールは痩せ身の男を力任せに突き飛ばしつつ、エジットの腹に左の前蹴りを入れて怯ませる事に成功。
痩せ身の男がその間に立ち直ってシャムシールの斬撃を何発か繰り出すが、ニールは上手くかわして一気に痩せ身の男の首を取って羽交い絞めにする。
「ぐっ……うぐ!?」
全身全霊の羽交い絞めに痩せ身の男がジタバタともがくのを見て、エジットはニールに斧では無く今度は右のパンチを繰り出したが、ニールはそれを痩せ身の男の顔で上手くガード。
「ごは!」
「な……っ!?」
顔面にパンチが当たった瞬間に痩せ身の男を解放し、そのパンチを仲間に入れてしまった事で動揺して少し隙が出来たエジット。
そんな彼にはお返しとばかりに、小さくジャンプしながらの飛び込みパンチを彼の顔へ叩き込むニール。
「ぐお!」
痩せ身の男も再び立ち直ってニールに向かうが、そんな痩せ身の男をエジットの方に突き飛ばしてニールはまた2人と向かい合う。
「くっ……」
このままでは勝てないと悟ったのか、エジットはとうとう痩せ身の男に攻撃が当たるのも厭わずに全力で斧を振り回してニールに向かう。
だが、その斧を振るった腕をニールはエジットの懐に飛び込んで斧ごとガードしつつ、彼の顔面に頭突きして後ろに突き飛ばす。
その後ろからは痩せ身の男も向かって来たが、彼の懐に飛び込んで脇腹にパンチ、そして続けて顔面にパンチして彼を怯ませた。
自分の後ろでは当然エジットが立ち直って来たので、ニールはそのエジットの攻撃をかわして一気に懐へと飛び込んでエジットの腹に右の膝蹴り。
そのまままた後ろに突き飛ばしつつ、エジットの顔面にパンチ。
「あがあっ!?」
上手くクリーンヒットしたそのパンチだったが、ニールの背中に痩せ身の男のパンチがほぼ同時に入る。
「ちっ……」
舌打ちをしながら痩せ身の男を振り返って睨み付け、素早く痩せ身の男の懐にまた飛び込んで今度は痩せ身の男の首目掛けて右パンチ。
「ごっ!!」
一瞬呼吸が止まった様に感じた痩せ身の男の胸倉を掴み、勢いに任せる形の背負い投げで背中から硬い地面へ叩きつける。
「がっ!?」
背負い投げし終えたニールがエジットの方を見ると、彼はパンチのクリーンヒットから立ち直って来ようとしていたので、立ち直られる前にエジット目掛けて左足でドロップキック。
「やあーあっ!!」
しかもただドロップキックで終わらせるのでは無く、ドロップキックの反動を利用してそこから起き上がりかけている痩せ身の男の背中目掛けて直接右の肘を落として、彼を再度地面へ叩きつけると言う荒い大技をやってのけた。
「ぐおあ!」
「がはっ!?」
エジットは後ろの倉庫の壁へ背中から叩きつけられ、痩せ身の男は背中を強打されて物凄い衝撃を連続して受け、どちらも背中にダメージを負って満足に動けなくなってしまったのを見てニールは息を吐く。
「はぁ……」
安堵の息を吐いたニールは増援が来ない今の内に逃げなければ……と思い、自分が通って来た水路の中へと再び足を踏み入れる。
だが、ここで思わぬ人物が彼を導く。
「おい、こっちだ!!」
「えっ?」
いきなり聞こえて来た声の方向に顔を向ければ、そこには何と……。
「あ、あれっ!? 何であんたが!?」
「説明は後だ!! さっさと俺について来い。安全な場所まで案内するから!!」
まさかの人物に出会うシチュエーションはさっきと合わせてこれで2度目だが、今回出会った人物は自分にとって害の無い人物だと思っているニール。
その人物……鉱山の町グラルラムで出会った、あの狼獣人のシリルに導かれる形でニールは地下水路を通り抜けて帝都に繋がる別の出入り口へと駆け抜けて行った。




