44.一難去ってまた一難
酔っ払い全てを制圧したニールだったが、その時酒場の外から叫び声と足音が聞こえて来た。
「おい、こっちだ!!」
「御前等全員動くな!!」
ガチャガチャと重苦しい鎧の音を響かせてやって来たのは、このソルイール帝国のギルドの追っ手達である。
酒場で騒ぎが起こっていると誰かが通報したのだろう。
しかし、それを見たユフリーはニールの手を引っ張る。
「まずいわ、騎士団よ!!」
「くそ……!!」
押し付けていたテーブルから力を緩め、宿屋の2階へと走って逃げるニールとユフリー。
それを見たギルドの追っ手達も、酔っ払い達を荒縄で拘束しに掛かる者とニールとユフリーを追い掛ける者に分かれて行動し始める。
こんな状況で宿屋に泊まっている暇は……それが実はあったのだ。
ニールは部屋に飛び込んでベッドの下に素早く潜り込み、ユフリーに後は任せる。
そしてその数秒後、部屋に慌ただしく飛び込んで来たギルドの追っ手達が部屋に1人取り残されている(様に見える)ユフリーに荒っぽい口調で尋ねる。
「おいっ、あの男は何処に行った!?」
「こ、ここから下に飛び下りて走って行っちゃったわよ!」
「そうか、だったら君も参考人として俺達と一緒に来てくれ。あの男を追うぞ!!」
ギルドの追っ手の1人が他のギルドの追っ手に指示を出し、バタバタと部屋の外へと再び駆け出して行く一団と一緒にユフリーも連れて行かれてしまった。
(ふぅ……ユフリーには悪いが、何とかこれで助かったかな……)
いずれはまたユフリーと合流しなければならないだろう。
しかし、ここで自分がギルドの追っ手達に捕まってしまえば、あのピンク色の髪の毛をしている騎士団長の耳に、自分がこの帝都ランダリルに居る事が回り回って入ってしまうだろう。
それだけは何としても避けたかったニールは心の中でユフリーに詫び、まずは休息を取る事にした。
だが、まだまだ彼には試練が待ち受けているらしい。
とりあえず寝て体力を回復させようとしたものの、再びバタバタと足音が聞こえて来た。
「……え?」
疲れで眠りに入ろうとしていたニールが、身体と頭をその音が聞こえて来るドアの方に向けてみる。「おい、貴様っ!!」
そのドアがいきなりバンッと開かれ、雷が落ちたかの様な大声がベッドの上で身を回転させたニールの耳に届く。
その声の主はニールに聞き覚えがあった。
「は、はぁ……何で御前がここに……!?」
何故彼がここに居るのだろう、と心のざわめきを隠せないのはニールだったが、それよりも前にやるべき事があるのは間違い無い。
(まずい、ここからさっさと逃げないと……!!)
月明かりと部屋の外の廊下の明かりを頼りに良く目を凝らしてみれば、声の主とはまた別にもう1人別の人物が居るらしい。
だが、今はじりじりと近寄って来るその人物達から逃げる事が何よりも先決だ。
ニールは被っていた毛布をその人物達に投げつけ、一瞬2人が怯んだ隙にさっきユフリーがついてくれた嘘を本当にする形で宿屋の2階から飛び出した。
「くそっ、待てぇっ!!」
(待てと言われて誰が待つか!!)
そんなツッコミを心の中で入れつつ、ニールはさっさと逃走を図る。
その2人もギルドの仲間達を呼び集め、またこう言う展開になってしまうのかと心の中でうんざりしながらニールは帝都を逃げ始める。
こう言う時には素早い動きと薄暗い景色が味方してくれる。
何故ならギルドの追っ手が目の前に立ち塞がっても、大抵は彼の方が身軽なのでその素早さを活かして脇をすり抜ける事が出来るからである。
事実、目の前にワラワラと立ち塞がる追っ手達を上手くパルクールの要領で避け、またある時は立ち塞がった追っ手に体当たりしつつ、その追っ手の身体を持ち上げて向かって来た別の追っ手に向かって投げつける。
「あの男……このまま上手く逃げ切るつもりだ!!」
そうはさせてたまるか、とばかりに2人の追っ手も走ってニールを追い掛け続ける。
既に立ち塞がる追っ手達を薙ぎ倒し、まるで工事現場のブルドーザーになったニールは追っ手達から逃げ切ろうとしている。
しかし事態を察したギルドの追っ手達が、自分達の数の利を活かしてこの帝都内からニールを出さない様に包囲網を固め始める。
「ちっ!!」
このままではまずい。
相手は大人数のギルドの追っ手だし、なおかつ追っ手達は素手のニールとは違って武器を持っているので真っ向勝負なんて挑める訳が無いのだ。
だから立ち塞がる相手は素早く薙ぎ倒し、時には戦わずに素早く逃げる。
パルクールはスタントの仕事で何度か経験のあるニールだが、それ以上にカラリパヤットで鍛えた足腰の強さが逃走の手助けをしてくれている。
そうして帝都内を縦横無尽に駆け回って逃げ続けていたニールであったが、自分が潜入して来たあの地下水路の出入り口の倉庫を目の前にしてとうとう最初の追っ手2人に追いつかれてしまった。
(くそ!)
焦りつつもここから如何すれば良いかを考え、とりあえず倉庫の中に入って水路の中を通ろうとしたニールの前に2人の男が立ち塞がった。




