43.酒場にてパート2
「あ、居た居た」
そんな声が自分の斜め前から聞こえて来たのでニールがスマートフォンの画面から顔を上げてみると、そこには見知った顔があった。
「ああ、そっちもきちんと入れたみたいだな」
安堵した様にそう言うニールだが、ユフリーは不満気な表情だ。
「私は正規の手順を踏んでちゃんとここに入って来たのよ。私よりも自分の心配をして欲しいわね。それはそうと何時までもここに居たら怪しまれるから、さっさと宿屋に向かいましょう」
「宿屋?」
何で宿屋に行くんだ? と首を傾げるニールだが、ユフリーは空を指差して再び口を開く。
「どうせもう帝都から出ても他の町や村に行く場所も時間も無いのよ。だったらここで一晩休んで、明日からじっくりここで情報を集めましょう」
そう言えばもう夕方だったな、と再確認したニールは彼女の先導で予約した宿屋に向かった。
その宿は1階が酒場になっている様で、ギルドへの登録をしたり依頼もここの酒場で請け負う事が出来るらしい。
それに、この酒場こそがユフリーと出会ったあの酒場のチェーンの本店らしく夕方でもなかなか活気がある。
「夕食もここで摂るんだろう?」
「そうね。夕食を摂ったらそのままさっさと寝るわよ」
2人部屋が運良く取れたので、ニールとユフリーは荷物を置いた後これまでの疲れを癒すべくまずは栄養補給の為に酒場となっている1階へ向かう。
が、その酒場でもニールはトラブルに巻き込まれてしまうのであった。
「なかなか旨そうじゃないか」
「ええ。帝都だから色々と食材の流通もしているからね。このサラダなんか特に私のおすすめよ」
この世界のメニューについては全然分からないので、とりあえず栄養のつくメニューを、と言うリクエストでニールはユフリーに食事を頼んで貰う。
そうして運ばれて来た数々の料理を見て、ニールはまるで子供の様に目を輝かせた。
やはり人間、腹が減っては戦が出来ないと言うのは本当らしい。
「それじゃしっかりと食べておこう」
早速そのおすすめのサラダから……と手を付け始めた矢先、酒場の端の方が何やら騒がしくなり始めた。
「てめぇ、もう1度言ってみろこの野郎!!」
「おー、何度でも言ってやるよ!!」
どうやら酔っぱらいの喧嘩の様である。
せっかくの楽しいディナータイムを台無しにする様なその騒ぎを耳にして、やれやれと肩をすくめてニールはちらりとそちらへ視線を向けた。
「おいおい、人が呑んでるって言うのに騒がしいのは全く何処のバカだ?」
「関わっちゃ駄目よ」
「分かってるさ」
無視を貫くニールとユフリーだが、酒が入っている事もあってますます酔っ払い達の気が大きくなり始めてしまった様だ。
そしてあろう事か、その酔っ払いに殴り飛ばされた別の酔っぱらいが大きくぶっ飛んでニールとユフリーのテーブルに直撃。
「うおっ!?」
「きゃあっ!?」
間一髪で立ち上がってその酔っ払いを回避したニールとユフリーだったが、そのテーブルに置かれていた料理は当然テーブルごと破壊されて食べられなくなってしまった。
「あ、ああ……」
せっかくの美味しそうな料理が目の前で一瞬にして残飯に変わってしまい、ニールは恨みつらみの籠った視線をその酔っ払い達の方に向ける。
が、その視線が自分達を睨んでいると判断した酔っ払い達によってニールの方まで騒ぎが飛び火してしまう。
「何だぁ~てめぇ、文句あるのか?」
「ああ、大有りだな。喧嘩ならせめて外でやってくれないか。せっかく頼んだ料理が台無しになってしまったぞ?」
なるべく冷静にそうお願いするニールだが、その口元が怒りでヒクヒクと動いているだけで無く額に青筋まで立っている。
「はっ、うっせえんだよジジイ。さっさと痛い目見ない内に失せやがれ!!」
そう言いながら酔っ払いの内の1人が殴り掛かって来たが、ニールはそれに対して回しキックで足を振り上げ、正確に男の右の二の腕をキックしてパンチを止める。
「うっ……?」
一瞬怯んだ男に向かい、続けてストレートキックで振り上げた足で男の顎を蹴り抜いて昏倒させた。
「ぐほっ……」
「や、やろおおおおおおおお!!」
口から出血させながら地面に大の字に倒れた男を見て、残った4人がその手に武器を握りニールに襲い掛かって来る。
もうこうなったらやるしか無い。
溜め息を吐いてニールは迎撃態勢を取ると、襲い掛かって来る酔っ払い達の方へと向き直った。
向かって来る1人目のバトルアックスを持つ右手首を掴み、動きを止めて素早く足払い。
手首はそのまま離さず、次に向かって来た女の酔っぱらいのナイフをその男の酔っぱらいの身体を使ってガード。
力任せに2人纏めて突き飛ばし、別方向から自分に向かって来た女の酔っぱらいのワインボトルをそばの椅子を使ってこれもガードし、逆に椅子を使って腹をど突いて怯ませてから前蹴りで床に蹴り転がす。
最後の4人目はロングソードを抜いて向かって来たので、ニールは素早く近くの丸い木製のテーブルの上を身軽に転がって回避。
そのテーブルを両手を使って持ち上げ、ロングソードを突き刺して貰う形でブロック。
武器を封じられる形になった4人目の男の酔っぱらいがアタフタしている隙を逃さず、テーブルごと彼を壁に押し付けて制圧した。




