36.別行動
「なかなか独特な動きの武術の様ね」
「ああ、面白い構えをするな」
ミネットとシリルからそれぞれカラリパヤットに対しての感想を聞き、鉱山の町グラルラムでギルドのグループとは別れた。
またニールはユフリーと2人旅をする事になったのだが、この先の旅路でまた問題が発生するのを既にユフリーは予測しているらしい。
「さってと、これから帝都のランダリルに向かう訳だけど……貴方と私は別のルートから帝都に入る事になるわね」
「別のルート?」
まだ鉱山の町を出発したばかりなのに、今の段階で既にそんな決定事項みたいに言われても……と困惑するニールだが、ここは黙って彼女の話に耳を傾ける。
「そうよ。ちょっとリスクが高いけど、確実に帝都に入るならこうするしか無いわね」
「それは?」
方法によってはかなりのリスクがある様なので、真剣な表情でその内容を聞く事にするニール。
彼女は馬をカポカポと進ませながら、遥か遠くの方を指差して続ける。
「あっちの方向に進めば帝都のランダリルがあるんだけど、私は陸からこのまま馬で普通に入る。一方の貴方は川から入って貰うわよ」
「か、川?」
「そう。ランダリルの中に続く細い地下の運河があるんだけど、そこは一種の抜け道ね。貴方の身体には魔力が無い。だから帝都に入る前の検問で止められてしまう可能性がほぼ100パーセント。そうなれば騎士団に取り押さえられて、そのままあの騎士団長や英雄の前に引きずり出されるのが目に見えるわ」
「……確かに」
そうなればあの決死の大ジャンプを成功させた苦労が全て水の泡になってしまう。
それ以外にも自分にとって不利な条件が少しでもあるのなら、例えそれが回り道になったり少しリスクを負う形になったりしても、最終的に結果が良ければそれで良いだろうとニールは考える。
「……分かった。それはそれで良いとして、地下の運河に入るのであれば何処かから地上に出て合流しなければならないな」
「そうね。一旦帝都の街中に入り込んでしまえば人が多いから魔力云々って言うのも気にしなくて良いんだけど……貴方、舟には乗れる? 手漕ぎの木の船よ」
「まぁ、漕げば言いだけだからな」
即答するニールに頷くユフリーだが、実は問題はそれだけでは無いらしい。
「ならそれは良いわね。でも、まだ問題があるのよ」
「え?」
「その川の渡しには質の悪い奴が居てね。強盗みたいな奴で、船を利用しようとする人にいちゃもんをつけて金品を強奪するのよ。リスクが高いって言うのはその侵入経路だけじゃなくて、そうした邪魔者も居るって事」
地球の何処かの国では、川下りを利用する観光客に対して勝手に写真を撮った挙句、それを買うまで逃がさないと言う悪質な輩の話を知り合いから聞いた事があるニールだが、それと似た様なものなのかなと考える。
「分かった、それなら気を付けよう。それからその悪質な奴以外にも何か注意するべき所は?」
「そうねえ、夜になると運河の見張りが緩くなるから、入り込むなら夜の方が良いわね」
コソコソするのは何だか泥棒みたいで気分が余り良くないが、状況が状況だけに仕方無いだろうと強引に自分を納得させてユフリーの馬に乗り続けるニール。
(全く……地球に帰る情報を集めるだけでも一苦労だし、さっきの町でも結局地球に関する情報なんて何一つ得られなかったし……帝都に行けば何か分かるかもな)
むしろ分かってくれないと自分が困るので、その帝都の広さや情報網の多さがなるべく大きなスケールであるのを期待するしか無かった。
帝都に辿り着くまでにはあの鉱山の町からまだ2日程掛かると言うので、ユフリーは途中でニールに馬のコントロールを任せる事にする。
「ふぅ、お尻がそろそろ痛いわ……」
「良し、なら俺が馬を操ろう」
そう言って今度は自分が馬を操る事になったニールだが、ユフリーは普段から馬に乗っているからかそれなりにスムーズなのに対して、ニールは普段馬に乗る機会が無いので何だかぎこちない。
それでも交代してくれるだけありがたいと言えばありがたいので、ここは素直にニールに任せて自分が休むユフリー。
そんな彼女が自分の腰に手を回して信頼してくれているだけでも、ニールは何だか嬉しかった。
独身で、付き合っている女性も居ない彼にとっては役者の仕事やガソリンスタンドのお客以外で女と接する機会がなかなか無い。
だけど、それであっても彼女をまだ深く信頼出来ないのは少なからずギルドと繋がりがあるからだろう。
(この女は酒場の従業員だって言ってるけど、ギルドと繋がりがある人間でもあるんだ。もしかしたらあの英雄とやらの名前だけじゃなく、もっと深い所まで知っている可能性もあるな)
警戒心は常に持っていなければならない。
それを常に念頭に置きつつも、でもこの世界で自分が頼る事が出来るのは今の所では彼女1人しか居ないと言うのがちぐはぐさとなってストレスに変化するニール。
とにかくまずは帝都に向かい、そこで何かしらの情報を集めるのが今の目的だ。




