33.見えるけど見えない
そんな戦い方を繰り返しながら、ニールはスケルトンの攻撃を潜り抜けて最深部の広場で何とか目当ての薬草をゲットする事に成功した。
(大丈夫……スケルトンの数は確実に減って来ているし、それに俺はこんな所で死ねない!)
1体ずつ確実に、囲まれない様に注意しながら広場のスペースを活かしてスケルトンを潰して行くニール。
その甲斐もあって、5分もすれば何とか残るはボスのスケルトンだけになった。
ニールは倒した小型スケルトンの残骸を拾い上げてボススケルトンに投げつけるが、ボススケルトンは持っている錆びたロングソードで振り払う。
しかもロングソードを振り回して衝撃波チックな攻撃をして来るので厄介である。
接近戦に持ち込むのはちょっと危険だと思うが、それでも今までの戦いの中でニールは気がついた事がある。
小型のスケルトン達は頭を潰せば動かなくなった。
だったらこのボススケルトンも同じ筈だと読んで頭を狙いたい所……だが、正直身長差があるので狙い難い。
(く……っ!! くそ、どうすれば良い……)
自分が着ている赤いシャツの腕の部分を思わずギュッと掴んでしまうが、その瞬間ある事に気がついた。
(あっ、そうか)
何かを思いついたニールはまずシャツを脱ぎ、それをボススケルトンに向かって投げつける。
当然ボススケルトンはそれをロングソードで弾くが、ニールはそれを見越して走り出していた。
「ぬおおおおおっ!!」
キックボクシングやムエタイでお馴染みの飛び膝蹴りを、そのフェイントでロングソードを振る事が出来ない状態を作り出されたボススケルトンの頭にヒットさせる。
ニールはその後ろの岩壁に、ボススケルトンを頭から叩きつけて絶命させたのだった。
そしてそれを見計らったかの様に、崩落して塞がれていた岩の壁がギルドのメンバー達によってぶち抜かれた。
「せいっ!!」
威勢の良い掛け声と共にシリルが広場に飛び込んで来たが、次の瞬間彼の顔に驚きの表情が浮かぶ。
「な、何だよこれぇ!?」
飛び込んで来た勢いも思わず止まってしまい、驚きの声を上げるシリル。
それに対してニールは自分が倒したスケルトン達の姿を見て呟く。
「どうやらこいつ等が、ここの魔物達を陰から操っていたみたいだな」
「いや、そうじゃなくて……こいつ等は一体何処から出て来たんだ?」
「は? こいつ等はさっきからここに居ただろう。目の前に居ただろう?」
何だか話が噛み合っていない。
どうにも双方に解釈の違いがある様なので、一旦洞窟から出て依頼達成の報告書と薬草をギルドに届けてから解釈を合わせようと考える一同。
しかしその時、ギルドのメンバー達の中から1人の女が歩み出て来る。
「あれ……そのスケルトン達の周囲からは防壁魔術の痕跡を感じるわね」
「本当か、ミネット?」
「ええ。もしそれが本当だとすれば、私達がさっきここに来た時にこのスケルトン達の姿が見えなかったのも納得が行くわね」
感心した様に頷く、ミネットと呼ばれたその女は細身で緑色の髪の毛をしており、簡素な肩当てと胸当てだけの動きやすい服装で依頼遂行のグループに参加している。
「って事は、あんただけこいつ等が見えてたけど俺達には見えなかったって事なのか?」
「そう……なのか?」
質問に質問で返す形になってしまったのだが、ニールもそう曖昧に頷くしか無かった。
あの天井崩落前のそれぞれのリアクションの違いを考えれば、ミネットの言っている事も納得が行くとシリルとニールは頷いた。
「でも、それだと何で俺だけにこいつ等が見えたんだ?」
「それは分からんが……もしかしたらあんたから魔力を感じられないのが何か関係あるんじゃないのか?」
「え……?」
魔力を感じられないと言うのはユフリーから聞いたし、この世界の生物の身体の中には必ず魔力が存在している。
だが、それは自分には無いもの。
つまり自分がこの世界の生物では無いと言うのがバレバレなのだが、どうやらそれ以上にまだ色々と謎があるらしい。
「うーん、考えても分からないな。とにかく今はさっさとギルドに依頼達成の報告をしようぜ」
「ええ、そうね」
腕組をして考えていたシリルとミネットだが、やっぱり考えても分からないみたいなのでここは一先ず町に戻る事にした。
この世界の住人に分からないのなら当然ニールにだって分かる訳が無い。
「俺の身体……特異体質なのか?」
「どうもそうらしいわね。私も貴方に対してそう思う時があるわ」
何時の間にか自分の横に来ていたユフリーが彼を見据えてそう言うものの、今はまだ詳しい事が分からない以上断定も出来ない。
しかし、これで金が入るのでどうにか先の生活の目途は少しだけだが立ったと言えるだろう。
「俺達もこれから戻るのは良いけど、戻って報酬を受け取ったらすぐに出発するのか?」
確かそう言う話だったとユフリーに再確認するニールだが、彼女は首を横に振る。
「ううん、戦ったからお腹が空いちゃったし何か食べてから帝都に向かいましょう」
「そうか、ならそれで良い」
この世界で魔物を見たのも初めての気がするし、魔物と真っ向勝負で戦って良く生きていられたなと自分の幸運に感謝しつつ、ニールはギルドのメンバーと一緒に洞窟の出口目指して歩き出した。




