32.骨のある奴
象のポーズのトレーニングで適度に汗を流したその翌日。
朝一番でこの町にあるギルドの支部の前で合流した一同は、そのまま依頼を遂行する為に町から出て近くの洞窟に向かう。
元々は鉱山の出入り口の1つとして利用されていたらしいのだが、魔物が何時しか棲みつく様になって定期的に駆除が行われているらしい。
しかし、その親玉らしき魔物に関しては実はまだ見つかっていないらしい。
魔物の異常繁殖が原因で定期的に駆除が入る様になったのだが、その親玉を潰さない限り何時までもそれをやり続けなければならない、と言うのが悩みの種だとも屈強な男……シリルと名乗った狼獣人から聞かされた。
「とにかく、その親玉が出て来る様な事があればさっさと逃げるだけだ」
シリルはそう言って、愛用の武器であるバスタードソードを横に一振りする。
「魔物は俺達に任せておけ。だからあんたは薬草を集めるのを最優先に考えるんだ、良いな?」
やけに気合が入ってるなーとシリルを見ながら、ニールは無言で首を縦に振った。
その洞窟は見るからに薄暗く、入る前から不気味な雰囲気が漂っている。
「こ、ここ……?」
「そう、ここだ」
まるで誰も居なくなってしまった廃坑の様な不気味さを感じつつも、ニールはそのギルドのメンバー達と共に洞窟の中に足を踏み入れる。
ジャリジャリと靴底が地面と擦れる音をBGMに先に進んで行けば、早速その魔物であろう大きなトカゲが姿を現した。
身体の色は紫。しかもそこ等の大型犬と同じ位の大きさを持っているトカゲなんて地球ではまず見た事が無いニール。
そのニールの前ではシリルが仲間達に指示を出す。
「よっし、お出ましだ。気を引き締めて掛かれ!!」
リーダーのシリルの号令で、ユフリーも含めた戦える者達全員で魔物の駆除をしながら洞窟の先に進んで行く。
洞窟自体はそこまで深いものでも無いらしく、道もそんなに分かれていないので自分の道を切り開いてくれるギルドのメンバーに感謝しながらニールはその目当ての薬草を探す異にしたのだが、そうそう上手くは行かないのが現実だった。
何故なら、その最深部らしき広場までやって来た時にニールが思わず絶叫してしまったのだ。
「う……うわあああ!!」
ニールが向かったその広場には、何と骸骨の兵士……いわゆる「スケルトン」の大群が居たのである。
しかし、周りのメンバーの反応は自分とかなり違う事にニールが気が付く。
「お、おい……どうした?」
「ど、どうしたって……ほら、目の前に居るだろ、骸骨が!! 武器を持った骸骨が!! でっかいのが!!」
スケルトンの軍勢に向かって指を差しながら半狂乱状態になるニールだが、ギルドのメンバー達もユフリーもキョトンとしている。
そしてユフリーが信じられない事を言い出した。
「……何言ってるのよ? 何も居ないじゃない」
「はあ!?」
この女は一体何を言っているのか。
自分にはハッキリ、気持ち悪くうごめいているスケルトンの軍勢が見えているのにそれが見えていない?
更にニールを追い込む出来事が起こる。
「……それよりも、目当ての薬草はどうやらあの奥らしいな」
そう言ってシリルが1歩踏み出したのだが、その瞬間ミシ……と嫌な音と共に天井が崩れ始める。
「げっ!?」
「うお、やべえ!!」
そのまま崩落し始める天井を見て、咄嗟に身体を反応させたその場のメンバーは別々の方向に飛んで崩落から逃れる。
その飛んだ方向がニールにとっては悪く、何と崩落した壁を挟んで自分1人だけがスケルトン達の居る側に取り残されてしまった。
「おおい、無事か!?」
崩落した天井が岩の壁となってしまい、その壁の向こうからシリルの声が聞こえて来るがニールはそれ所では無かった。
何故なら、その天井が崩れた轟音を聞いたスケルトン達がジリジリとニールの方に近寄って来ていたからだ……。
こうなったらもう腹を括るしか無い、と開き直ったニールはスケルトン軍団に向き直ってカラリパヤットの構えを取る。
どうやら奥に居る親玉らしいスケルトンが一回り大きく、その周りのスケルトンは大きなスケルトンから生み出されているのだろうと分析しながらニールは戦い始めた。
(このスケルトン軍団……頭を潰せばもう動かなくなるんだな)
その途中で「頭を破壊すれば倒す事が出来る」と分かってもニールは苦戦。
パンチ1発、キック1撃で倒す事は出来るものの、後から後から湧き出て来るスケルトン軍団にキリが無いのだ。
(骨のある奴等だな!! いや、骨しか無いけど……)
ジョークでも何でも無く、本音からそう思ったのだがいかんせんこの数の差はどうもしがたい。
だったらどうするか?
(逃げるのも立派な戦略の1つ!!)
ニールは一旦戦線離脱し、薬草があると言われた奥の方へと進んで行く。
その途中で崩落した天井の欠片を投げつけ、自分の攻撃で破壊されてバラバラになったスケルトンの骨を別のスケルトンにぶつける。
更には既に倒したスケルトンの骨を鈍器代わりにして戦い、素手だけじゃなくて武器も使える事をスケルトン達に証明しながらニールはこの修羅場を切り抜けるべく奮戦する!!




