29.意外な展開
「おい、あんた達」
その武装した集団の内、1番屈強そうな男が重厚な鎧に身を包んだ格好で話し掛けて来た。
「……俺達に何か用か?」
いきなり話し掛けられたので当然警戒しながら反応するニールに対し、予想外の事を言い出した。
「あんた達、ギルドの仕事に興味は無いか?」
「別に無いな」
ギルドに対して不信感しか無いニールは即答するが、その男は思い掛けない事を呟いた。
「そりゃそうだろうな。英雄様に追われてるってなったら興味なんて持てないだろうからな」
その呟きに対し、男に話し掛けられた時から警戒心が強い状態だったニールから明らかな殺気が放たれる。
「……誰だ、あんたは……」
「俺達もギルドの冒険者だよ。けど、ここであんたをどうしようって訳じゃ無い。俺達はあのスカした英雄様が嫌いなんだよ」
「嫌い?」
ニールの隣のユフリーが尋ねれば、男は頷いてから答える。
「ああ。実力は確かにスゲーけど、それを鼻にかける様な所があるから俺達はあの野郎が嫌いなんだ。そこであんたに俺達と一緒にギルドの仕事を色々と請け負って貰って、あいつを英雄の座から将来的に引きずり下ろしてやろうって考えだ。どうだい?」
とは言うものの、今のニールに取ってはギルドの関係者と言うだけでもかなりの警戒心がある。
それでも相手も引き下がろうとはせず、逆にニールの心を揺さぶるセリフを掛けて来る。
「あんた、見た所無一文だろ? そんな格好で手ぶらで旅をしているって感じでも無さそうだし、さっきの武具店で凄い事になってたから何かしらの事情があるんだろうってのも分かる。だが、この先この世界で生きて行くんだったら働き口と金が必要だろうし、男と女が1人ずつだけで旅って言うのも俺達から見たらかなり危険だと思うがなあ」
金。
そう、今はユフリーが居るから何とかなる保証があるもののもしこの先で自分が1人ぼっちになる時が来たら、その時はどうにかして生き抜いていかなければならない。
地球に帰るまではこんな訳の分からない世界で死ねないので、ニールはその提案にしばし頭を悩ませてから答えを出した。
「……分かった。だが……その仕事の内容によって俺がついて行くかどうかを決める」
「ちょ、ちょっと何言ってるのよ貴方!?」
さっきまで誘いに乗らないスタンスだったニールのそのセリフに、驚いたユフリーは止める素振りを見せる。
そんな彼女にニールは冷静な口調で返答する。
「この人達の言っている事も間違ってはいない。それにまだ俺は着いて行くと決めた訳でも無い。ギルドの仕事やらの内容を確認してから決めるんだ」
そこまでハッキリ言われてしまうと、ユフリーも流石に口を閉ざすしか無かった。
「で……その仕事の内容ってのはどんなものなんだ?」
「ああ、それはこれだよ」
ガサゴソと男が懐から取り出したのは、ギルドの仕事を記載している依頼書だった。
「えーとだな、仕事の内容は薬草の採集だ。明日の朝一番で向かうこの仕事は一見簡単そうに見えるんだが、採集場所が厄介なんだよ」
「厄介って?」
ニールがそう聞いてみると、男は遥か向こうを指差した。
「あっちの方に鉱山の洞窟があるんだ。その奥地に生えている希少種の薬草を採集しなければならないんだが、そこには魔物の大群がウジャウジャ居るんだよ。それをいちいち相手にしていたらとても採集まで手が回らなくてさ。だからその採集をあんたにやって貰っている間に、俺達が周りの魔物を引き付けておく。それで薬草を採取したらさっさと逃げる。報酬分から勿論それなりの分け前もやる。俺達に魔物の相手は任せてくれればそれで良い」
あえて危険を冒してまでこのギルドの連中に付き合うべきなのか悩むニールだが、その場所を見るだけならまだ引き返せる。
なので一旦了承し、ユフリーにも着いて来て貰って問題のその洞窟を目指す事にした。
そして、その同行についての条件も幾らかニールから出させて貰う。
「幾つか条件がある」
「条件?」
「ああ。まず俺が危険な目に合わないって約束して欲しい。魔物を俺は見た事が無いからどんなものが居るのかさっぱり分からないし、初めて踏み込む場所だから不安だからな。それから分け前はきちんと貰うぞ。最後に……俺を見捨てて逃げる様な真似だけはしないでくれよ」
自分でもかなり失礼な事を言っているのは分かっているが、ギルドの連中と言うだけあって何を仕出かすか分からない。
そのニールの条件に対して、男は苦笑いを浮かべて答える。
「2つ目は問題無くあんたにも渡すよ。3つ目もせっかく協力して貰うんだから見捨てないし、危険な目に遭いそうだったらあんただけでも逃がせる様にするよ。でも……1つ目は絶対に危険な目に遭わないって言うのは約束出来ないな。魔物が沢山居る場所に踏み込むんだから。俺達からはそれしか言えない」
「……分かった」
こうして翌日の朝一番に魔物が沢山闊歩すると言う洞窟に向かう事になったニールとユフリーだが、それでもまだニールの頭の中からはモヤモヤが消えなかった。
(怪しい……何時でも逃げ出せる様にしておこう)




