28.デジャヴ
武具店の客も店主らしい男もこちらを呆然と見ているので、2人は一旦外に出てその店から離れる。
「ど、どう言う事なのよ……さっきのは?」
ユフリーが若干興奮気味にそう質問するものの、ニールは目を閉じて首を横に振る。
「俺に聞かれても困る。と言うか、さっきの変な事に関しては俺が1番知りたいんだ。あの……俺が君に言われて酒場で落ち合うのを約束してた時、俺がギルドの連中に追われただろう? その追われる前に宿屋であの俺が組み伏せた痩せてる男に絡まれたんだが、その時そいつの武器を俺が触ったんだ。そうしたらさっきみたいな事が起きたんだ」
「うーん……だとしたら、貴方が武器を触ったらさっきみたいに凄い事になっちゃうのかしら?」
「どうもそうらしいな」
しかし、今のままではまだ確証が持てない。
少し考えて、ニールはユフリーに頼み事をしてみる。
「君、確かナイフを持っていたな?」
「ええ」
「だったらそれを俺に触らせてくれないか。もしそのナイフでも同じ事が起こったら確証が持てる気がするんだ」
「うーん、だったら試してみましょうか」
そう言いながらユフリーはニールを襲った時に使ったナイフを取り出し、今度は柄の方を彼に向けて手渡す。
「……良し」
謎の現象を2回も経験しているだけあって、ニールは固唾を飲んでから意を決してそのナイフの柄を力強く握ってみた。
バチィィィッ!!
「うぐぅうっ!!」
「ぐっ……な、何なのよこれぇ!?」
流石にニールは3回目、ユフリーが2回目となるとある程度予想して身構えていただけあって衝撃に耐性が出来ているらしい。
だが、それでも驚くべき現象だし痛みだってやっぱりある。
自分達の手から地面にこぼれ落ちたナイフを見つめて、ニールは納得した表情で頷いた。
「どうやら俺は武器が持てないらしいな」
「そんなバカな事……」
「目の前で起きていただろう、ここでたった今」
静かにそう言うニールに対し、何も言えないまま口を閉じるユフリー。
「とにかくだ。これはこれでもうしょうがないんだと割り切って受け入れるしか無いだろう。何故こうなるのかは分からんが、今の所分かっているのは武器が使えないって事だ。となると素手で頑張るしか無いらしいな」
「そうよね……」
認めたくない気持ちがある。信じたくない気持ちになる。
しかし、これは現実なのだから認めざるを得ない。
「素手であの連中に立ち向かう時が来ないと良いのだがな」
これ以上あの連中とトラブルを起こす前にさっさと地球に帰る手掛かりを探してこの世界からおさらばしたいのだが、ユフリーがそのニールのぼやきに疑問の声を上げた。
「え? でも貴方はあのギルドのシャムシール使いをあっさり倒したんだからそれなりに強いでしょ。しかもこの世界に最初に来た時、山道で盗賊団を相手に立ち回ったそうじゃない」
「あれは偶然が積み重なったんだ。多勢に無勢なら俺に勝ち目は無い」
そう、あの時自分が盗賊グループに勝てたのは山道と言う足場の悪さと道幅の狭さを利用した殻であって、フラットで何も無い場所だと囲まれて終わっていただろうとその時の状況をニールは振り返る。
そして、彼は彼でまだ他にも希望はあると考えた。
「確かに武器は使えないかも知れないが、防具だったら俺が身に着けられるかも知れないだろう。ほら……例えば甲冑みたいな」
「ああ、それならそうね。でも今あの武具店に戻るのはまずいわよ。ここは我慢して帝都まで行ってからにしましょう。どの道そっちの方が品数も豊富だし、帝国騎士団御用達の武具店でもあるから」
武具店であの謎の現象を起こしてしまっただけあって、2人がかなり目立ったのは言うまでも無いしまたそこに向かって帝国騎士団に通報されていたりしたら困る。
なのでそれはそれでありかなと考えるニールだが、やっぱりそれはダメだとすぐに思い直した。
「ちょ、ちょっと待った。帝国騎士団御用達の武具店となると、それは帝国騎士団員と鉢合わせる事もあるんじゃないのか?」
そうだとしたら騎士団長にまで目をつけられているであろう自分としてはリスクが高過ぎるので無理、とNGを出すニール。
しかし、ユフリーは首を横に振った。
「それなら大丈夫。帝都に居る時に私も知り合いの頼みで武器とか防具の調達に行った事があるんだけど、騎士団の人間は店に来ないわ。騎士団には専属のそうした鍛冶師が常駐しているし、よっぽどの事が無い限りは騎士団の武器とか防具はそうした武器庫で保管されているから、武具店の店主が騎士団に向かう事はあっても騎士団員達の方からは外に出て来ないしね」
「そうなのか……」
だったら彼女の言う通り、帝都ランダリルに辿り着いたらその武具店に案内して貰おうと考えるニール。
武器が使えなくても、防具を着込めばそれなりに相手の武器の攻撃から身を守る事は出来る。
少しだけだが胸の中のモヤモヤが消えたニールと、そんな彼のそばに立っているユフリーの元に数人の武装した人間や獣人が近づいて来たのはその時だった。




