25.鉱山の町グラルラム
ユフリーに魚のポーズのショーをして、その後は馬のポーズを使って実際にユフリーにまたナイフを振るって貰って避けてからの反撃のトレーニングをした翌日の昼。
2人はレラルツール山脈の南東に位置している鉱山の町、グラルラムへと無事に辿り着いた。
「はー、やっと着いたな!」
「ええ。でもすぐにまた出て行かなきゃね。ここにもギルドがあるから、その英雄を慕っている連中が貴方の情報を既に回している可能性が高いわ」
「そんなにスピーディーなのか……」
中世ヨーロッパ風の世界だと思っているが、もしかすると地球で言う所の電話やメールシステム等の連絡ツールがあるのかも知れない。
それをユフリーに聞いてみた所、こんな答えが返って来た。
「えーと、通話魔術って言うのと通信魔術って言うのがあって、遠く離れた場所に時間を掛けずに連絡が取れるのよ」
「ほう……2つの違いは何なんだ? それからもしかしてそれもカシュ何とかって言う国の発明か?」
ユフリーは首を縦に振る。
「そうよ。カシュラーゼが発明した魔術のテクノロジーよ。魔法陣がある場所からしかお互いに出来ないんだけど、時間差が無い状態で遠く離れた場所に居る人と会話が出来るの。それが通話魔術ね」
「へえ、そりゃあ便利だな」
地球で言う公衆電話と同じシステムじゃないか、と感心しながらユフリーの話の続きに耳を傾けるニール。
「それから通信魔術って言うのはその通話魔術を更に進化させたもので、物を遠く離れた場所に送る事が出来るの。これもお互いに魔法陣がある場所じゃないと出来ないんだけど、物を運ぶのにわざわざ移動する必要が無くなるのよね。でも、送るもののサイズや重さによって魔力の消費量が変わって来るから、その分料金も変わって来るんだけどね」
その話を聞いていたニールが、だったら……とこう疑問をぶつける。
「あれ? その理論だと人間や獣人も送れるって事にならないか?」
それを使えば帝都まで一気に行けるんじゃないかと期待するニールだが、そうそう都合良くは行かないらしい。
「最初に同じ事を考えたわ。でもそれは駄目なのよ」
「何で?」
「えーと、それを転送陣ってこの世界では呼んでるんだけどね。確かに人間や獣人も移動が出来るのよ。でもそれには許可が必要で、許可が下りないと送れないの。だって、誰でもドンドン送っちゃったら犯罪者が簡単に逃げる事も出来ちゃうじゃない」
「あ……そうか、セキュリティの問題か……」
自分は犯罪者……の様な気がしないでも無いのだが、転送を旅行と置き換えてみれば納得が行く。
アメリカ国内旅行なら車で移動すれば時間が掛かってもサンフランシスコからフロリダまで行けるが、例えば海を越えてヨーロッパやらアジア等の海外に行くのならパスポートが必要になるし、入国審査だってある。
それと同じだと思えば……とニールは頷いた。
「セキュリティ面で確認があるから、俺がそれを利用すれば魔力を持たない人間だと言うのが一発でばれてしまうって訳だな」
「それが怖いのよね。それに帝都への転送をするのならこの国の都に入るんだから、許可を得るのは更に厳しいのよ。色々と根掘り葉掘り聞かれるから、この世界にの人間じゃないってなるとますます時間が掛かるわ。それで無くても貴方は帝国騎士団の騎士団長に顔を見られているんだし、国の英雄とトラブルも起こしてるんだから、事態はドンドン悪い法に向かうのは目に見えるわね」
フィクションの世界の様に都合良くは行かないらしいので、ここは素直に馬を使って帝都に向かうしか無いのだと再確認するニールは、鉱山の町グラルラムの入り口に目を向ける。
「分かった……それならそれでここで何か情報を集めたり、武器とかも見たい」
「そうしましょう。でも、急がないとあの英雄が何処か別の町の転送陣を英雄権限……とか言って強引に許可無しで使って、追っ手が帝都に先回りする可能性もあるから長居は出来ないわよ」
「そうだな」
ならば素早くやる事をやって出発しよう、とユフリーと約束したのは良いが、長居は出来ないけど長居しなければいけない、ともユフリーから伝えられた。
「あ、でも……馬をここまでかなりのスピードで走らせて来たから一晩位は休ませないと。夜に出発しても良いけど魔物に襲われる可能性もあるわね」
「じゃあ、朝一番で出発しよう」
なるべく早く出発出来るのであれば出発したいが、安全面とのバランスを考えて最善のチョイスをするべきだと考えながらニールはユフリーと一緒にグラルラムの町に入る。
「元々ここは小さな辺境の町だったんだけど、帝都からそんなに離れていないから結構人の出入りは昔からあったのよ。で、50年位前にここで鉱山が見つかってね。その鉱山の仕事と利益で小さな村から町へと規模が大きくなったのよ」
「ああ……そう言うのは俺の世界でも良くあるよ」
例えば今まで何も無かった辺鄙な町に鉄道の駅が出来たりとか、映画で有名になって経済効果で一気に発展したとか言うエピソードはアメリカに限らず色々とある。
世界が変わっても考える事は変わらないんだな……と感心しながらも、そんな余裕は無いと思い直してまずは宿屋に向かった。




