22.世界地図と国内地図
次の日の朝。
「そう言えば、この世界の地図って無いのか?」
「地図……ああ、あるわよ」
そう言えばこの世界の地図を見た事が無かったなと思ったニールがユフリーに聞いてみると、彼女は持って来た皮袋の荷物の中からガサゴソと地図を取り出した。
「これね」
「なかなか広いんだな」
率直な感想を言うニールの目の前には、この世界の全てを記載している地図がある。
しかし、その差し出された地図を見て今の自分達が何処に居るかが分からないのでもっと詳しい地図は無いのかと聞いてみる。
「なあ、この国全体の地図は無いのか?」
「あるわよ。……はい、これね」
次に差し出された地図と、最初に魅せられた世界地図を見比べてみて自分達が何処に居るのかを見当付けるニール。
「この上の中央のソルイール帝国に居るんだな」
「そうね。ここから東に向かえばイーディクト帝国に入るわ。逆に西に向かえばリーフォセリア王国。最後に南に向かえばアイクアル王国に入れるわ」
「うーん、そうなると最終的にはこの国を出て他の国に入るって言う選択肢もあるな」
地球に帰る為の情報を集めなければならない以上、この国から出て他の国でも情報が手に入るのであればそちらに向かわなければならないだろう。
しかし、それについてユフリーから注意事項があると言う。
「うーん、それなんだけど……貴方が行ってはいけない国もあるから気を付けないとね」
「えっ? それってどう言う事なんだ?」
自分が行ってはいけない国とは……と首を傾げるニールの目の前で、ユフリーは自分の手に持っている世界地図の国の1つを指差した。
そこはこのソルイール帝国から東に向かったイーディクト帝国の、更に下に存在している灰色の線で囲まれている横長の国だった。
「ここは魔術王国カシュラーゼって言うんだけどね、ここはかなり厄介な国だから入っちゃだめよ」
「厄介って?」
わざわざ警告して来る位だから、やはりそれなりの理由があるのだろうと推測しつつユフリーのセリフを待つニール。
「うん……名前からも大体分かって貰えると思うんだけど、ここは世界でも魔術に関しては特に優れている王国でね。ここの魔術関係の発明や技術の進歩から生み出された色々な物が、世界中に広まって独自の進化を遂げたりしているのよ」
「と言う事は、魔術関係の技術のルーツを辿るとここに最後は行き着くって事になるのか?」
「ええ。だから世界中がこの王国の技術力に注目しているし、他国から魔術を学びにここに留学する若い人も多いわね」
武術と魔術の違いはあれど、ルーツを辿るとそこに全てが行き着くと言うのはカラリパヤットと同じなんだな……とニールは感心した。
しかし、それだけではこの国に入ってはならないと言う事にはならない。
「でも、それだったら俺が入国しても良いんじゃないのか?」
別に問題無いだろと思うニールだが、彼は自分の身体の肝心な事を忘れていたのでそこをユフリーから指摘される。
「駄目ね。そもそも貴方、自分の身体の事を考えてみてよ」
「身体……」
「貴方にとっては魔力が無いのが当たり前の世界から来てるから感じないかも知れないけど、私達にとっては身体の中に魔力があるのが当たり前なのよ。それはこうして近くに居ると凄く感じるわ」
「ど、どうやって?」
魔力が無いのが何で分かるんだ? と首を傾げるニールに、自分を始めとしたこの世界の住人にしか分からない感覚があるのだとユフリーは答える。
「魔力の大きさによって変わるんだけど、ピリピリと痺れる様な感覚が魔力の証明なのよ。それを私達は感じてそれぞれ個人の魔力の大きさを測っているんだけど、貴方からはその感覚が一切無いから魔力が無いってすぐに分かっちゃうわ」
それに……とカシュラーゼと言う国の成り立ちも交えてまだ理由を述べるユフリー。
「そんな魔術とか魔力を至上主義にしているし、魔力を使った技術もかなり編み出して来ているからね、カシュラーゼは。だからそんな所に貴方が行ったら……」
「実験の対象にされるか、迫害されるか……どちらにせよ良い結果にはならなさそうだな」
友好的には迎えて貰えなさそうなので、ここは忠告を素直に聞いておくニール。
「じゃあ、それ以外の国でまずはどうにかして情報を集めないとな」
「ええ。この国の都にもまだ行ってないんだから、まずは帝都ランダリルに向かうのが今の目標で良いかしら?」
「そうだな。だが、ギルドの連中と騎士団長の監視の目はそっちにも及んでいるだろうからすぐに立ち去る事になるだろう」
今度は地図を見て、その帝都ランダリルの位置を示している黒丸を指差すニール。
「ここが帝都だな」
「そうね。そしてこの……ここがこれから私達が向かうグラルラムの町ね」
荷物の中から取り出した羽根ペンに赤いインクをつけ、その場所を囲むユフリー。
「この中央の山……レラルツール山脈の南西にさっきの町があって、グルリとこのレラルツール山脈に沿って進んでいるのよ」
これを見る限り、帝都はその鉱山の町から更に南東に進んだ場所なのでまだまだ時間が掛かりそうだとニールは考えた。
それでも今は道案内をユフリーに任せて進むしか無い。




