19.格闘戦
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登場人物紹介にミネット・アルカンを追加。
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前作の登場人物紹介にも過去のプロフィールで追加。
ウルミを最後とした鉄製の武器のトレーニングが全て終了したら、北派のカラリパヤットのトレーニングでいよいよ最後のトレーニングに入る。
それは素手での格闘戦だ。
色々な武術があるにせよ、殆どの武術においてはポーズのトレーニングを最初に行う事は共通していても、素手での格闘戦のトレーニングは大体の場合ポーズのトレーニングの次に行われる事が一般的である。
しかしながら北派のカラリパヤットの場合においては、まずはポーズのトレーニングで武器のトレーニングに使う事の出来る身体作りをし、きちんと武器を使える様になってからでなければ素手での格闘術のトレーニングが出来ない。
その格闘術のトレーニングではパンチやキックの基本的なトレーニングの他に、色々なシチュエーションを想定して対人戦を行う。
ジャンプして相手のキックを避ける、素手で相手のパンチを弾く、掛かって来た相手を関節技で拘束する、ナイフを持って掛かって来た相手への対処等がある。
その他にも「逆手で」ロープを登るトレーニング、頭上に吊り下げられているボールをジャンプキックで蹴る、タオルを使って相手のナイフを持つ手を取り拘束する等の物があり、素手での戦い方に関しては武器術よりも練習量が多くなりがちだ。
こうして型の練習、木製の武器、鉄製の武器、そして素手の格闘術と4つのステップでのトレーニングを終えて、晴れて北派のカラリパヤットのトレーニングをマスターする事になる。
しかしその後に最後のステップとしてもう1つ学ばなければいけない事があるのだ。
それはカラリパヤットをマスターした人間達は身体の事を知り尽くす様になっている為、他のカラリパヤットを学ぶ人間達にマッサージをする事がある。
その為に「マルマ」と呼ばれる人体のツボにマッサージを施術するトレーニングをする。
このマッサージは、カラリパヤットのトレーニングを始める前に必ず行われるのだ。
身体にオイルを塗ってその後にマッサージをして貰う事で、その後のストレッチと合わせて相乗効果で身体をほぐす事が可能になる。
カラリパヤットの道場にはこのマッサージを行う為の治療院が必ず設置されており、ここでトレーニングの前にオイルマッサージをして貰わなければトレーニングに入る事が出来ない。
もっともニールの場合はオイルマッサージをして貰う事はあっても、簡単なものだったのでそのマッサージの部分に関しては省略される事も結構あった。
この様にしてカラリパヤットのマスターになる為のトレーニングを積んで行くのが、伝統的な型のトレーニングを重視している北派のカラリパヤットになる。
基本的に北派のカラリパヤットでは半地下に作られている地面が土の道場でトレーニングが行われており、朝にトレーニングをした後に学校や会社に行く事がインドでは当たり前の光景になっている。
ニールの場合は、習い始めたばかりの頃は学校そのものが遠い場所にあったのでスクールバスが来る時間も朝早く、なかなか朝に本格的なトレーニングをする事が出来なかった。
なのでその分、帰って来てからそのインド人の師匠にトレーニングをして貰っていた。
今では役者としての職業柄、朝からの撮影の場合には簡単なストレッチのみで済ませて帰って来てからトレーニングをする事が多い。
ガソリンスタンドが非番の日で、役者としての仕事も入ってない日には朝から夜まで基本的なポーズの練習や、武器を振り回したりするトレーニングで1日を過ごすのが彼にとっての日常だ。
反対にガソリンスタンドの仕事のみの日……と言っても本業が売れない役者の為にこれが一番多いのだが、こう言った日にはお客に怪しまれないレベルで、仕事の合間に大振りのポーズにならない様に注意しつつ伸びのポーズをしたり、手の動きだけで軽くフォームの確認をしたりと仕事に支障が出ない様にしている。
「こんな感じで、俺はどうしても外せない用事がある時以外は毎日欠かさずにトレーニングをしているんだ」
「そうなの。だったらかなり強いのも納得は行くけど……果たしてそのカラ……何とかって言うのがこの世界でも通用するのかしらね?」
「いや、通用してると思うが……」
今までだってそのカラリパヤットのトレーニングをして来たおかげでここまで生き残って来られたんだしな、とニールは言うものの、何と次の瞬間ユフリーは鼻で笑う。
「……何がおかしい?」
「でも貴方、確か4人掛かりの相手には負けちゃったんでしょ?」
「そ、それは……」
そう事実を言われるとぐうの音も出ないニール。
これが映画やテレビだったら呆気無く蹴散らせるのかも知れないが、あれは動きが最初から決まっているフェイク。
多勢に無勢の場合では逃げるのが1番の得策なので、テレビゲームの様に上手くは行かないのが現実だった。
それに、ユフリーがそう言うのはまだ別の理由もあるらしい。
「しかも、この世界は人間よりも数倍の大きさがある魔物とか人間よりも身体能力の高い獣人って言う種族が居たりするの。あなたの世界にはそう言う存在があるのかしら?」
「……いや、居ないが」
「だったら通用するとは思えないわね。今の話を聞いてると私でも勝てそうだし」
その瞬間、ニールの頭の中で何かが切れる音がした。




