18.カラリパヤットとは?
(喋るライオンの映画だったらエキストラで撮影に参加した事があるが、実際に小説は読んだ事なんて無いんだよな)
あくまでもエキストラとしての参加経験があるだけで、そのストーリーは概要位しか知らないのがニール。
そもそもそう言ったファンタジーな世界観の作品には元々興味が無いので、疎いのも仕方無いと言えば仕方が無い。
だからさっさとこんな興味の無い世界から地球に帰りたいと熱望するニールだが、その為にはやる事がまだまだ山積みだ。
その目的達成の為、ニールはユフリーと共に朝のメインストリートの喧騒に紛れて町を出る。
彼は人混みも余り好きでは無いのだが、こう言った時に役立ってくれるのは素直に嬉しかった。
そうしてようやくすったもんだがありつつもこの町を出る事に成功したニールは、ユフリーが事前にこの町を出るのに手配しておいたと言う馬と町の出入り口の脇で合流する。
「用意が良いんだな」
「町を出るのは昨日から決まっていた事だからね。帝都まで行くんだったら歩き続けるのも無理な区間があるし……山越えとか」
サラッと凄い事を言われた気がするものの、ニールはそんな事でへこたれていてはいけないと気を引き締めつつ彼女にこんな提案を。
「もし乗馬に疲れたら途中で俺が変わるか?」
「え、貴方……馬に乗れるの?」
意外そうな目でニールを見つめるユフリーだが、地球でも良くある事なのでニールはさして気にせず答える。
「ああ。仕事の関係で乗らなければならない時があって、その時に個人的に半年位じっくりトレーニングを受けたからな」
「そうなんだ。それじゃ疲れたら代わって貰おうかしら」
実際、ニールは役者繫がりでスタントマンの仕事も結構経験している。
その仕事で車やバイクの操縦の他にも必要とあれば馬にも乗るので、その経験がまさかこう言う形で活かされる事があろうとは思ってもみなかった。
とは言っても、最初はユフリーが操る馬の後ろに乗せて貰う形で鉱山の麓のグラルラムの町に向けてスタートした。
その形で馬に揺られて進むニールに対し、ユフリーから質問が飛んで来る。
「それにしても貴方、かなり強いのね」
「俺が?」
「そうよ。だってほら、あの雑貨屋であの男相手に一歩も退かないどころか逆に倒しちゃったじゃない。何か武芸の経験があるのかしら?」
「俺は……カラリパヤットって言う武術を20年以上やっているんだ」
「カラリ……パヤット?」
「ああ、俺の世界の全ての武術のルーツを辿れば、必ずここに行き着くと言われている程の歴史と技術があるものだ」
若干誇らしげに説明しているそのニールが習得したスキルのカラリパヤットは、南のインドで発祥した世界でも最も古いと言われる武術である。
既に4世紀の時点ではもう武術の訓練としてカラリパヤットが行われていたと言う説もあるし、今の空手や少林寺拳法、それから合気道にカンフー、古式ムエタイにサバット等、それこそ本当に全ての格闘技の基礎となったテクニックがたっぷりと詰め込まれているのがカラリパヤットなのである。
素手の格闘術だけを見ても新体操の様にアクロバティックな動きをする時もあれば、パンチやキック等の打撃もあるし、目潰しや金的等のえぐいバーリトゥードテクニックも存在している他に拘束技や投げ技等の関節技系統も色々と存在している。
古式ムエタイの格闘術はカラリパヤットの「パーフユッダ」から来ているとされているし、フランスの格闘技のサバットのキックはカラリパヤットのキックをモデルにしたとされている。
カラリパヤット自体は大きく分けて北の流派、南の流派、そして中間の流派と3つに分かれているとされる。
日本の空手道場と同じ様に色々な流派があるのはカラリパヤットでも同じ事だ。
北のスタイルは型の訓練や身体作りを重視する伝統的なスタイルであり、この流派においては主にポーズの練習を集中的にする事によってしっかりとしたフォーム、それから全身の筋力トレーニング、そしてしなやかな身体作りをする事が出来るとされている。
その他にもこのスタイルにおいては世界各地でショーを行う事も多いので、必然的にしっかりとしたフォームが求められる事になる。
トレーニング方法としてはまずポーズをしっかりトレーニングして身体作りをしなければいけないので、ポーズがしっかり出来る様になるまでは基本的に次のステップに進む事が出来ない。
そのポーズのトレーニングで身体作りを終えたら、次はいきなり武器のトレーニングに入る。
これは2つのステップに分かれており、最初は当たっても比較的安全な木製の武器術のトレーニングだ。
木製の武器術で使う武器は棒術で使う様なロングスティック、それから名前の通り短い棒であるショートスティック、そしてショートスティックとは違う……どちらかと言えば木刀の一種とされている「オッタ」がある。
このオッタと言う武器は、横から見るとカーブを描いたショートスティックになっている。
この武器の使い道は、先端についている丸くなっている球体の部分で相手の股間やみぞおちを狙う。
基本的には中腰で構えて、ジャンプから攻撃したり突き刺したりと様々な使い方が出来るのが特徴だ。
こうして木製の武器術のトレーニングが終了して次のステップに進むと、今度はいよいよファンタジーな世界でもお馴染みの鉄製の武器のトレーニングが待っている。
鉄製の武器として使用されるのはオーソドックスな剣とそれから鉄製の盾、それから一般的に見かける物とは持ち方も形も変わった物になっているダガーナイフ。
その他にはロングスティックの鉄製バージョンに棒術の応用で鉄槍のトレーニング、そしてカラリパヤット最大の特徴的な、鞭の様にしなる剣として知られている「ウルミ」が存在している。
ウルミは武器術の中で最後に習得する武器だ。
鞭のようにしなるのが特徴な為に非常にコントロールが難しく、間違って自分を攻撃して怪我をしてしまう事も珍しくない。
なので他の武器をしっかり習得してからで無ければ、ウルミのトレーニングをさせてくれない道場もあるらしい。
昔の戦士は腰に巻きつけてベルト代わりに使っていたと言う歴史も存在しているので、ベルトソードと言う呼び方でも知られている。
腰に巻きつけた状態で持ち運びが出来る他に、グルグルと巻いてコンパクトにバッグの中にしまう事も出来るので、一種の隠し武器としても非常に重宝されている。




