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182.長台詞

 そんなエジットを再び羽交い絞めにしながら、セレイザはとんでもない事を言い出した。

「悔しいがこの男の言う事は正論だ。殺されそうになっている状況で反撃しないのは無理だ。だが、私達の仲間を殺したと言うのはこちらにとっては到底受け入れがたいのもまた事実。そこで御前にチャンスを与えよう」

「チャンス?」

 いきなり何を言い出すんだ。一体それはどんなチャンスなんだ。

 内心でドキドキしながらニールがそう思っていると、セレイザがそのチャンスを口に出す。

「御前と後ろに居る仲間達がユフリーの代わりに私達の仲間になる。それが条件だ」

「は?」


 唖然とするニールをお構い無しに、セレイザは条件の説明を続ける。

「正直な話、ユフリーは私に鍛えられていた事も過去にあったから、なかなか腕の立つ人間だと思っていた。しかし、御前はそのユフリーを倒す事に成功したし、私の部下達も騎士団ではそれなりに腕利きの連中ばかりを御前の捜索隊に任命して今まで進軍していたのだ。だが、御前とその仲間達はその部下達を退けたと言う事だろう。それに異世界人だからと言って即座に解剖する様な事はしない。解剖するならそれは、御前が私達にこれ以上刃向かう意思を持ち続けた時だ」


 そんなとんでもない事を言い出したセレイザに、ニールは「ふぐぅ」と吹き出した。

「あんた、相当おめでたい頭してるんだなー。騎士団長だし、取り乱すその男を抑え付けているその行動と今の口調からしても冷静沈着な人間だと思っていたけど、頭はそんなに切れるタイプでは無さそうだな。だって、今まで騎士団に追い回されて殺されそうになっていた人間が……しかも、その抑え付けられているその男からは、絶対にこれ以上無い位の恨みを買っている人間が、どうして御前達の仲間になれると思うんだ? 状況を考えれば少しは分かると思うんだがな。……まぁ良い、そっちの提案に答えるのであれば俺の答えは勿論……いいえ、だ」


 断りの返事をしたニールは尚も続ける。

「それに、そっちのギルドトップの英雄様から恨まれていると言う事は、いずれ俺が何処かで殺されるかも知れないだろう。もし殺されないにしても、腕の1本や足の1本切り落とされる位じゃ済まない位の恨みを、もう既に俺は買ってしまっている訳だ。と言う事は、俺にとってもそこまで恨まれて憎まれてトラブルになるリスクの高い奴等の仲間になる、と言う選択肢は有り得ない。俺はまだまだ死にたくなんか無いんだ。だからキッパリとその話は断る。これが俺の答えだ!!」


 台本にすると凄い長文になりそうなセリフをニールが言うと、1つ頷いたセレイザは羽交い絞めにしていたエジットを解放して、腰に吊ってある愛用のロングソードを引き抜いた。

「ならば死有るのみだ。ここの地下の研究施設の存在、それから遺跡の事を詳しく知られてしまった以上、御前達が私達の仲間にならないと言うのであればこちらとしても情報の漏洩をさせる訳には行かないのでね。あいにくだが機密保持の為だ。悪く思うな」

 その横ではエジットが長斧を構えて、殺気が満載の視線をニールに送りながら今にも飛び掛かって来そうな雰囲気をかもし出していた。


 更に後ろの方からも、セレイザのセリフを聞いていた騎士団員とギルドの冒険者達の連合軍が、今までの長い話がやっと終わって待ちわびていたかの様に、勢い良く武器を構える音が聞こえて来る。

「俺のメンツを潰すだけじゃ無く、俺の女のユフリーまで殺しやがって。さっき言った通り、俺は御前を絶対に許さない。例えセレイザ団長が許してもだ。俺達を敵に回した事を後悔して死ね。俺のこの斧にズタズタに細切れにされて、死んで行ける事に感謝して貰いたいもんだぜ!!」

 そんな2人のセリフに、ニールはカラリパヤットの素手格闘術パーフユッダの構えを取りながら答える。

「そんな感謝の押し売りは止めにして貰いたいものだ。俺はそんな事を望んじゃいない。それに俺だって伊達に20年間カラリパヤットをやって来た訳じゃ無いからな。御前達を倒し、俺は地球へ帰らせて貰うぞ!!」


 その構えを取ったニールの後ろでは、シリルとセバクターを筆頭にパーティメンバーもニールの様子を見てそれぞれ武器を構える。

 交渉決裂となった今、もう戦う事が決定したからだ。

 しかし、始める前にニールにはまだ1つだけ気になる事が。

「御前達の部下はどうなる? ここで色々と話を後ろで聞いていた訳だろう、まさに今……」

「勿論かん口令は敷かせて貰う。師団長クラスまでしかこの研究施設の存在を知らせないつもりだったが、こうなってしまった以上止むを得ない。それよりも気になるのは御前達がこの先でどう出るかだが、結果的には人数差で私達が御前達を倒すのが見えているがな」

「へぇ……そうかい。スペースとしてはかなりあるから、戦いやすいと言えば戦いやすいな。ならさっさと始めようぜ。これ以上の長い台詞を喋るのは俺も疲れるからな」

「それはお互い様じゃねえか。俺達全員が相手だ。……おい、こいつ等を全員やっちまえ!!」

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