181.俺が殺したんだ
「ふん、ほざいてろ」
鼻で笑うエジットだが、ニールの疑問がここでもう1つ生まれる。
「じゃあこれもついでに答えてくれないか。あの酒場で出会ったユフリーも、最初からあんた達が仕向けていたスパイだったのか?」
それだったら一応話が通じるんだがな、と考えるニールだが実際の話は少し違う様だ。
ユフリーの話はセレイザにも伝えられた様で、また話す相手が変わって説明がされる。
「いいや……それはタイミングが良かっただけの話だよ」
「タイミング?」
一体何の話だろうかとニールは首を傾げるが、その疑問はセレイザの説明ですぐに解消される。
「そうだ。最初は本当に、酒場のチェーン店のヘルプであんたと出会った店で働いていたらしい。そして、一目会った時から魔力の無い人間だと気が付いて、色々と親身になっていたのをたまにその後に報告してくれたんだよ」
「ん? 俺と出会った時はまだスパイじゃなかったのか?」
「ああ。私に「魔力が無い人がいるんだけどどうすれば良いかな」って通話魔術で彼女は連絡をして来たんだよ。その時はまだあんたとエジットとの関係を知らなかったから、一先ず見守る様にと言っておいた。しかし、その後に戻って来たエジットの話を聞いて彼の事を監視する様に伝えたんだ」
「……そうか、その監視命令が出た時から俺達のスパイになったんだな」
セレイザは頷く。
「そうだ。御前達は色々とこちらの事も嗅ぎまわっていた様だが、だったらギルドの統一化の話もすでに知っているのか?」
「当然だ」
自分と同じ様に頷いたのを見て、セレイザは話を続ける。
「だったら話は早いな。酒場はギルドの役目も兼ねている所が多いから、連絡係や雑用係として私とエジットはユフリーを計画に誘ったんだ。そして彼女はそれを承諾していたんだ。とは言っても計画が本格的に進行するまでは動いて貰わない予定だったんだが、偶然あんたと出会った事であんたに目を付けたのだよ」
「……恐ろしいな、偶然って」
本音をポツリと漏らすニールに対し、セレイザはニヤリと笑みを浮かべる。
「本当に偶然って言うのは恐ろしいな。その偶然が無かったらこれまでの話はまた変わっていただろう。私達の計画は世界のギルドの統一化だけでは無く、エジットが言う通り他国への侵略や物資の横流しをこなす事で、世界の統一に必要な資金を集めたり勢力を拡大したりと地盤を固めなければならないからな。だから私達があんたをなかなか追いかけられない以上、あんたの監視は彼女に頼んだんだよ」
全てはこの世界にニールがやって来て、偶然盗賊団に出会い、その盗賊団を倒したら偶然それがエジットのテストだった事から始まった。
それからユフリーと出会ったのも偶然で、ユフリーがそれをセレイザに知らせた事で監視体制になったのも偶然と言えば偶然だった。
「偶然の連続で俺は今まであんた達に追い掛け回されて、何度も死にそうになりながら帝国を1周して来たって事か」
「ああ。その辺りはしっかり分かってくれた様で、私達としても嬉しいぞ」
「俺は嬉しくないんだがな」
納得して頷くニールをセレイザが褒めるが、その褒められている彼に今まで黙っていたエジットが一言。
「……あれ? そう言えばさっきの話からすると御前はユフリーと行動していたんだろ? ユフリーとは最終的に何処で別れたんだ?」
そんなエジットの疑問にニールは下手な嘘をついても仕方が無かったし、ここで嘘をついて切り抜ける事が出来たとしてもいずれは絶対にバレる事なので、あっさりと素直に事実を述べる事にする。
「俺の目の前で死んだよ。あいつはタワーの空中で繋がっている通路に開いた穴から下に落ちたんだ」
「なっ……にぃ!?」
驚愕の表情を浮かべるのも無理は無いエジットを見て、ニールはわざとらしく今までの役者の仕事で使う為に勉強して来た、表情の演技の成果を今ここで出す。
「俺達がタワーから出ようとしていた時、あの女の部隊がやって来た。そしてこのパーティメンバーが部下達と戦っている傍らで、リーダーのあの女は俺に向かって襲い掛かって来た。そして俺は殺されそうになったからタワーの高い所から落としてやった。俺が殺したんだ」
「てっ……めえええええええええええええええ!」
エジットの怒りと悲しみを混ぜた絶叫が部屋の中に響き渡る。
セレイザが彼を両腕で押さえ込み何とか落ち着かせようとするが、そんなエジットにニールは続ける。
「騎士団の連中をけしかけて来るだけじゃ無く、俺に向かって槍まで向けて来たあの女。しかも抵抗すれば殺すと言う様なニュアンスのセリフまで言って来た。だから俺は自分の身に降りかかる火の粉を払っただけだ。大体、そう言うのは騎士団とかギルドに身を置いているそっちの方が良く分かっている事じゃないのか? そっちにとっては味方でも、俺にとっては敵なんだ。自分を殺そうとして来た敵を返り討ちにしただけなんだよ!!」
男だから、女だからと言う前に、戦場でそうした事にこだわっていては生き抜く事は出来ないだろう、とそこにニールが付け加えるとエジットは更に激昂した。
「ちっきしょおおおお!! ぜってー許さねぇぞ!! 俺の女を殺しやがってええええ!!」




