180.事件の全貌
それに、まだニールの聞きたい事は尽きていない。
「そんな事よりも、俺達にはまだ疑問があってな。……英雄様の方に」
「俺か?」
これ以上何を聞かれるのだろうかと、戸惑う表情を一瞬見せるエジットに対してニールはその疑問をぶつける。
「ああ。その聞きたい事は2つある。まず1つ目はあんたが英雄と言う立場を利用して、色々と物資の横流しをしたり他国を攻めているらしいがそれは本当か?」
「……そんな事まで調べるなんて、そっちはよっぽど暇なんだな」
エジットの言い方からすると、どうやら噂は本当らしい。
「英雄だからと言って、盲目的に俺を信じる奴の多い事多い事。俺を慕っているギルドの連中が、俺に声を掛けられただけでホイホイついて来るんだ。だから俺は横流しもやっているし、騎士団のバックアップがあるから侵略活動だって出来るんだよ」
平然とそう口に出すエジットに、ニールは肩をすくめて溜め息を吐いた。
「こんなのが英雄様なんてな。英雄って言うのはもっと偉大な存在かと思っていたんだが……」
「それが嫌なんだよ」
突然エジットの口調が冷たいものに変わる。
「英雄だ、英雄だって……俺はその前に1人の人間だからな。そうやって俺を慕うだけ慕って、本当の俺がどんな奴なのかも分かって無い様な奴等を都合良く動かすのは、と~っても楽しいぜ?」
まるで子供の様な口調でそう言うエジットに対し、次の質問をぶつけるニール。
「ふぅん……そんな英雄様には楽しくない事もあったらしいな?」
「どう言う意味だ?」
「俺とあんたが初めて会った時の事、覚えているか?」
もしシチュエーション違いであれば、これはカップルの間で交わされるセリフだろう。
しかし、この2人はカップルなんかでは無い因縁の敵同士なのだ。
ニールの質問に対し、エジットはその時の事を思い出して「ああ」と頷く。
「レラルツール山脈で出会った時の話だな。あの時から俺は御前を追い掛け始めて、今こうやって追い詰めたんだぜ?」
自慢げな口調で不敵な笑みを浮かべるエジットだが、彼に対してニールはビシリと人差し指を突き付ける。
「俺が聞きたいのはそんな事じゃない。俺はあんたにそこまで追い掛け回される様な事をしたのか?」
いきなり自分に襲い掛かって来た武装集団を倒してピンチを切り抜けただけなのに、その後に現れたエジットが失格だの何だのと言われていたのが関係しているらしいが、これだけはどうしても本人の口から聞かなければニールは納得出来ない。
指を突き付けられたままのエジットは、そっちの話か……と苦々しい思い出を改装しながら答え始める。
「そうか、だったら教えてやるよ。俺はあの盗賊達と取り引きをしていたんだ。それをてめーが潰してくれたおかげで、計画の進行に大幅な遅れが出たんだ」
「取り引き?」
となると、あの盗賊達も実はエジットの仲間だったのか? と考えるのが普通だが、これはそこまでシンプルな話でも無いらしい。
「そう、取り引きだ。騎士団長に認められる依頼」として俺はこのセレイザ団長から依頼を受けた。でもそれは、実は「騎士団長と手を組んだ世界制覇の野望の一端として、セレイザ団長からの実力把握テストも兼ねて盗賊達と取り引きをしていたんだ」
「ちょっと待ってくれ、さっぱり意味が分からん」
確かに自分は英雄様に説明を求めたのだが、その説明が意味不明過ぎて頭を抱えるニール。
「つまりどう言う事なんだ? あの盗賊達はあんたの仲間だったって事か?」
「ああ。それなりに金を渡した上で団長のテストをさせて貰っていたんだ。あそこみたいに足場と視界の悪い場所で俺がどれだけ戦えるのかを今一度チェックする為にな。内容としては、盗賊達を殺さない程度に全て撃破しろとの指示だった」
そこで一旦言葉を切り、指を下ろしたニールに代わって今度はエジットがニールに向かって指を差す。
「それを、てめーが余計な事をしてくれたせいで俺は失格になっちまったんだよ。しかも何人かは死亡しているからな。更にてめーにも逃げられて、俺は団長にも認められずに計画に支障が出たんだよ!!」
「成る程、やっぱりさっぱり分からん」
要するに、セレイザ団長の依頼を図らずも潰してしまったニールがエジットの恨みを買ってここまで追い掛け回されていたらしい。
そのニールの後ろのパーティメンバーも、我慢しきれずにエジットに向かって順番に口を開く。
「何処まで自分勝手なんだよ、あんたは……」
「そうだよ。さっきから聞いてたら話は滅茶苦茶だわ、やってる事は外道だわで英雄でも何でも無いじゃないか」
「英雄様ってのも幻想でしか無いのかしらね?」
「そもそも、そこで認める認められないじゃなくて、また何処か別の場所でまたテストを行えば良かったんじゃないのか?」
「と言うか、盗賊に金を掴ませる時点であんたはギルド自体を裏切ってるだろう?」
「ここまで訳の分からない奴、初めて見たぜ」
シリル、イルダー、ミネット、セバクター、エリアス、エルマンにそう言われるも、エジットはここまで来たらもう引き返せなかった。




