179.目的
ニールはそんな2人をパーティメンバーの先頭で見つめながら、聞きたい事を色々聞いてみる。
「ところでこの施設は一体何なんだ? さっき見てきた限りでは、物凄く得体の知れない実験をしているらしいな。人間や獣人の薬品漬けとか余り趣味の宜しく無い研究までしているみたいだ。俺にとっては悪趣味な研究でしか無いがな。それに……聞いた話によれば帝都の町中から住民が連れ去られる事件も多発している様だが?」
役者の仕事で培った、低いながらも良く通る大きな声でニールが問い掛ける。
前に話に聞いた、武装した冒険者風の人間や獣人達によって連れ去られる人々の事件についても同時に聞いてみれば、この質問には騎士団長のセレイザが直々に答えてくれる様だ。
「この場所か? 表向きは上が魔術研究所で、地下の向こう側が騎士団の地下の倉庫として使っているんなんだが、上の魔術研究所では私達にとある目的があって研究や開発をしているんだ」
「目的?」
エリアスがニールに続いて疑問を投げ掛けると、セレイザはコクリと1つ頷いて続ける。
「戦争の為だ。我がソルイール帝国は芸術に秀でた国とされているが、それ以上に好戦的な性格の皇帝が騎士団の育成に自ら力を入れておられる。当然私だって部下の育成には妥協を許さない。しかし騎士団の力だけでは到底対処し切れない様な場面や魔物だってある訳だから、その為に地下で生物兵器を開発していたんだ。戦争でも生物兵器が役に立つ時が来るかも知れないからな」
それを聞いたニールに1つの確信が生まれる。
「まさか、あの薬品漬けがそれになるのか? あれって元々もしかして……」
「察しが良いな。あいつ等はこの国で重罪を起こした犯罪人の処刑された慣れの果てだったり、そっちが話で聞いている通りの連れ去って来た身元不詳の連中さ。例え、そんな連中でも最終的には国の為に役に立てるのだから、光栄だと思っているんじゃ無いのか?」
「……人体実験って奴か」
「やっぱり、てめー等はクズだな」
残念そうにセバクターは頭を振り、シリルは怒りの表情を露わにする。
「処刑されたのはその重罪人の人の罪ってのもあるけど、連れ去られた人達の命を粗末に使っているのはハッキリ言って外道ね」
そうポツリと呟くミネット。
やっぱり、この騎士団とギルドの連合軍のやっている事は相当に惨たらしいものらしい。
「じゃあ、あのユフリーって女もそれを知っていたのか。あんた達のスパイとしてこのおっさんを騙して監視していたけど、おっさんも最終的にあの薬品漬けになった奴等の様にあそこに入れられるのか?」
だが、そのエルマンの質問に答えたのはセレイザでは無く、ギルドトップの帝国の英雄でありユフリーの彼氏でもあるエジットだった。
「いや、それは無い。この男は異世界の人間だし、魔術が効かないって言うのは俺の経験から個人的に知っていたからな。そもそもユフリーはここの地下の研究施設については余り知らなかったんだ」
「え? 何でだよ」
「この地下の研究施設の事は国の中でも騎士団長のこの人、それから師団長の人間までしか知らないトップシークレット扱いの事実になっている。かん口令が敷かれているから一般住民や旅行者はおろか、騎士団の部隊長クラスでも知る事は不可能って訳さ」
「だから地下水路に続く出入り口に、わざわざ騎士団員の見張りをつけていたって事か」
パーティメンバーが合流する寸前に気絶させられたあの騎士団員の事を思い出し、イルダーは納得した。
しかし、その話を聞いたニールにはまたもや疑問が。
「だったら何故御前はこの事を知っているんだ? 自分でたった今その口で言っていた通り、この研究や開発の事実が騎士団でも騎士団長から師団長までしか知らない様な、俺がもしこの世界の住人だったら一生知りえる事が無かった、トップシークレット扱いの最重要極秘情報なんだろう? そもそも他の騎士団員やらギルドの仲間達を連れて来て、その事を話すべきでも無いと思うけどな」
忠告を含めたニールのセリフには、再びエジットからセレイザに回答者が戻る。
「エジットはギルドトップの自他共に認める凄腕の冒険者だからだ。私から直々に任務を回す事も多いからな。騎士団にこそ属していない非軍属の人間ではあるにせよ、そこまで関わってしまったらいずれ戦争でも活躍して貰う事に変わりは無い。だから将来、生物兵器を扱うリーダーとして育成する時の為に、このエジットは特別にここへの出入りが許されていたと言う訳だ。これで納得か?」
「ああ、とっても」
この国の……いや、この世界の人間じゃ無くて良かったと心からそう思ったニールだったが、そんなニールにセレイザが感謝の言葉を述べ始めた。
「こちらとしては、御前達がこの帝国内を回って様々な場所に行ってくれたおかげで、最終的に開かずの間だったこの場所をこうして開けてくれて感謝するよ。おかげでこちらが色々動かなくても良くなったので手間が省けた。封印を解ける特異体質の男もこうして目の前に居るみたいだから、これからもこちらに協力して貰わなければな?」
そう言われても、今までの事があったニールはサラサラそんな気は無いのが現実である。




