175.試練
扉の向こうに踏み込んだ7人が見たものは、両開きの鉄製の扉とその横を守る様に設置されている2体の銅像だった。
その銅像を一目見た瞬間、この部屋で自分達が何をすれば良いのかすぐに察しがつくメンバー全員。
「ちょっと待ってろ」
シリルが踵を返して、先程ニールがロングソードを差し込んでカギにした穴からそれを引き抜こうと引っ張ってみる。
すると、思いの外あっさりとそれはすっぽ抜けてしまったので、それを持って再び部屋の中へ。
ロングソードは扉の横の穴から外しても何も問題は無いらしい。
引っこ抜いたそれを、部屋の奥に見える扉の横の銅像に組み合わせるらしいとシリルは考えた。
何故なら2体の銅像はそれぞれ甲冑の騎士のものなのだが、それぞれ不自然なシルエットなのだ。
全員から見て左にある銅像は、本来盾を持っている筈の左手にそれが無い。
扉を挟んだ反対側にある右の銅像は盾を持っているものの、左の銅像が右手に構えているロングソードがあるべき場所に無い。
今まで回収した複数のアイテムと、その銅像を見た瞬間もう既にパーティメンバーが状況を察するのも無理は無いだろう。
「僕は右だ」
「なら俺は左で」
イルダーとエルマンがニールからそれぞれロングソードと盾を受け取り、イルダーがロングソードを握っていない銅像にロングソードを持たせ、エルマンが盾を持っていない銅像に盾を持たせてみる。
他のメンバーは彼等の行動を見て、一体これから何が起こるのかを身構えながら待ってみる。
……が。
「あれ、何も起こらないな?」
「本当ね」
エリアスとミネットが首を傾げるが、その横でシリルがある事に気が付いた。
「ん?ちょっと待て。その扉って何だか変じゃないか?」
「何処が?」
「ほら……ここ、ここ」
視力の良い狼獣人のシリルが、人間である他のメンバー達には気が付かない違和感を覚えて扉を指差す。
シリルが指差した部分には、確かに狼獣人の彼で無ければ気付かないであろういびつな形の窪みがあった。
それを見て、ピンと来たニールが自分のズボンのポケットから「あの」破片を取り出して近づけてみる。
「ああ、ここにピッタリ当てはまるな」
納得したニールは、躊躇せずにその破片を形の合う窪みにグイッとはめ込んでみる。
するとその瞬間、ガコンと何かが動く音がしたかと思うと扉が眩しく光り出した!!
「うぐ!」
「うっ……!!」
「うおお!?」
「きゃあ!?」
「うわっ!?」
「ぐぅ……!!」
「うわあああっ!!」
その眩い光に、扉の前に立っているニールを始めとしてメンバー全員が腕や手で顔を覆う。
そして光が収まったかと思うと、扉の目の前に光が集まって人の形を形成しているではないか。
それは銀色の短髪で、魔術師の様な白いローブを着込んでいる男だった。
「だ、誰だあんた?」
光の男に問い掛けてみると、彼は当たり前の様にこう名乗った。
『我はこのカンバジール遺跡の精霊、ナスティアだ』
(女みたいな名前だな)
姿形はどう見ても男なのに……と心の中でニールは戸惑いつつも、更に質問をぶつけてみる。
「精霊って存在は初めて聞いたんだけど、えーと……この場所の主って考えれば良いのか?」
『そうだ。そなたはこの我を呼び起こしてくれた。欲にまみれたこの世界の住人が、我の大事な物を持ち去ってしまって早2000年……ようやくまたこうして姿を見せる事が出来た。感謝するよ』
そう言うナスティアに対して、ニールは今の自分が抱えている疑問を素直にぶつけてみた。
「俺は……自分の世界に帰れるのか? それともこの世界で一生暮らさなければならないのか?」
2000年以上も生きている精霊とやらなら、きっと何か地球に帰る為の手掛かりを知っているかも知れない。
封印云々に関してはニールは当然の事、他のパーティメンバーも今ここに来て初めて知った話。
だが、ニールにとっては自分が地球に帰れるのかどうかと言うのが1番大事だ。
その質問に対し、ナスティアは簡潔に答える。
『結論から言えば、この扉の先にその帰る為のヒントがある』
「えっ、そうなのか!?」
思わず喜びの声を上げるニールだが、まだナスティアの話は終わっていない。
『そうだ。しかし、そのヒントをしっかりと読み取れるかどうかはそなた次第だ』
「ん? どう言う事だ?」
読み取れるのが自分次第だって? と首を傾げるニールに対して、ナスティアはとんでもない事を言い出した。
『そなたがそれに相応しいかどうか、我が試練を出して試させて貰おうと思ってな』
「試す?」
『ああ。そなたの強さの証明だ。ここまで色々な苦労がさぞかしあった事だろう。その苦労を乗り越えて得た強さを我に見せて欲しいんだ』
ここに来てまさかの試練。それも、自分の強さを見せる事が出来なければ地球へのヒントが与えられないのだと言う。
「……それをやれば、地球に帰れるかも知れないんだな?」
『帰れると言う保証は完全では無いぞ。それでもそなたは試練に挑戦するか?』
聞かれなくても、既にニールの中で答えは決まっていた。
「やるに決まっているだろう。ここで乗り越えるべき試練があるなら、俺はそれを乗り越えるだけだ」




