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171.悲しみと怒りと絶望と

 時は少しさかのぼり、ニールがベッドで目を覚ました丁度その頃。

 帝都から少し離れた場所に突然現れたあのタワーの中で、ユフリー達の帰りが遅い事を疑問に思ったセレイザとエジットの騎士団とギルドの連合部隊が到着し、ギルドチームのリーダーである男の絶叫が響き渡っていた。

「ユフリー……ユフリいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 既に事切れて物言わなくなった身体を抱きかかえ、ソルイール帝国の英雄エジットは吹き抜けのホールで涙を流しながら天を見上げて大声を上げていた。

 その横では彼と旧知の仲であるソルイール帝国騎士団長のセレイザが、何も言わずにただ立ち尽くして様子を見ているしか無かったのだが、彼の頭の中では今のエジットが抱きかかえているユフリーの死因が既に特定出来ていた。

(後頭部からの出血が特に酷い形跡が見られると言う事は、余程強く頭を打ち付けたのだろう)


 そう思いながら吹き抜けのホールを見上げてみれば、その落ちたと思わしき場所がすぐに特定出来た。

(成る程、あそこからならこの位置に落ちるのも納得出来る)

 上に見上げた先に見えるのは、吹き抜けのホールを空中で繋いでいる何本もの通路。

 その内の1つ……それも1番上にある通路に大穴が開いているのが肉眼で何とか確認出来るので、ユフリーはあそこから頭を下にして落下したのだとイメージ出来た。

(足を滑らせて落ちたか、あるいは誰かに落とされたか……)


 そう思いつつ上空を見上げるセレイザの姿に気が付いたエジットは、ユフリーをそっと地面に下ろして涙を拭う事もせずにツカツカとセレイザに近付き、胸倉を掴み上げた。

「おい、オッサン!! あんた何でこんな時にそんな呑気な顔してんだよ、ああ!?」

「……別にしていないが」

「嘘つけ、してただろーよ今、ここで!!」

 ドンドンと自分の履いているブーツの底で地面を強く踏み鳴らすエジットだが、そんな彼にもセレイザは表情を変えずに冷静に告げる。

「悲しむ気持ちは分かる。私だって悲しい」

「悲しそうに見えねえんだよ!!」

「そうだとしても、今の御前はやるべき事があるんじゃないのか?」

「……やるべき、事……」


 胸倉を掴む勢いが弱まったのを感じつつ、セレイザは地面に横たわったままのユフリーの遺体に顔を向ける。

「あのままで良いのか?」

「……」

「ユフリーはここで誰かと戦ったのだろう。ここに来るまでに魔物の死体が至る所に散乱していたし、ここに来てからは騎士団員の死体が転がっていた。普通に考えれば魔物と戦って殺されたのかも知れない。現に、最上階ではケルベロスの死体が発見されている訳だからな」

 しかし、とセレイザはその予想を否定し始める。

「仮にケルベロスと戦って殺されてしまったのなら、ここまでわざわざ戻って来たりはしないと思うが」

「……そりゃ、まあ……」

「それに、ケルベロスはかなり凶暴な魔物として有名だからユフリー1人で手に負える様な相手じゃない。しかも、ユフリーのものと思われる血どころか血痕の類は屋上に一切無かった。風で吹き飛ばされたか、雨で流されたか……にしては、ユフリーの遺体の状況を見る限りまだ時間が経っていない。死後硬直も始まって少ししか経っていない。となると……」

「……そうか、ユフリーはここで誰かに殺された可能性が高いって事になるよな」


 セレイザの冷静な分析を聞いていたエジットも、ユフリーの遺体が自分に何をすれば良いのかを教えてくれていると分かった。

「やるべき事は分かるだろう?」

「ああ。嫌って程に分かるぜ。ユフリーは誰かに殺された。俺との結婚も控えていた……。その俺達の未来を奪った奴を、絶対に許す訳には行かねえ!!」

 ユフリー達だけで調査に行かせなければ良かった、と後悔してももう遅い。

 時計の針は2度とは戻せない以上、ユフリーの仇は絶対に取らなければエジットも納得出来ない。

 勿論セレイザも最大限協力する予定なのだが、ユフリー達の部隊を殲滅させた存在は一体何なのかの見当を付けなければならない。


 だが、その見当は既にエジットの方で付いていた。

「恐らく、ユフリーを殺したのはあの魔力を持たない奴とその仲間連中だと思う」

「何故分かる?」

「ここは封印されていた遺跡の1つだろう? 出入り口の付近には強力な魔術防壁が掛かっていた形跡があったし、それを解除出来るスイッチも下で見つけたしな。それからあの宝を持って帝都に来たユフリーからの報告を聞いていた限り、1つ目の遺跡も2つ目の遺跡も魔力を持っていないあの茶髪の男だって言っていた。考えられるのはそれしか無えんだよ」

「ふむ……確かにその線が濃厚だな」

 ユフリーからの報告をエジットと一緒にセレイザも受けていただけあり、あの魔力を持っていない男なら魔術防壁の影響を受けないので、この場所の封印を解けるのも頷ける。

「分かった。一先ずここの処理は部下に任せて私達は帝都に戻ろう。それから帝国中に捜査網を敷き、何としてでもその男を捕まえるんだ」

「言われなくてもやってやるさ。あの男だけは絶対に見つけ出して、ユフリーを手に掛けたって事を手足を斬り落としてでも白状させてやんぜ!!」

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