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169.魔術研究所とスマートフォン

 こうして中に入ったは良いものの、窓を抜けた先で着地した通路は薄暗くて、このままではまさに一寸先は闇の状態である。

(何か明かりがあれば……あ、そうだ、これがあった)

 何かを思い出し、ゴソゴソと青いズボンのポケットからニールが取り出した物は、以前地図の写真を撮影するのに使ったスマートフォン。

 このディスプレイの光をライト代わりにして進んで行く事にした。テクノロジーの進歩と言うのは恐ろしい。

 そんなテクノロジーの産物である、一緒にこの世界に来てしまったスマートフォンに再び役に立って貰う時が来たので、ニールはそれを最大限に活用して進む事にする。


 研究施設の内部は恐ろしい程静かで、見張りは元より人の気配も無い。

 それでも、ただ単に自分が気が付かない所で人が働いていたり警備しているかも知れないので油断せず、スマートフォンの明かりだけを頼りにして辺りの気配と先の様子を窺いながら進んで行く。

(おかしい……やけに静かだ。これは何かの罠か?)

 慎重に足を進めるニールだったが、それと同時に調べなければいけないのは研究所が展開しているらしい魔術防壁の解除と、この研究施設で一体何が行われているのかと言う事であった。

 今、自分はただのステルスアクションを行っている訳では無く、ステルス行動をしながらのこの施設の調査だ。

(俺が地球に帰る為のヒントが、ここにあって欲しいが……)

 せっかくここまで潜入する事に成功したのだから。地球に帰るヒントもここに無ければ困るとばかりに進んで行く。


 そんなニールの前に、1つの気になるドアが現れた。どうやらカギは掛かっていない様だ。

(ここは……?)

 恐る恐ると言った感じでそのドアを開け、スマートフォンの明かりを頼りに壁伝いに進もうとした……次の瞬間!!

「っ!?」

 何といきなり明かりがついた。

 誰かがこの部屋に居たのか!? と素早く身構えるニールだったが真相はどうやらそうでは無かったらしい。

(これは……ああ、スイッチか)

 ドアの横についている丸いボタンが照明のスイッチになっているらしく、壁に掛かっている古風なガラスのランプに明かりがつくシステムらしい。


 とにかく明かりの仕組みが分かったが、この明かりが部屋の外に漏れていると誰かに気が付かれないとも限らないので部屋のドアを閉める。

 部屋の中は何かの図面が置いてあったり、変な薬品がテーブルの上に置かれていたりと以前何処かで見た光景とそっくりである。

 チラリと覗き込んだその図面には、色々なファンタジー映画で見た事のある様な模様が事細かに描かれていた。

(何だこれは? 俺にはさっぱりだが……映画とかの知識を借りれば多分これは……魔法陣?)


 しかし文字は全く読めない。

 少なくとも英語でないのは確かだし、インドの文字で無い事も何と無く分かる。異世界の文字であろうか?

 とにかくニールにはその図面が何を意味しているのかがさっぱりだ。

(他の部屋に行ってみるか)

 これ以上ここに居ても何も収穫が無さそうなので、明かりを消して部屋を出る。

 とにかく明かりが点くと言う事が分かっただけでも大きな収穫だったので、部屋の中でスマートフォンの電源を切って明かりをつける事で、バッテリー切れの心配は無くなったらしい。

(本当にここに俺が地球に戻る為のヒントがあるのか……?)

 頭の中でそんな事を考え始めると一気にネガティブな感情で不安になってしまうので、とにかく他の部屋も探索する事にしたのだが、その探索でニールの身にとんでもない事件が起きてしまう!!


 次に気になった部屋は、その通路の突き当たりにある両開きの鉄製のドアだった。

 さっきのスイッチの存在を知った部屋の、手前開きの一般的なドアとは違う雰囲気を纏っている。

(ここが凄く怪しいな)

 ドアの先を耳で窺って人の気配が無い事を確認してから中に入り、スマートフォンのライトと手探りでスイッチを探してそれに触れる。

 やけに冷たい風が吹いて来るので、何処からか風が入り込んで来ているのかも知れない。

 そして電気のスイッチは、開けたドアの片側の裏側に隠れてしまって見えなかっただけの様だ。


 しかし、その明かりがついた瞬間ニールは息をのむ。

「……っ……!?」

 ドアの先から冷たい風が吹いて来ている原因は、そのドアの先が下に続く階段になっていたからだった。

 もしあのまま進んでいたら階段の下に転げ落ちていただろうかと思うと、今更ながら自分の用心深い性格に感謝した。

 ほっと胸を撫で下ろしたニールはドアを閉めてカギを掛け、階段をまた用心深く下りて行く。

 すると、今度は自分の耳に水が流れる音が微かに聞こえて来た。

 本当に僅かにチョロチョロとしか聞こえて来ないし、今だって自分の足音でかき消されてもおかしくないレベルのボリュームのその水音。

(……あれ、まさかここの先にあるのって……)

 地下に向かって伸びる階段と、それを地下方向に進んでいる今の自分。

 それから自分の耳に聞こえて来る僅かな水音。

 その全てをひっくるめてニールは納得し、期待と不安が入り混じった感情を胸に更に階段を下りて行く。

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