16.再会
「ふうん、そんなのがあるのか……」
とは言うものの、今まで以上の能力を引き出せるとなれば間違い無くこの世界でも苦労はしないだろうと考えるニール。
しかし今はこの魔道具とやらに構っている暇は無い。
機会があれば手に入れたい所だが、今はまだやる事があるし金銭的にもシチュエーション的にも余裕が無いので諦めてもう1度外の様子を窓から窺ってみる。
すると、いかにも「それらしい」連中がメインストリート側をうろついているのが見えた。
(こっちには気付いてない様だな……)
周囲を窺いながら通り過ぎて行くその連中を見て、ニールは気が付かれない内に脱出を試みる。
この建物に隠れているからと言って油断は出来ない。
ここに逃げ込んだのは間違いだったのかも知れない、と思いつつもニールはしばらくこの建物の中に身を潜める事に再度決めた。
(これから俺、どうなるんだろうな……)
元の世界に帰る為の手掛かりをまだ見つけていないばかりか、逆に理不尽な理由で捕まる可能性がある今の状況。
怪しい人間だとギルドの英雄やその彼を慕う連中に知られている以上、捕まってしまえば何かの実験台として利用する可能性だって100パーセント否定出来ないからだ。
そう思ったからこそこうして逃げ出して来た訳だが、もっと良く考えて行動すべきだったかなと思っていた矢先に、カランカランと来客を告げるベルが鳴って入り口のドアが開いた。
(ん……?)
何の気無しにニールがそちらを見てみれば、何とそこには自分が探し求めていた人物の姿が。
「あ、ここに居たの?」
「えっ?」
呆れた様な、それよりもどちらかと言うと頭に来ている様な口調で問い掛けて来るその人物だが、ニールはその人物が何故こうしてここに居るのか、何故ここが分かったのかを聞きたいのだった。
「ま……待て。君は何処からどうやってここに来て、何故俺の場所が分かったんだ?」
「ちょ、ちょっと、あなた言葉が支離滅裂になってるわよ。貴方が来るのが遅いから宿屋に行ってみたら何か揉め事を起こしたって聞いたから、色々と目撃情報を辿ってここに来たの」
「目撃情報……」
だったら納得出来ると頷くニールだが、ここにやって来たユフリーの方はまだ納得出来ないらしい。
何でこんな事になったのかの経緯がまるでユフリーには掴めないのだが、ともかく最後までまずはニールの話を聞いてみる事に。
「俺は……あのエジットって奴を慕う連中にあの宿屋からずっと追い掛け回されていたんだ」
ニールが今までの事を一言で説明すれば、それだけで何がどうしてこうなったのかをユフリーは察知出来たらしい。
「英雄の……ああ、それなら分からないでも無いわ。あの英雄は本当にカリスマ扱いされているからね。若手ナンバーワンってだけでも凄いのに、例えば魔物の群れが巣食う洞窟にたった1人で乗り込んで殲滅して帰って来たとか、30人以上の荒くれ者が村を襲っている所を逆に襲って1人で全て殺したとか、とにかくその活躍エピソードには事欠かない人物だから慕う冒険者や傭兵も多いわ」
それでも、自分がああまで追い掛けられる理由は見つからないとニールは反論する。
「だからと言って俺があんなに追い掛け回される理由は無い筈だ。だってそもそも俺は何の関係も無いんだし、向こうが因縁を吹っかけて来ている様にしか見えないからな」
「それはそうね。だとしたら、あのエジットが自分を慕っているギルドの人間に貴方の事を色々と悪く吹き込んでいる可能性もあるわね」
悪い方に話の流れを考えるユフリーに対し、ニールはハアーッと溜め息を吐いた。
「だとしたら更に厄介だな。俺が一体何をしたって言うんだ」
「貴方がギルドの仕事を邪魔した……位しか私には心当たりが無いわね」
あくまでも第三者の立場として見るならだけど……と付け足すユフリーだが、彼女の言い分に対してまだ異論を唱えようとしたニール。
だが次の瞬間、ニールとユフリーが潜伏している雑貨屋のドアが不意に大きな音を立てて開かれた。
ニールとユフリーがそのドアの方にバッと顔を向けると、そこには今朝の宿屋で自分に因縁を付けて来たあの痩せ身の男が、自分の武器であるシャムシールを片手に立っていた。
「ようやく見つけたぞ。さーて、今度こそもう逃がさないからな」
「ちっ……」
シャムシールを構える男に対して、ニールはカラリパヤットの独特な構え……右腕を内側に、左腕を外側にして両腕をクロスさせ、それぞれ反対側の手で耳を覆う。
「何だ、その構えは……」
思わず口に出してしまう程に警戒心を強めた痩せ身の男だったが、黙っていても始まらないので自分からシャムシールで攻撃を仕掛けた。
そのシャムシールの振り下ろしを回避せず、逆に男の腕に向かって自分の腕を突き出して弾き返すニール。
それでも男もシャムシールをまた振り下ろすが、手で弾いて的確にブロックするニール。
「ぐっ……!?」
幾ら攻撃してもブロックされてしまうので、今度は振り下ろさずに突き攻撃を中段から繰り出す男。
それを見たニールは攻撃を素早く回避し、男の右腕をがっちりと両手で掴んでそのまま捻り上げて肩を支点にして床に捻り倒した。




