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159.思わぬ収穫

「そう言う行方不明って言うか、誘拐事件が多発しているって事か?」

「ああ。それで……俺達が調べた所、この事件にもどうやら騎士団が関わっているらしい」

「騎士団が?」

 騎士団はそう言う誘拐事件を取り締まる側の立場の筈なのに、それに加担しているとなればこれは大問題であろう。

「何でそれが分かったんだ?」

「俺からそれは説明するよ」

 誘拐事件と騎士団の関係について手を上げたのはエリアスだったが、徐々にこの事件の全貌が見えて来そうな話を彼の口から4人組の方が聞く事になる。


「3人で手分けして情報収集をしていたんだが、俺は「明らかに人間の頭が出ている袋を抱えた騎士団員が、地下のこの水路に入って行くのを見た」と証言する住民と出会ったんだ」

「それって……」

 4人組の方がエルマンに顔を向ければ、彼はまた無言で頷いた。

「そうだな、エルマンが言っていたその誘拐された浮浪者の可能性が高い。そもそも普通は人間や獣人を袋に入れて運ぶなんて事は絶対にしないだろう。そして、それに武装した連中や騎士団の団員が関わっているとなれば……」

「武装した連中って言うのは、ギルドの冒険者達の可能性が高いって事ね」


 この帝都で……いや、このソルイール帝国で一体何がされようとしているのかが段々分かって来た7人。

 しかし、まだ全貌は見えて来ない。

「それ以上の話はまだ掴めていないからこの地下水路にこうやって来てみたんだが、この水路は行き止まりだって?」

「ああ、そうだよ」

 せっかくここまで情報を集めたと言うのに、歯がゆい気持ちで一杯の全員。

 特にニールは元の世界に帰る手掛かりも掴めていない状態でこんな大層な事に巻き込まれてしまっているので、他の6人より募るイライラが大きい。

「この男からも大した手掛かりは得られなかったし、アイテムもアイテムで見つかってないし……」

 そう言いながら、ニールは靴の裏で地面に倒れたままのディルクの屍を小突いて揺らす。


 だが、その悔し紛れの行動が思わぬ事態を呼ぶ。

「……あれ?」

「どうした?」

「いや、ちょっと待った……ここでほら、何かが光ったんだが……」

 ディルクの首元でキラリと何かが光ったのが見えたニールは、その部分にゴソゴソと手を伸ばす。

 すると、彼の着ている赤いアンダーシャツの隙間から覗く細い鎖に気が付いた。

「ペンダント……?」

 こんな物を彼は身に着けているのか? とこの男の事を良く知っていたであろうセバクターに尋ねるニールだが、セバクターも首を傾げた。

「いや……俺はそんな物を着けている所を見た事は無いぞ?」


 その返答に、今度は違う質問をして確かめたい事があった。

「あんたが最後にこの男に出会ったのは何時だ?」

「確か……5年前だな」

「5年前か。それならこんなアクセサリーを持っていても不思議では無いんだが……5年持っているにしてはやけに奇麗じゃないか?」

 最近手に入れた物なのかも知れないと考え直すニールだが、その様子を見ていたエリアスが別の話を持ち出した。

「それ……かなりの魔力が含まれているね」

「えっ、これにか?」

「ああ。確証は無いけど、あの最初の遺跡で見つけた剣とか、次の遺跡で見つけた盾も凄い魔力を持っていたし、あの女に取られた破片からも大きな魔力が感じられたよ」


 だとすると……と7人の視線がニールの手の中にあるペンダントに注がれる。

「これ、もしかしてあのタワーの……」

「可能性は高いな」

 冷静に呟くセバクターの声に、「ここに戻って来なかったら、危うく大事なアイテムを見逃す所だった……」とニールはホッとした声で呟き返していた。

「何か、どうもありがとう」

「……ああ」

 別にこれを見つけようとして戻って来た訳では無いので、偶然って本当に凄いし怖いなと7人全員が思っていた。


 その思わぬ収穫を手に、7人は地下水路をあのニールのスマートフォンに記録した地図を頼りに歩き回ってみたが、物事はそうそう上手く行かないらしい。

「うーん、やっぱり地下水路で他に怪しい所は見当たらないな」

「でもさ、この地図で言うとどう考えてもこの先に通路がある筈なんだよね」

 頭をガリガリと掻きながら悩むエリアスの横で、目の前にそびえ立つ冷たい灰色の石造りの壁を見ながらそう言うイルダー。

 地図によればこの先にも通路がある筈なのに、目の前には壁しか無い。

 ゴンゴンと叩いて壁が動くかどうか調べてみたり、何かスイッチらしき物が周辺に無いか探してみたりしたが、どうやら本当にただの壁の様だ。


「埋まってんのかな、ここ……」

 行き止まりまで来てしまったので、これは戻るしか無いだろうと今は諦める事にする。

「仕方無い、何処か別のルートがある筈だから一旦外に出よう」

 あの気絶させている見張りに意識を回復されたら、ここに部外者が立ち入った事が騎士団員に広まってしまうだろう。

「あーあ、ここまで来たのにこれかよ……くそぉ!!」

 引き返さなければならない悔しさで、人間には出せないレベルのパワーでその壁にミドルキックを突っ込むシリル。

 そのキックによって、カァーン……と石造りの壁にしては妙に甲高い音が通路にこだました。

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