158.消える住民
「言っておくが、あんたじゃこの伝説の傭兵様には勝てないぞ。断言しても良い」
「断言されても困る。そもそも俺は戦うつもりなんて無いからな」
こっちもそれだけは言っておくぞとニールは口に出すが、それはセバクターが許してくれない様だ。
「おい、俺の話を聞いていたか?」
「ああ、聞いていたとも。あんたは俺に決闘を申し込んだ。だが俺は戦うつもりは無い。戦う理由が無いだろう」
「理由だと?」
「ああ。俺は意味の無い戦いはしない主義なんでな」
傭兵の前に、1人の戦士として生きて来た自分にとっては、自分よりも強いかも知れない相手が居るのであれば戦いたいと思う気持ちが強いセバクター。
伝説の傭兵と呼ばれる事に対しては余り良い気はしないものの、因縁の相手だったディルクを倒されたとあっては自分の生きがいの1つが潰された気がしてしょうがないのだ。
そんな感情によって引こうとしないセバクターと、それに対して横槍を入れるシリルと、2人に対して面倒臭いと言う気持ちしか湧き出て来ないニールの3すくみ状態に向かって、更に口を挟む人間が1人。
「そんな話は後で良いじゃない。何よりも優先してやるべき事が私達にはあるんじゃ無いのかしら?」
ミネットのその声で我に返った3人は、それもそうかと脱線していた話を本来の路線に戻す。
「ならこの話の続きは問題が解決した後だ。だが勝負の話は忘れるなよ」
「どうだかな」
明らかに棒読みでセバクターに返答するニールを見ながら、シリルが脱線する前までの話を思い出す。
「ええと……ああ、ここで何があったかって話だったな。それは俺達のこれまでの話も全て含めて、ニールがさっきあんたに話した通りだよ」
「分かった。その魔法陣であんた達はここに出てここで戦ったんだな」
これまでの経緯を再確認したセバクターは、今度は自分とイルダーとエルマンがここで色々と情報収集した結果を話し始める。
「この地下水路の情報を手に入れる前、帝都で起こっている奇妙な話を聞いたんだ」
「奇妙な話?」
「結論から話すと、物乞いとかの身元が良く分からない人間や獣人がドンドン姿を消しているって話だ」
「何だそれ? この帝都でそんな事が起こっているって言うのか?」
そんなに次々と帝都の人間や獣人が姿を消しているのなら、それだけでかなりの騒ぎになってもおかしくない筈だし、騎士団の捜査があるのが普通だろうと4人組の方は考える。
しかし、3人組の方が言うにはつい最近になって発覚した問題らしい。
「なかなか明るみに出ない事情があったらしい。まず、身寄りの無い浮浪者や物乞いの住民と言えば、普通は敬遠される存在だよね?」
「まぁ、普通は確かにそうだな」
アメリカでもホームレスは山程居る訳だし、そう言う人間に面白がって近付く様な事はニールもしたくないと考えている。
それはこの世界でも同じらしいのだが、その「他人が寄り付かない」と言う事実がポイントらしいとイルダーは続ける。
「だとしたら、そう言う人達は結局道端で除け者扱いにされて路地裏とかでひっそり暮らす連中も居る。そうした人達が続々と姿を消しているらしいんだ。それもある日突然居なくなっちゃうんだって」
イルダーの報告を黙って聞いていたミネットが、そこで疑問を覚える。
「それって、ただ単に路上生活から抜け出したか、別の場所にテリトリーを映したか、あるいは命を落としたか……って話じゃないのかしら?」
「うん、普通はそう思うでしょ? 僕もエルマンもそれからセバクターも同じ事を考えたんだよ、最初はさ」
だけど……と話を続ける素振りを見せながら、エルマンに向かってアイコンタクトを送るイルダー。
その先はエルマンの口から語られる。
「俺がこの帝都の路地裏で店やってる住人から話を聞いたんだけど、店の外から争う音が聞こえて来たんだってよ。言い争いもそうだけど、何やら暴れている浮浪者を制圧しようとしていた奴が居たんだってさ」
「それは騎士団の連中じゃないのか?」
今度はシリルが疑問をぶつけるものの、エルマンが聞き込みをしたその店主は騒動に巻き込まれない様に店の中から見物していたその光景を話してくれた。
「いいや、その制圧しようとしていたのは2人だったらしい。どちらもそれなり武装していたらしいけど、騎士団の制服では無かったって話だ。その2人は浮浪者を制圧して気絶させて、そのまま浮浪者を持ち上げて連れ出して路地裏から姿を消してしまったらしいんだ」
「んー、気絶させて連れ去るって……それって誘拐じゃないか?」
それこそ騎士団の出番だろうに、とニールを始めとする4人側は思うものの、更にエルマンから衝撃的な事実が告げられる。
「俺もそう思って、その連れ去り事件を騎士団に通報しなかったのかって店主に聞いたんだよ。そうしたら店主も急いで通報したって言うから、そこはちゃんとやってたみたいなんだけどよ……」
「結局、その連れ去られた浮浪者は見当たらなかったって事か」
シリルの呟きに対し、エルマンは無言で頷いて肯定した。




