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155.持ってて良かった、スマートフォン

「おっ、おい、何処に行くんだよ!?」

 走り出して自分達の横をすり抜けたニールを追い掛けて、他の3人も当然走り出す。

 そんなニールの後に続いて、再びディルクの屍が転がっている壁画の部屋に戻った一行。

「一体どうしたんだよ?」

「わざわざここまで戻って来て、貴方は一体何をするつもりなの?」

 不可解なその行動に次々と口をついて疑問が出て来る3人の前で、ニールはゴソゴソとポケットからある物を取り出した。


 それは……。

「良し、まだ生きてた!」

 口の端に笑みを浮かべてそう呟くニールの手には、地球から一緒にこの世界にやって来たスマートフォンだった。

「何、それ……?」

「これはこっちの通話魔術の様に、離れた所に居る相手と話をしたり手紙を送ったり出来る機械だよ。俺の世界じゃもう当たり前に普及しているんだ」

 ボタンを押して電源が入ったスマートフォン見てそう言いながら、ロックを解除したニールは更に笑みを浮かべる。

 1つ目の遺跡でトラップに引っ掛かり、大量の水と一緒に流されてしまった時には当然スマートフォンも水没しているので使えないだろうとニールは諦めていた。


 だが、そのスマートフォンの事で思い出した記憶を頼りにしてこの壁画の前まで戻って来たニールは、その記憶が正しかったんだと安心する。

「こうした機械は水に非常に弱いんだけど、カラリパヤットのトレーニングの為に俺は海に行く事も多いから、万が一水の中に落としてしまっても安心出来る様にこれを防水ケースに入れているんだ」

 まさか異世界に来てまで、その防水ケースが役に立つ事になるとは思いもしなかったニール。

 その判断をした過去の自分と、防水ケースの開発者に感謝しつつ今度はカメラアプリを起動させる。

 それを壁画の地図に向け、パシャッと撮影して記録しておく。

「良し、これで地図がこの中に記憶された。見てみろ」


 スマートフォンの写真を目にした異世界の住人3人は、高画質で記録されているその写真を見て驚きの声を上げた。

「……おお、確かに全く同じじゃねえかよ!!」

「すごーい、どうやってるのこれ?」

「これがあんたの世界で当たり前に使われている技術なのか?」

「そうだ。俺の世界は機械文明が発達して、今では何でも小型化している時代だからな。とは言え、俺はこうした物に関してはどうやって作っているのかは知らないから、聞かれても説明出来ないぞ」

 実際の話、工場で組み立てている事や中に精密機器が入っている程度の事しかスマートフォンについて知らないニールは、中身の話の説明が出来ないのだから聞かれても困るのだ。


 写真撮影も済ませて地図を記録した一行は、その撮影した地図を見つつ今の自分達が何処に居るのかを確認しながら歩き回る。

 だが……。

「んー、広過ぎるから何処がどうなっているのかさっぱり……」

「歩いているのって今ここじゃないかしら?」

「いや、それだとあそこの曲がり角が一致しないだろ」

 地図があっても無くても、この一行の地下水路探検に関しては大して展開に変わりが無い様である。

 それでも手元にこうして地図があるのと無いのとでは、やはり安心感が段違いだと実感していた。

 その安心感が、なかなか自分達の居場所を把握出来ない4人の足を進ませる切っ掛けになる。


「あ……ほら、今の場所ってここじゃないかしら?」

「おお、そうだな!!」

「あー、やっとこれで居場所が分かったよ!!」

「長かったな……」

 その切っ掛けが4人の足を動かして、ついに自分達の居場所を特定する結果に繋がったのだ。

 随分と長い時間この地下水路の中を歩き回っていた気がするのだが、スマートフォンの右上に表示されているバッテリーの横の時計を見てみると、確かに20分程ウロウロしていたらしい。

 しかし、今の自分達が居る場所が分かった安心感が脚を中心とする身体の疲れを吹き飛ばしてくれた。


「ええと……ここから真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がって、そこから3つ目の角を曲がれば……これが階段のマークだろうしここで地図が途切れているから、ようやく俺達は地上に出られると思うよ」

 エリアスがそう言うものの、それを横で聞いていたニールがさっきのミネットの話を思い出した。

「それは良いんだが、ほら……ミネットが言うには見張りが居るみたいだが?」

「あ……」

 そう言えばそうだった、と落胆するエリアス。

 出入り口の騎士団員の見張りをどうやってやり過ごすかがこの地下通路から地上に抜けるルートの最終関門になりそうだ。


 しかし落胆していても仕方無いので、4人はとりあえずその階段の前までやって来た。

「ここか……」

 あの壁画の部屋の扉に比べれば随分と小さな、しかも材質も鉄では無く木製の扉が4人の前に立ち塞がる。

 本来であれば、こんな木製の扉は普通にそのまま開けて通り抜けるだけだが、外側に居るであろう見張りの存在が4人の足を止める。

「……強行突破も考えておこう」

 後ろのパーティメンバーを振り向いてそう呟いたニールに対し、頷きで肯定の意を返す3人。

 それを確認したニールは意を決して、扉の方に足を踏み出した。

 が、その次の瞬間に何も予備動作無しでいきなり手前に強く開いた扉が、ニールの身体をピンボールのボールの様に弾き飛ばした。

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