144.裏の裏の更に裏
「これがその時のやり取りの全てだよ。その後に俺は何とかそいつから逃げ切って、その先の村であのユフリーと出会ったんだ」
「……正直、そのやり取りだけじゃ何とも言えないな。失格がどうのこうのって言うと何かのテストをしていた様にも思えるが、結局はその英雄様と騎士団長しか知らないって話になりそうだ」
セバクターが話を纏め、真相は結局本人達に聞くしか無いとの結論が出た。
「それはそれとして、これからどうするんだ?」
この酒場で、こうして何時までも料理をつまみながら話をしている訳にもいかない。
今日は宿屋に泊まって体力を回復し、明日の朝起きたら村で旅の準備をするとして、そこから先をどうするべきなのか?
そこでエスヴァリーク帝国騎士団長のセバクターから、信じられない作戦がこの後パーティメンバーに提案される。
今までの色々と長い話で本来の目的を忘れかけているので、ここでパーティのリーダーであるシリルが一旦その目的を整理する。
「まず、やるべき事をもう1度纏めよう。最優先に考えるのはあんたが元の世界に帰る事。これは良いな?」
「ああ」
「ならばその方法を探す事だが、あの回収したアイテムが関わっているかも知れないのであれを取り戻す事がその中で必要になる。それからあのタワーの中でそうしたアイテムが見つからなかったから、この伝説の傭兵様の因縁の相手である、あの闇の魔術師とやらも捜さなければならないな」
「それと、神のドラゴンも探すべきなんじゃないのか?」
ニールがそう言うものの、それについてはエリアスが首を横に振る。
「いや……多分、出会えたとしてもあんたが元の世界に帰れるとは限らないぞ?」
「何で?」
「前の異世界の2人は、確かにその神のドラゴンであるエンヴィルーク様とアンフェレイア様が呼び寄せた存在だ。それも、わざわざ自分達の使い魔をその異世界に向かわせて引っ張って来たっておっしゃっていた。だが、今回のあんたがこっちの世界に来た時の経緯はその使い魔の方達に出会っていない様だからな」
「……つまり、関係が無いって事か?」
エリアスは首を縦に振った。
「じゃあ俺、これからどうすれば良いんだ?」
「それをこれから先で調べなければならないんだ。だから……どうにかして、情報が多く集まる場所に向かわないとな」
エリアスがそう言う横で、アゴに手を当てて考え込んでいたセバクターが口を開く。
「……危険も伴う提案だが、これはどうだ?」
「ん?」
「ユディソスに乗り込むんだ。このソルイール帝国の帝都にな」
それは彼以外の全員が驚くのも無理は無い、明らかに無謀とも言える作戦であった。
「帝都に乗り込むだって!?」
「ああ」
「おいおい、冗談は時と場合を考えて言ってくれ。あんたの言っているのは敵の本拠地に乗り込むって事だぞ!!」
口々にパーティメンバーから反対意見が上がるが、そこも見越しての意見だとセバクターは言う。
「だからだ。一旦逃げた敵がわざわざこっちに戻って来る訳が無い……その真理を逆に利用するんだ」
セバクターが言うには、自分達が帝国騎士団の団員達とギルドの冒険者達に追われているその状況を前提とした上で、今まで幾度と無く命の危機に晒されていた。
タワーでのユフリー達との遭遇だったり、あの図書館に向かう前の修練場だったり。
それ等の危機的状況は全て、自分達が指名手配されて追い掛け回されていたからこそ起きたものでもある。
「向こうの気持ちになって考えれば、その追い掛け回されている連中が敵が沢山居る場所に戻って来る筈が無いと考えるのも無理は無いだろう。それに、こう言っては何だがメインで狙われているのはあんただけだろう?」
「……まぁ、そりゃあ……」
セバクターに問い掛けられたニールが首を縦に振った、
「と言う事は、その他の俺を含めた6人に関しては余り重要視されていない話になる。そして、俺はあのタワーで合流した人間だから、騎士団長と言う形で身分が割れているとしても、こうして一緒に居る姿を見せたのはほんの僅かな人数に過ぎない。だから、あんた以外のメンバーで帝都で情報収集をする事で、効率良く、そしてあんたと一緒に帝都に入るよりも安全に元の世界に帰る為のヒントが得られるかも知れない、と俺は考えたんだ」
「ほぉ……」
若いのになかなか頭が回る男だ、とニールは素直に感心した。
そのセバクターの提案について、疑問を投げかけるのはエリアス。
「もし、帝国が俺達の裏をかいて待ち伏せをしていたらどうする?」
「その時はまた裏をかくだけの事だ。そもそも、そのギルドと騎士団の合同計画が最後まで進んでしまったらこのソルイール帝国によって世界が支配される事になるから、そうなると俺のエスヴァリーク帝国も危ないんでな。計画を止める為には裏の裏の更に裏をかく位の事をしなければいけないだろう」
冷静な口調で、しかし何処か自信たっぷりな態度のセバクターに対して期待が60パーセント、不安が40パーセントと言った空気の他のパーティメンバー。
ポッと出て来てこうして……良く言えば大胆な、悪く言えば無謀な作戦を計画する彼を、本当に信用して良いのだろうか?
しかし、情報が多く集まるのは確かに帝都ユディソスなので反対意見は出ずに話が纏まったのも事実だった。




