143.仮説
そう言われても、ニールには何だかモヤモヤが残る。
「ギルドの実権を握って世界一になろうとしているのは分かったけど……それでも別に何の問題も無い様な気がするんだけどな?」
それについてはシリルが再び説明する。
「世界中のギルドの頂点に立つと言う事は、この世界を掌握したのと同じ意味になるんだ」
「何で?」
「この世界の冒険者はギルドへの登録が必須になる。つまり、どんな依頼も必ず1度はギルドを通さなければならないんだ。そうなると、あんたがあの裏切り者の女から説明を受けた通り、自分達に有利で待遇の良い依頼を優先的に受ける事が出来る。そして、ギルドが無ければこの世界の国々は成り立っていないと言っても過言では無い。魔物の盗伐とか、細々した依頼とか、その国の騎士団だけではとても人員的な問題で対応出来ないからな」
「それは何となく分かる」
「なら良い。じゃあもし、そのギルドの冒険者達が各国で反乱を起こしたらどうなると思う……?」
それを聞き、ニールの顔がハッとしたものになった。
「そうなると……かなりまずい事になるのは目に見えているな」
「例えば?」
「例えば……ほら、依頼が回らなくなるのは勿論だけど、騎士団に対して攻撃する立場にもなるだろうし……後は団体行動とか組織的に行動する騎士団とは違って、冒険者は個人でも複数人でも動けるから、そう言う問題を起こされた時になかなか犯人が捕まらなかったりもするよな」
「成る程、大体当たりだ。そして、そのギルドの連中を人間でも俺達獣人でも最終的に統一する人物が現れたとしたら……?」
「……だったら、好き勝手に色々と出来るギルドの王国の誕生って訳か。あの英雄と騎士団長が手を組んでこのソルイール帝国を本拠地としてしまえば、それだけで新しい世界が誕生してしまうって事だろうな」
あくまでもまだ仮説の段階にしか過ぎないが、この仮説が今の所1番の有力である。
しかし、それでもニールには自分がエジットに追い掛け回される理由と結びつかない。
「でもよ、俺はただ単に盗賊連中を倒しただけだ。それなのに何で俺があいつに追い掛け回されなきゃならないのか理解に苦しむんだがな」
「……それは俺達も分からないな」
シリルもセバクターも、他の4人も首を横に振って分からないと言う意思表示をする。
「その盗賊を倒した後に、あんたは英雄と出会ったのか?」
「ああ、そうだよ」
「それだったらその時のやり取りを思い出してくれないか?」
「やり取り……かぁ」
セバクターに言われて、あの忘れたくても忘れられないやり取りをニールは回想し始めた。
『お、おいあんた……』
『これ、あんたがやったのか?』
『そうだ』
『なっ、んだとぉ!?』
『はっ?』
『ギルドから依頼を受けたのはこの俺だ。一旦依頼を受けた以上、俺は絶対に任務を遂行する。それが何故先に手を出したんだ!?』
『え、いや……俺は追いはぎに遭いそうになってさ……だから撃退した。それだけだ。別に誰が倒そうが良いんじゃないのか? こんな奴等』
『冗談じゃねぇ!! 俺はこの依頼を達成する事が出来れば晴れて帝国騎士団から特別に報酬を貰える約束だったんだよ。もうすぐここに付き添い出来た帝国騎士団員が、きちんと俺がこいつ等を倒したかどうかの確認までしに来るんだ。せっかくのチャンスだったのに、一体どうしてくれるんだ!?』
『別に言わなきゃ良いんじゃないのか? 俺はここに居なかった。それで良いだろ?』
「……こうやって、そいつはいきなり怒り出したんだよ」
「それだと、帝国騎士団から受けた依頼って事になりそうだな」
シリルが腕を組んで考えるその横で、ミネットが更に先を促す。
「他には何か言ってなかったの?」
「他には……ええと……あ、そうそう。あいつのフルネームと一緒に失格だって話も出ていたな」
『エジット・テオ・ピエルネ。……失格だ』
『なっ!?』
『御前の依頼は不本意とは言え、先に攻撃目標を殲滅されてしまっていた。また団長から依頼を受けるんだな』
『ちょ、ちょっと待ってくれ!! セレイザ団長がこれを知ったらどうなるんだよ!?』
『今回の話は見送りだ。御前の特別報酬と名誉の話は、また後日だ』
『そ、そんな、待ってくれよぉ!! 俺はここで立ち止まる訳には行かないんだ!!』
『だったらもっと依頼をこなせ。残念だが、今回は失格とする。以上だ』
『な、んでだよ……こうなったら、御前を倒すしか無さそうだな。責任はきちんと取って貰わなきゃなぁ……?』
「で、そこで俺は笑ってしまった。言ってる事が滅茶苦茶過ぎてな」
「うん、その状況だったら僕でも笑うと思うよ」
「俺も同じだよ。そいつ……本当に英雄なのか?」
エジットの態度を疑問視するイルダーとエルマンをよそに、最後の場面を思い出し始めるニール。
『何がおかしいんだ?』
『だって……言ってる事が支離滅裂すぎて、俺は完全にとばっちりだろう? あんたが何処の誰であろうが、今の俺には関係無いし自分に振りかかって来た火の粉を振り払っただけだ。……逆に聞くけど、ここは一体何処なんだ?』
『ここはソルイール帝国のレラルツール山脈に決まってるだろ。そうか、俺の依頼を奪って滅茶苦茶にするだけでは飽き足らず、俺をそこまでコケにしやがって……ぜってー許さねぇぞ!!』




