13.朝いきなりの修羅場
朝。
(ん……疲れは余り取れてないかな……)
自分でも眠っていたのは確かに理解出来るが、それでも身体はまだその疲れを取れ切れていない様だった。
やはり「異世界に来てしまった」と言うかなりショッキングな体験をした身からすれば、脳の処理が未だに追い付いていないのでそれが疲労回復にも影響を及ぼしているのかも知れない、とニールは朝目覚めたばかりの頭の回転をスピードアップさせながら考える。
それでも、騎士団長とエンカウントしてしまったのであればさっさとユフリーと合流してこの町を出なければならない。
まず、ニールは宿屋の1階で朝食を摂る。動き回るのもエネルギーが必要だ。
(飯を食ったらさっさとユフリーの所に向かおう)
そのユフリーと待ち合わせしている酒場についてだが、確かに彼女と一緒に食事を摂ったのは昨日だ。
しかし、肝心のその場所はと聞かれると記憶が曖昧である。
それについてはユフリーからも心配されていたので、ニールは彼女と別れる前にこんな会話をしていた。
「そうだ、ここから私達が食事をしたあの酒場へのルートは分かるかしら?」
「いいや、さっぱり分からん」
「じゃ、目印が酒場の屋根の上にあるから分かるわ。大きな鳥のオブジェが設置されているから、町中からでも割と見つけやすい筈よ」
大きな鳥のオブジェが設置されているのが見えればそれだけでスムーズに移動出来そうだ、と考えながらニールが食事の最後の一口を飲み込んだ時だった。
「ここに居る筈だ、探せ!!」
突然、宿屋の入り口からドカドカと大勢の武装した男女が踏み込んで来るのがニールの目にも見えた。
一体何事かとニールがその集団を横目で気付かれない様に見ていたのだが、その集団の方がニールに用事があるらしく彼を見つけて一気に詰め寄って来た。
「あっ、あいつだ!!」
「え……?」
リーダー格らしき痩せ身の男が、その手に持っているシャムシールをチラつかせながら一気にニールに詰め寄って来る。
「な、何か俺に用か……?」
推定15人の集団に詰め寄られて身体が無意識に震えてしまうニール。
幾ら武術の経験が20年以上あるとは言っても、気絶してしまったあの路地裏での1vs4のバトルやその前の山道での盗賊集団のエンカウント、そして大きくさかのぼってその昔ニールが経験した集団暴行事件が一気にフラッシュバックして来たのだ。
怯えた様子を見せるニールだが、そんなの関係無えとばかりに更に詰め寄って来る謎の武装集団。
「エジット様の依頼……潰してくれたらしいな」
「依頼……?」
「とぼけんじゃねえ!! お前が山で潰した盗賊連中の話だよ。あれが原因でエジット様はせっかくのチャンスを逃しちまったんだ。だから責任取って貰わなきゃなあ?」
「はぁ……?」
あの盗賊集団のエンカウントの話をしているのは理解出来たが、エジットとやらも無茶苦茶な事をいっていたので「ギルド」とやらの連中は無茶苦茶な言い掛かりをつけて来るとんでもない集団だと言う結論に達したニール。
「責任って何だよ……俺にどうしろって言うんだ?」
「とにかく俺達と一緒に来て貰うぜ。エジット様の元に連れて行ってやる」
しかし、そんな事になってしまうのは勿論避けたいニールは何としても脱出を図る。
「嫌だね」
「何だと?」
ニールの返答に殺気立つ痩せ身の男だが、そんな彼が次のセリフを口に出そうとした瞬間、ニールは一瞬のスキをついて彼の手からそのシャムシールを奪い取った。
武器があれば自分にも幾らか勝機が見える筈だ……と考えての行動だったが、まさかの事態が彼に襲い掛かる。
バチィィィッ!!
「ぐあっ!?」
「うお!?」
2人の間を中心にして、いきなりまばゆい閃光と何かが弾ける様な音、そして2人の腕に伝わる痺れと痛み。
「……な……は?」
「な……え?」
ニールと男の間からどんどん沈黙が広がって行くが、最初にその沈黙を破ったのはニールだった。
何が何だか分からないが大きな隙がお互いに出来たので、逃げ出すこのチャンスをものにするべくまずは力任せに痩せ身の男を両手で突き飛ばす。
「ぐおっ!!」
突き飛ばされた男が他の人間を巻き込んで後ろによろけ、そこに道が出来たのでニールはその道を通って駆け出した。
と言っても入り口側はその集団によって塞がれてしまっているので、自分が朝目覚めた部屋へと階段を3段飛びで駆け上がって戻る。
「おい、絶対逃がすな!!」
その痩せ身の男の声が下から聞こえて来るものの、それに構わずニールは逃げ出す算段を頭の中で組み立てていた。
(2階の部屋からなら外に飛び降りても大丈夫だ!!)
そう確信出来るからこそ、ニールは自分が泊まっている部屋に戻ってまずは自分の荷物を回収……と思ったが、自分の持ち物は地球に居る時から持っていた財布とスマートフォン、それからこの世界にあの金貨や銀貨が入っている皮袋位しか無かったので何も問題は無いと判断。
部屋の窓を思いっ切り外側に押し開け、下を確認して一旦頷くニール。
(こんな場所で死んでたまるか!!)
意を決して、ニールは下に見える1階のひさしを目掛けて窓枠を蹴った。




