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134.死にたくないニールの思い

 激闘の末、ユフリーを始末して決着を付けたニール。

 しかし、ここである事を思い出して自分のやってしまった事に頭を抱える。

(しまった、あの野望がどうとかって話を聞き出すのを忘れていた……!!)

 そう、彼女が口走っていた「ギルドの野望」。

 あの事を聞き出さずに投げ落としてしまった自分の迂闊さを後悔しながら、情報を聞き出すまでは何とか生きていて欲しい、と急いで10階部分に叩きつけられたユフリーの元に向かう。

 ……が。

(ダメだ……もう息が無い)

 全身を強く打ち、目を見開いた状態でピクリとも動かないユフリー「だった」肉の塊。

 首筋に手を当てても脈が止まっているので、どうやら手遅れだった様だ。


「……終わったのか」

 無言でユフリーの遺体を見下ろすニールに対して、他の敵を一掃したシリルが声を掛けて来た。

「ああ。でも……肝心の情報を聞くのを忘れてしまったんだ」

「は? え、あれ……悲しんでいるんじゃないのか?」

 てっきりニールが今までの事を思い出して悲しんでいるのかと思い、遠慮がちに声を掛けたシリルはまさかのニールの返答にキョトンとしてしまう。

 そんなシリルに対し、背中を向けたまま淡々とした声でニールは続ける。

「少しな。何だかんだ言って俺の世話はしてくれた訳だし。だが……こいつは俺達のパーティに潜入していたスパイだった。しかもギルドの英雄の恋人だったらしいからな。それに……せっかく俺の集めたあのアイテムを全て持ち去ってしまった以上、今は悲しみよりも怒りの方がでかい」


 自分の世界に帰る為の手掛かりだった(かも知れない)あのアイテムを、あの図書館で裏切りと同時に全て持ち逃げしてしまったこの女にまたこうして出会った。

 そうなれば、当然その事を聞き出さなければならなかったのだ。

 それにギルドの野望云々に関して聞き出せていない以外にも、やらなければならない事がまだまだ山積みである。

「まずはここから脱出しよう。そしてこのタワーから離れた何処かの町か村で食糧だとか武器の手入れとかの態勢を整えて、これからどうするかを皆で話し合おうぜ」

 過ぎた事を気にしていてもそこで止まるばかりで、話は先に進まない。

「……分かった。でもちょっと待っててくれ」

「……?」

 せめて生き残れただけでも良かったじゃないか、と強引に自分を納得させたニールは、静けさが戻ったこのタワーから脱出する前にまだやるべき事を思い出したので、階段を上がって行った。


 そして、約5分後にシリルの元に戻って来たニールの手には1枚の大きな白いシーツが。

「何だそれ?」

「……まぁ、せめてこうしてやるだけさ」

 バサッとシーツを大きく広げ、ユフリーの遺体に被せてやるニール。

 こうでもしておかないと、何だか寝覚めが悪くてしょうがないのだった。

「上の倉庫で武器を落としてしまってな。それを取りに戻ったらそこでこのシーツを見つけたんだ。敵だったとは言え、これ位はしてやらないとな」

 そのセリフを聞いて、冷たい性格かと思いきや意外と律儀な一面もあるのかも知れない、とニールを見ながらシリルは感心していた。


 そんな一面をシリルに見せたニールの元に、駆け寄って来る足音と聞き慣れた声が聞こえて来た。

「おーい、シリル、ニール!!」

「あっ、イルダーにミネット!?」

 他の戦っていたメンバーに交じって、あの天井が崩れてしまった場所で別れる事になってしまったイルダーと、その前に魔物がこれ以上出て来ない様に「フタ」の役目をして貰っていたミネットが無事な姿を見せたのだ!!

「無事だったのか!」

「ええ、こっちは何とかね。突然私の足元の魔法陣が消えたから、これはもう大丈夫かと思って貴方達を追い掛けて上に戻ったの。そうしたら階段の前でイルダーが座り込んでいたから、彼に回復魔術を掛けて合流したのよ」

「それで僕とミネットでガレキを退けて進もうとしたら、下から騎士団の連中がやって来たもんだから一旦身を隠したんだよ。で、連中がガレキを退けて上に行くのを待って、時間をおいて来てみたら皆が戦っていたから僕等も参加していたんだ」


 その事実を知らなかったのは、知らず知らずの内に上に行っていたニールだけだったらしい。

 何はともあれこの2人も無事だったので、ようやくニールはパーティメンバーと一緒に地獄絵図と化したこのタワーから脱出。

「あー……しんどかった……」

 このタワーを最上階まで自分の足で踏破しただけでは無く、あのセキュリティガード用ロボット、それから魔術師が生み出す多数の魔物、セバクターに助けられた最上階のケルベロス、そして下まで下りて来る時に遭遇した、ギルドと帝国騎士団の調査チームのリーダーだったユフリー。


 様々な場所で様々な相手とそれぞれのメンバーがバトルを繰り広げ、負傷しながらもこうして何とか生き延びて、全員が脱出する事が出来た。

 そしてここに来て新たなメンバーも加わったので、一行はユフリー達が乗って来たであろうワイバーンを拝借してそのタワーから大きく離れる。

 この場所は帝都から近いので、余り目立つ行動は出来ない。

 なのでまずは一旦、山脈の東の麓に存在している村で身体を休めつつセバクターからもっと詳しい話を聞いたり、これからどう行動するかの作戦を練る事にした。

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