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129.しんみり……

https://ncode.syosetu.com/n7580fb/1/

登場人物紹介にセバクター・ソディー・ジレイディールを追加。

「ぬぐぅああ……ああ、ああああああっ!!」

 声と力を振り絞って、ニールはシャツをギリギリまで捻って絞り上げる。

 その絞り上げたシャツの輪っかになった部分、つまり2本の鉄格子を囲い込んだ部分がドンドン狭まり、それに伴って鉄格子が内側にそれぞれ湾曲して行くでは無いか。

 そして、鉄格子同士がくっつく位まで曲げた時には既にニールは疲労困憊の状態だった。

「はぁ、はぁ、はぁ……こ、これで出られないか?」

「ん……あ、良し、これなら何とかなりそうだ……!!」

 エルマンは身体をその鉄格子の広がった部分に盾にねじ込み、ギチギチと音を立てながらも何とか脱出に成功した。

「はぁ、はぁ……あー、くっそ……かなり狭かったけど助かったぜ。この鉄格子に魔術防壁が掛かって無かったら、俺のバトルアックスでもブチ破れたんだが……あの魔術師の奴は一体何者なんだよ?」


 しかし、そう尋ねても答えは返って来ない……セバクター以外からは。

「魔術師?」

「そうだよ。その魔術師……みたいな男が今回の事件の主犯らしいんだ。このタワーの中で色々と怪しい事をやっていて、俺達にも散々妨害工作を仕掛けて来た奴でな。あんたも見ただろう、あの屋上の化け物。あいつを生み出したのがその魔術師なんだけど」

 そこまでニールが言うと、セバクターは歩きながら考え込む仕草をしてからまた尋ねる。

「その魔術師とやらはどんな風貌だったか覚えているか?」

「そりゃあ実際に俺達全員対峙しているからな。ハッキリ覚えているよ。まず身長がかなりあった。少なくとも俺とあんたよりもでかい。いや……もしかしたらシリルよりもでかいかも知れない。でも……色々と着込んで着ぶくれしているから、ガタイが良さそうに見えたけど実はあいつ、結構身体が華奢だと思う。後は長い黒髪だったな。目の色は確か……赤かった様な気がする。それと、紫とか青とかとにかく暗めのトーンの装備品を持っていたよ」


 横で黙って聞きながらタワーを降りるセバクターの表情に、段々と変化が訪れるのを確認しながらそれでもニールは最後まで続ける。

「まず、着込んでいた長いローブは紫だか青だかの暗い感じの配色だったな。それからその下の胴衣も黒かった。だけど所々に金色の縁取りがされていたから、それなりに金は掛かっているんだと思う。で……ローブと同じ様な色合いの杖を持っていて、あれが魔術の発動をサポートしてた様な気がする。俺が屋上であいつと対峙した時、あいつは杖の先端で屋上の地面をトンと叩いた。そうしたらあのでかい化け物が出て来たんだ。後は……ああそうそう、服に似合わない金属製のブーツを履いていたよ」


 これがそいつの全てだとニールがセバクターに告げるが、次の瞬間セバクターは全てに合点が行った表情で頷いた。

「……そうか。やっぱりあいつか……」

「え?」

「そいつは……俺がずっと捜している男だ。あいつだけはどうしても逃がすまいと思って捜索を続けていたが、最近になって目撃情報があった。それで旅行を中断してこっちに来てみたら……そうか、あいつだな」

「知り合い……なのか?」

 ニールのやや戸惑いがちな質問に、セバクターは厳しい目つきで頷く。

「知り合いなんてもんじゃない。あいつはこの世から追放するべき魔術師だ。生かしておいたら危険な存在だからな」


 そこまで言ったセバクターに話の続きを聞こうとしたが、一行はあの崩れた渡り廊下まで戻って来た事もあってここで会話は一旦中断。

「ここで……俺達のパーティメンバーの1人が下に落ちて行っちまったんだ。あいつの仕組んだ魔術のトラップによって、俺達3人は何とか渡り切ったんだがあいつだけは飛び越えられずに……」

「ああ。絶望的な表情をしながらガレキと一緒に落ちて行くあいつの表情は、今でも俺の目に深く焼き付いているよ」

 下に見える、下の階同士を空中で繋いでいる別の渡り廊下の屋根の部分を見ながらしんみりするシリルとエルマンだが、セバクターはそんな2人にこんな質問を。


「その落ちてしまったパーティメンバーって言うのは、どんな人物だったんだ?」

「ああ……キザな奴だったけど、弓と短剣の扱いに関しては抜群だった。それから魔術に関してもそこそこ出来ていたけど、あいつは召喚獣の使い手でもあったからあいつを失うって言うのは俺達にとってかなりの痛手だよ」

 エリアスの事を脳裏に思い浮かべ、首を小さく横に振るシリル。

 ここから真っ逆さまに、しかもガレキと一緒に落ちて行ったらもう助かりはしていないだろう。

「でも、俺達はあいつの分まで生きなきゃならないんだよ。そして何としてもあの魔術師をぶっ倒してやらなきゃならないんだ!!」

「ああ、そうだよな……」

 悲しみの心を振り切って、シリルとエルマンが決意した表情になる。


 ……のだが、その2人の後ろに居るニールとセバクターだけは何とも言えない顔つきだった。

 そしてセバクターが先に口を開く。

「……それって、あそこで座り込んでいる人間じゃないのか?」

「へ?」

「もうちょっと後ろに来てみろ。見えるから」

 ニールに手招きされ、シリルとエルマンは少しバックして見える範囲を変えてみる。

 すると、下の階の渡り廊下の屋根の部分にもの悲しそうな背中をして座り込んでいる黄緑色のコートの人物が見えた……。

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