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125.その頃……

「塔?」

「ええ。帝都から少し離れた場所で突然現れたそうよ」

 ソルイール帝国の帝都ランダリル。

 そこにある王城クレイアンの執務室で執務に励んでいた帝国騎士団長のセレイザは、執務室にやって来たユフリーからの報告を受けて顔を上げた。

 そのユフリーも自分の部下から塔の話を聞いたばかりなので、いまいちピンと来ない顔をしている。

 帝都から北に約3km向かった場所で発見された大穴。

 そこの調査に関しての新たな進展があると言う事で、ギルドの英雄であり自分の彼氏もあるエジットも交えて話し合いがしたかったユフリーだが、彼はあいにく本来も任務で手一杯の状況なのだとか。


「だから、ここは私とお前だけになるが構わんな?」

「ええ、それは勿論。でもいずれエジットにも話すんでしょ、この事は?」

「ああ」

 連絡がつき次第エジットにも話を通し、ギルドのメンバーにも声を掛けてその場所の調査に加わって貰う予定ではいるのだが、突然現れたと言うその塔の話がまだ良く分からないので慎重に行動しなければならない。

「それで、早速だがその現れた塔がどんなものなのか、そして何時どの様にして現れたのか報告があったんだろう? 聞かせてくれ」

「それは良いけどまだ不確定な情報ばかりよ。それを前置きした上で話すとすれば、あの不自然に大きく開いている穴がある場所、あそこに本当に突然……何も無い空間からスーッと浮き出る様にして出現したって言う情報よ」

「それはまた奇妙だな」


 あの場所は帝国の魔術師達でも、それからカシュラーゼの魔術師達でも解明出来ない様な封印らしきものがかかっていると言う話をセレイザも、それからエジットも受けていた。

 近づいて調べようとしても、見えない壁の様なものに阻まれてしまい行く手を遮られたままの状態が続いて早2年。

 そもそもあそこは、2年前に突然地中に大穴が開いて現れた、それこそ天変地異らしき現象が起こった場所なので当然調査も慎重に行わなければならないと考えていたのだ。

 それがどうにもこうにもさっぱり進まず、しかも帝国騎士団やギルドの冒険者達の仕事はそこの調査だけでは無いので、何時しかそっちの調査は放置状態になっていたのは否定出来ない。


「それがここに来て、突然塔みたいな建物が現れただと……?」

「不思議よね。何でそんな大きな建物が今になって現れたのかしら?」

「私に聞かれても困るよ。ただ……」

 セレイザは一旦そこで言葉を切り、デスクの上に置かれている紅茶の入ったカップを口元に運ぶ。

 そして優雅な動作でカップをデスクに再度置き、両肘をデスクについて手を組み、その上に顎を乗せて続ける。

「1つだけ確かなのは、その塔が現れた事によってこちらの調査もまた進むかも知れない、と言う話だろう。その塔の近くの村に駐在している団員の話がお前の元に来たのだったら、そいつ等も率いてお前が調査に向かうんだ、ユフリー」

「えっ、私が?」


 そこはまずセレイザかエジットが研究員の魔術師を率いて向かうべきなんじゃないか、と思うユフリーだが、騎士団長はそれでもユフリーに頼みたいのだとか。

「ああそうだ。私だって本当は向かいたいのだが、今はそれ以上に大事な事をしなければならない。それはお前も分かっている筈だろう?」

 ユフリーはエジットの彼女だけあって、本来は彼女の身分では絶対に不可能な筈の騎士団長とも対等に話す事の出来る権限を与えられているし、その騎士団長セレイザやエジットの部下を率いて任務に向かう事も許されているので、何時しか彼女も部下を連れて国内各地で任務に当たる事が多くなった。

 とは言っても、普段はギルドの受付や橋渡し役も兼ねて酒場のチェーンで働いている時が何だかんだ言って1番心が休まる時らしいのだが。


 しかし、世話になっている騎士団長のセレイザの頼みともあれば断る訳にもいかないのでユフリーは出撃の準備をする。

「……分かったわよ」

「物分かりが良くて助かるよ。何か進展があったら教えてくれ」

「そうね。じゃあこの帝都からも、すぐに出撃出来る様に人員を揃えて準備しておいてくれると助かるわ」

「分かった、そっちは私に任せておけ」

 まずは必要最低限の人員でその現れた塔に向かわせ、何かあれば増援を手配出来る様に準備をし始めるセレイザだが、そんな彼に対してふと振り返ったユフリーがこんな事を思い出した。

「あ……そうそう、言い忘れる所だったわ。その塔が現れる前にワイバーンが2匹そっちに向かって飛んで行ったって報告もあったのよ」

「ワイバーン……?」

「ええ。鳥にしては大きな姿だったけどドラゴンよりは小さいって目撃情報があるから、ワイバーンしか考えられないって言う話よ。野良のワイバーンかそれとも誰かが操縦しているのかは知らないけど、気になる話よね」


 ユフリーの話を聞き、それならばとセレイザは追加で指示を出しておく。

「ならばもう少し大目に部下を連れて行け。こっちもワイバーンを使えるだけ使って良いから、なるべく早くその塔に向かえ」

「うん、それならもうやっているわよ。その報告をして来た部下ももう現地に向かっているって話を受けているわ」

「そうか、なら後は任せたぞ」

 最初は英雄の彼女、と言うだけの存在かと思いきや実際に自分の部下として動かしてみるとなかなか使える存在だと分かったので、こうしてユフリーにも色々と手伝って貰って助かっているのがセレイザなのだ。

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