123.鉄格子
そのまま通路を抜けるとまた階段があり、一行は16階へと進む。
今度はまた同じく吹き抜けのフロアがあるのだが、明らかにさっきの10階から15階と比べると狭い。
その代わり、壁や床の材質が気のせいか豪華な様に見える。
「何か、雰囲気違うね?」
キョロキョロと周りを見渡してエルマンが呟く。
「成る程な、ここから上までは障害物の無い完全な吹き抜けか。正方形の吹き抜けが中央にあって、四方に通路が続いて色々な部屋があるみたいだ」
吹き抜けから下を覗いて目を細め、16階から上のフロアの分析をして更に上の階を見据えているシリルの横でニールは納得の表情を見せる。
「そうか、ここから上のフロアはVIP御用達って感じだな」
「VIP?」
何だそりゃ? と首を傾げるシリルとエルマンにニールは自分の考えを話し始める。
「雰囲気が違うって今エルマンが言ったけど、恐らくこの上はあれだ……このタワーの中の権力者達が住居とかで住むエリアなんじゃないかと思ってな。ここから見えるだけでも向こうにはトレーニングルームとかシャワールームがあるみたいだし、豪華そうな部屋も見えるし、壁とか床の造りも高級感が垣間見えるから、借りるのにもそれなりの金が必要になるフロアじゃないか?」
「あー、そう言われてみればそうだな」
そのニールの説明を聞いてシリルとエルマンも納得したらしいが、今の問題はそこでは無い。
「それじゃ、ここから上の何処かにあの男が居るかも知れないって事か」
「ああ。あいつだけは絶対に許せねえからな!!」
バキボキと指を鳴らすエルマンを横目に、シリルは獣人ならではの鼻の良さで生物の気配を感じ取る。
「獣の臭いがするし、血の臭いもする……」
「血の臭い?」
「血って言うか、これは鉄の臭いかな。錆び付いた鉄の臭いがするんだ」
「……このタワーは金属で出来ている場所だから、そりゃあ錆びた鉄の臭い位はすると思うんだが」
冷静に突っ込むニールだが、それもこれも上に進んでみないと分からない。
何だかんだで残りは5階位しか無いだろうし、ここまで来たら全部のフロアをまたしらみ潰しに調べるだけだ。
「じゃあこっちから行くぞ……」
無駄に材質の良い床を踏みしめ、3人は16階からそれぞれの部屋を調べる。
シャワールームがあってしかも水道のラインは生きているのが分かったし、ニールが先程見つけたトレーニングルームではサンドバッグを始めとするトレーニング用の設備が埃を被って放置されているので、このタワーが丸ごと地球からトリップして来た様に思えて仕方が無いニール。
だが、実際にこう言う設備がこの世界にあるのかどうかシリルとエルマンに聞いてみた所、色々と似た様な物がカシュラーゼと言う国で作られているらしい。
「このシャワーと言う設備も魔術のテクノロジーを駆使して発明されたらしいんだ。そっちの世界でも同じ様な物があるのか?」
「ああ、ある。あるって言うか原理は違うかも知れないけど、設備の形状とか用途は一緒だな」
世界は違えど、人間と言う種族が居る以上は考える事が一緒らしいと改めて感じるニール。
魔術のテクノロジーと科学のテクノロジーにも似た様な考えがあるんじゃないか? とこの世界のテクノロジーの発展に関してドキドキしてしまうのは否定出来ない。
それでもやはり住み慣れた自分の世界の地球に帰りたい、とニールは思いながら他の2人と一緒に上の17階に進むが、そこの通路でまたもや事件が起こる。
階段を上がってみると、吹き抜けの場所から続く通路を進んで交差点に差し掛かる。
「3つの方向に分かれているけど……どっちから行く?」
「そうだな……」
このフロアはまた少しだけ造りが違うらしいと考えるニールとシリルだが、そんな2人の足元にフッ……と影が現れる。
「……!?」
その影に気が付いたエルマンの頭に嫌な予感が横切り、咄嗟にニールとシリルを両手で突き飛ばす。
「え?」
「うおっ!?」
イルダーの時と同じパターンだが、今度は落ちて来る物が違った。
ガシャーン!! と物凄い音を立てて、明らかに太くて硬そうな材質の鉄格子が交差点の正方形の部分にスッポリと収まった。
その中には丁度イルダーが入ってしまったので、3人はそれぞれ驚くと同時に武器を手にして何とか鉄格子を破ろうとする……が。
「くそっ、これじゃ歯が立たない!!」
シリルとエルマン曰く、鉄格子の周囲には水色の膜が張られて物理攻撃も魔術も完全にブロックされてしまうらしい。
だったら俺が……とニールが武器を振るうものの、鉄格子の材質はビクともしない。
「俺の素手じゃ鉄格子を破れないし、このハンドメイドの武器でもダメか……」
さっきのエルマンと同じく足の裏で床を蹴って悔しさを表現するニールだが、そんな彼を見てエルマンが一言。
「あんたにさっき言われた事をそのまま返すけど、とにかくここは落ち着けよ。俺はここに閉じ込められているだけだからさっさと行け」
「でも……」
ここに放っておいたまま行ける訳無いだろうと言い掛けたニールに対し、エルマンは敵の襲来を告げた。
「ほら、後ろ見てみろよ。まだまだ敵は沢山居るみたいだぞ?」
エルマンの視線の先を見る為に振り向けば、複数の魔物達がこの狭い通路にやって来ていた。
「このままじゃ御前等もやられる。それにあいつを逃がしたら悔しいから、ここはさっさと切り抜けてあいつをぶっ倒してくれよ!!」




