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11.正体

 ユフリーから聞いた「エンヴィルーク・アンフェレイア」と言うこの世界から無事に帰る為には、今は少しでもそのヒントが欲しいと言うのがニールの願いだ。

 それに導き手となってくれる人物が居ればそれ以上に心強い事は無いので、半ば無理やりと言った形でユフリーにまずは帝都まで同行をして貰う事になったのだが、ユフリーはまた意味深な事を言い出した。

「でも、貴方が揉めたって言うその人間は容姿の情報を聞く限りだと多分あの人ね。彼は相当プライドが高いから……厄介な事をしてしまったわね、貴方は」

「厄介?」

 あのエジットと言う斧使いの事を唐突に言い出したユフリーに、ニールは警戒心を強める。

「何が厄介なんだ? 確かに面倒臭そうな男ではあったが」


 そんなニールの問い掛けに、ユフリーはこんな理由を述べ始めた。

「うちの酒場はギルドの受付も兼ねてるから冒険者達の情報は嫌でも入って来るんだけど、その男は若手ホープと言われているギルドトップの人間ね。と言っても私はギルドの受付は余り関わって無いから生年月日とかの詳しい事は知らないけど。年齢は今年で28歳だったかなぁ? あ、でもこれだけは分かるわ。そのエジットはあの人と仲が良いわね」

「あの人?」

「この帝国の騎士団長よ」

「騎士団長? そりゃまた凄いのと知り合いだな」

「ええ。ギルドトップの実力者と言うだけあって、色々な功績を立ててるから騎士団長直々にスカウトしてるらしいわよ。でもエジットは今の冒険者の方が楽だって言って、何時も断っているらしいわ」


(もしかして、そんな存在の奴から恨まれている今の自分は相当まずいんじゃ無いのか?)

 そう考えると、早めにこの世界から地球に帰らないとますます事態は泥沼にはまって行きそうだとニールは頭を抱える。

「だからそいつが俺を狙っている今の状況はまずい訳か」

「ええ、そうね。騎士団長は貴方も1回会っているし」

「……え?」

 騎士団長と自分が会った事がある?

 いきなりのユフリーの発言にニールはきょとんとするが、まさか……と彼女を見据えてこう問いかけた。

「ま、まさか君が騎士団長……」

「そうだと言ったら?」

「え、いや……それって……」


 空気を張り詰めさせ、明らかに軽いパニック状態になるニールを見てユフリーははぁーっと溜め息を吐いた。

「落ち着いてよ。私はさっき酒場の女だって名乗ったじゃない」

「あ、ああ……じゃあ、それなら俺は何処で騎士団長に?」

「さっきよ。ほら……貴方が病院へ行きたいって言うから連れて行ったじゃない。そこでよ」

 ユフリーにそう言われ、ニールはその病院のシーンを回想してハッとした顔つきになった。

「まさか……あのピンク色の髪の毛の大柄な?」

「そうよ。何故彼がこの町に居るのかは分からないけど、ここ位の町の大きさだったら騎士団長だから顔も名前も知られているわね。辺境の村とか町に行けば名前も顔も知らないって人も大勢居るけど、この町だったら騎士団を動かして貴方を捕まえるのは簡単ね」


 まさか、あの病院の時に薬を貰いにやって来ていたのがこの国の騎士団長だったなんて。

 それに魔術や騎士団やらと言うワードが当たり前のこの世界観を振り返ってみて、地球では無い事を改めて確信するニールはこれから先の事を考える。

「……そうか、それならこの町に留まり続けるのは危険だな。明日の朝一番にこの町を出発して、その帝都とやらに向かいたい。それで構わないか?」

「そうね。この状況なら私も貴方と同じ考えね」

 2人の意見が一致したのは良いが、診察を受けたばかりであると言うのもあって今日はひとまずこの町の宿屋で休んでから出発する事に決める。


 と言う訳で宿で身体を休ませる事にしたニールは、まずは汚れた身体を洗う事にした。

 ついでに洗濯も頼んで汚れた服も洗って貰う。

 パンツの中に入れておいた金の入った袋とスマートフォンは勿論取り出しておき、用意されている部屋着に着替えて過ごす事にした。

 そしてユフリーは一緒の宿で寝てくれるのかと思いきや、彼女は彼女でこの町の酒場で少し仕事があるらしく一旦ここで別れる事になった。

「それじゃ明日の朝までお別れだな」

「ええ。それじゃ朝になったら酒場に直接来て。私はそこで待っているから」

「分かった」

 宿の2階の窓からニールは彼女を見送って、自分も身体を休める為に夕方まで眠る事にした。


 しかし、眠りについたは良いもののこんな時に限ってなかなか頭が睡眠モードに入ってくれない。

(くそ……眠れん)

 睡眠は少なくても問題無い体質のニールだが、明日からは長丁場の移動になりそうな予感が何となくだがしているだけあって、しっかりと身体を休ませておきたいと言うのが本音だった。

 その休ませたい気持ちを邪魔しているのは、恐らく自分が「異世界」と呼ばれる場所に来てしまっているからだろう。

(喋るライオンが出てくるファンタジー映画じゃあるまいし……)

 でも、これが現実なのだ。

 いじめにあっていたつらい過去が存在している地球とはまた違う世界だが、自分が地球で住み慣れているせいもあっていざこうしていきなり違う世界に放り出されると寂しいものがある。

 悶々とした気持ちを抱えつつも、やはり身体の疲れには勝てずニールの意識は暗闇に沈んで行った。

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