10.酒場にて
しかし、まだ頭がズキズキしているニールはこの酒場の女に頼んで診療所へと向かう事にした。
「なぁ、先に病院に行かせてくれないか?」
「病院? 何処か痛いの?」
「ああ……まだ頭がズキズキするんだ」
だが、それを聞いた女は怪訝な顔つきになった。
「……おかしいわね、治癒魔術の効果が無かったのかしら?」
「は?」
治癒魔術とは一体何なんだ? と首を傾げるニールと、その治癒魔術がどうのこうのと言う疑問で首を傾げる女。
ともかく、その酒場の女の案内で町の診療所へと辿り着いたニールは今までの怪我の診察を受ける。
検査の結果軽い脳震盪を起こしているのと、打撲や擦り傷、切り傷と言った傷が結構あったのでニールは皮袋の中身の金で治療を済ませて貰った。
(それほど大きな怪我じゃなくて良かった)
安堵の息をニールが吐きながら診療所を出ようとすると、そこに1人の男が入って来た。
「おい、そこで怪我人が出た。少し薬と包帯を分けてくれ」
入って来た男は推定年齢40代半ばの自分よりも年上であろう顔つきに、ピンク色の髪の毛をしているガタイの良い体躯。
更にあの山道で見かけた騎士団員達とベースの作りは同じだが、装飾と装甲が豪華な鎧を身につけている事から騎士団の上位クラスの人間である事は容易にニールにも想像が出来た。
だけどあの山道の事もあってか、気になる事は気になるものの別にそこまで気にするほどの事でもないと思い、その男をスルーしてニールは女と一緒に診療所の外へ。
そんなニールが男の横を通り過ぎる時に、男が何かに気がついた様な表情をしてニールの後ろ姿を目で追っていた事は、追われているニール自身は気がつかないままに。
診療所を出たニールは、これもまた酒場の女の案内で腹ごしらえをする為に酒場……では無く、今度は表通りのいかにも料理屋と言う出で立ちの店へと入る。
木目調の店内には落ち着いた雰囲気の青いクロスがかけられているテーブルが幾つも並んでおり、人気店なのか客で結構席が埋まっているが騒がしくは無く、むしろ静かなので落ち着いて食事が出来そうだ。
「料理を食ったら、何処かでシャワーでも浴びられる様な場所があればそこで汗を流したいもんだな」
「身体を洗いたいんだったら宿屋に洗い場があるから、そこで洗いましょうか」
「ああ、それが良い。ついでに服も着替えさせてくれ」
服も結構ドロドロになっているので着替えたい所なのだが、運ばれて来た料理に手をつけ始めて食べていたニールの前で酒場の女も自分で頼んだ料理が運ばれて来たので手を付ける。
「……で、色々聞きたい事があるんだがな」
ニールはパンをちぎって口に運びながら、深みのある声で切り出した。
「そうね。今の貴方は何故私がここに居るんだ……と言う顔をしているわね。私は元々帝都から派遣されているのよ。あそこは帝都の店のチェーン店の1つ。人手が足りないから手伝いに行って、あの時ここに戻って来たって訳。さぁ、ご飯を食べたらさっきの部屋で私に色々聞かせて貰うわよ」
ニールの求めている答えを彼が問い掛ける前に全て話した女は、店内の混雑を利用して有無を言わせずにニールを逃がす事無く部屋に連れて行く事に成功したのであった。
やはり女はニールの事を怪しい人間だと思っていたらしく、騎士団に引き渡さない代わりに自分が何者なのかをニールは説明する破目になってしまった。
女はユフリーと言うらしく、帝都発祥の酒場チェーンの店員として働いているらしい。
そして、この世界に生まれ育った生物なら必ず持っている筈の魔力がニールからは一切感じられ無かった事からおおよそニールが何者なのかと言う見当をつけ、その予想をニールに話して彼自身も認める事になってしまった。
「と言う訳で、俺は君の言う通り異世界から来たんだ。だから俺は元の世界に戻りたい。この世界がどう言う世界なのかは知らないが、何か元の世界に戻れる様なヒントみたいな物は無いか?」
騎士団等に捕まってしまえば、それこそ異端な人物として目をつけられ色々と面倒な事になるかもしれないと考えたニールは、一刻も早く地球に帰りたかった。
そんな彼の質問にユフリーの口から思いもよらない答えが!!
「あくまで噂程度だけど……貴方がその地球って言う世界に帰る為のヒントが、帝都ランダリルにあるわ。それで良いなら」
「えっ?」
ニールはワラにもすがる気持ちでユフリーに頼む。
「では頼む。ただし、失礼を承知で忠告するが……俺を罠にはめようとしたりすれば容赦はしない。良いな?」
「本当に失礼ね……分かったわよ」
いじめられていた時は親友だと思っていた人間から裏切られて、かつあげにあったりした経験がある事から、初対面の人間も用心深く疑って掛かるのもニールは仕方の無い事であった。
「ならそこに案内してくれないか」
だが、ユフリーは意味深な事を言う。
「いえ……そこまで案内するのは良いけど、忍び込むなら夜になるのを待ちましょう」
「何故だ? 何かやましい事でもあるのか?」
ニールの問いかけにユフリーはコクリと頷く。
「ええ。その場所は見張りが多くてね。だから夜は気が緩む時間帯だから、そこに潜入するなら夜が良いと思うわ」
「そんなに厳重な警備があるのか?」
「まぁ、結構警備体制は厳しいわね。国の研究機関だから」
「へぇ……」
となると油断が出来ないので、まずはその研究機関を遠くからでも偵察をするべきだと思い、ニールは半ば強引にユフリーにこの先の道案内をさせる事を約束させた。




