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104.敵を欺くにはまず味方から

 ギルドの冒険者コンビを何とか退け、透明のケースを開けて破片(?)を回収したニールは、改めてこの図書館から脱出を試みる。

 だが、そんな彼の耳にまた新たな足音が聞こえて来た。

「……!」

 まさかもう増援が来てしまったのか、それとも図書館の職員か帝国騎士団の団員か?

 いずれにせよ、ここから脱出する為にはまた同じ様に倒していかなければならない存在だろうと思いつつ、ニールは開きっ放しの出入り口のドアの陰に身を潜める。

 やって来た人物が、イルダーとエルマンの様子を見て驚いている隙にコッソリと機密書物庫を出るか、あるいは後ろから奇襲を掛けて倒すかの2パターンのシミュレーションを頭の中で考えながら。


 だが、そのシミュレーションは部屋に飛び込んで来た人物の姿を見て一瞬でニールの頭の中から吹き飛んでしまった。

(……ん!?)

 ドアの陰から様子を窺って飛び出すタイミングを探っていたニールの目に、明らかに見覚えのあるシルエットと服装の人物が映る。

 それは同時に、ニールに幾ばくかの安心感をもたらす人間でもあった。

「お、おい、ユフリーか!?」

「あっ、ニール……無事だったのね!」

 息を切らして飛び込んで来たのは、この世界に来て初めてニールが出会ったこの世界の住人であるユフリー・カルディルだった。


 良かった、と胸を撫で下ろして息を吐くユフリーだが、まだ安心は出来ない。

「安心するのはまだ早い。さっさとここから出るんだ。それと他のメンバーはどうした?」

「ダメ……みんなギルドの連中に捕まっちゃったわ」

「そうか……」

 シリルもエリアスもミネットもギルドのメンバーに捕まってしまったらしく、ユフリーだけが無事に逃げ切ったらしい。

「奴等は私と貴方以外のメンバーを捕まえて安心しているみたいだったわ。何とか私は運良く逃げて来られたけど、まだ町の中にはギルドの連中がウロウロしているから、向こうの気が緩んでいる間にこの町を出ましょう」

「ああ、そうだな!!」

 彼女の言う通りだとニールも同意し、まずはこの町を脱出するべくユフリーと共に歩き出そうとした。


 ……が、その2人の後ろから叫び声が上がる。

「ダメだ、行くな!!」

「え?」

 2人の背中に向かって声を掛けたのはエルマン。

 更に隣で拘束されたままうごめいているイルダーも、エルマンと同じ様に妙な事を言い出した。

「着いて行ったらあんたまで捕まるぞ!」

「何を言って……」

 言ってるんだ、とニールが言い切る前にイルダーが再び叫んだ。


「その女は英雄のエジットの彼女なんだよ! あいつと繋がっているのは俺達の方で既に調べがついているんだ!!」


「……は?」

 演技でも何でも無い、素の表情と声色をしながらニールはユフリーの方を振り向く。

 しかし、彼女は顔色1つ変えていない落ち着き様なのでそれがまだ本当かどうなのか不明だ。

「お……おい、ユフリー……」

「何言ってるのよ。今まで私は色々情報収集をしたり、それからここにもこうして一緒に逃げて来たじゃない?」

「そ、そうだよな」

 今まで自分の世話を色々と焼いてくれていたユフリーを、素直に裏切り者だとは信じられないニール。

 なのでそのまま拘束されている2人を放っておき、改めて機密書物庫から続く通路を渡って図書館から出て行こうとした時だった。


「おい、そこで止まれっ!!」

 再びバタバタと足音が響いて来たかと思えば、一般利用者の居るフロアから通路を抜けて機密書物庫に飛び込んで来た3つの影がニールの目に入った。

 それは「既に捕まった」とユフリーが言っていた筈のシリル、エリアス、ミネットではないか。

「は、え、あれ? な、何でここに……」

「話は後だ。おい、今までよくも俺達を騙してくれていたな、このスパイ女!!」

 激昂している様子のシリルの斜め後ろから、それに続いてエリアスとミネットの声が上がる。

「俺達は裏切り者じゃない。裏切り者はこの女だ!!」

「そうよ。全てこの女の部下が白状したの。最初から貴方の世話をするふりをして、行動力や戦いの実力を把握する為にスパイとして情報を全てエジット、それから騎士団に流していたってね!!」


 3人が口を揃えてユフリーとニールに向かって「ユフリーはスパイだ」と叫ぶ。

 この突然の展開に対して唖然とするニールの横で、ユフリーはハァーッと溜め息を吐いた。

「あーあ、せっかく3つ目の遺跡まで後もうすぐだったのにね。でもここまで来られたのなら私も良くやったと思うわよ、自分でね」

 言い終わると同時、ニールのジーンズの右ポケットから顔を覗かせているあのショーケースの中の破片をサッと抜き取るユフリー。

「なっ!?」

 素早く反応したニールがそれを取り返そうと動くが、次の瞬間ニールの右にユフリーが人差し指を突っ込む。

「ぐふぉ!?」

 その突っ込む勢いこそ軽くではあるものの、突然の行動と痛みに思わず尻から床に倒れ込むニール。


 ユフリーの暴挙に対して他の3人も動こうとするが、彼女はズボンのポケットから1つの黒い球を取り出して地面に投げ付ける。

 その瞬間、大量の白煙が彼女を中心にして吹き上がり、近付こうとした3人とニールの視界を奪う。

「げほ、げほっ……ユフリー!!」

 煙幕と共に忽然と姿を消してしまったユフリーに対し、届く事の無いニールの叫び声だけが虚しく機密書籍庫に響いた。


 ステージ7 完

女に目に指を突っ込まれたのは筆者の実体験だったりします。

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