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101.図書館の異変

「一体何が起きたんだ!?」

 イルダーとエルマンは、エジットから連絡を受けた「魔力の無い人間」が向かっているんじゃないかと見当をつけて自分達もやって来た国立図書館で騒ぎが起こっている事に気がついた。

 騒ぎの場所の近くに居る司書にイルダーが怒声交じりの質問をすれば、こんな答えが返って来た。

「利用者の誰かが本棚を倒したらしくて……」

「うっわ、こりゃひでえ」

 エルマンも思わず顔をしかめる。

 国立図書館の一角にある本棚が倒れ、その倒れた本棚がまた別の本棚を倒し……と言う連鎖反応チェインリアクションで多数の利用者や帝国騎士団員達、そして図書館の職員達も総動員で復旧作業に当たっていた。

「何でこんな事になったんだよ?」

「それが俺達の見えない場所で誰かが倒れたらしくて。仕事を増やしてくれるもんですよ、全く……」

 エルマンに質問された帝国騎士団員の1人は、呆れながらも本を回収して立て直した本棚に戻す作業を続けている。


 それをエルマンの横で聞いていたイルダーが、指を自分のアゴに添えてうーんと唸って考え込む素振りを見せる。

「……」

「おい、どうしたんだよイルダー?」

「普通……本棚ってそんなに簡単に倒れる様な物とは思えないんだが」

 その一言にエルマンもハッとした顔つきになる。

「そういやそうだな」

 この国立図書館に限らず、本が沢山詰め込まれている上にこうしたかなり大きな本棚が倒れるなんて言うのは「特別な事情」でも無い限りはそう簡単にはあり得ない話だ。


 そう考え始めると、長い付き合いの若き冒険者2人の視線は自然と機密書物庫に繋がるドアの方に向いていた。

「……イルダー」

「ああ。怪しいな」

 立ち上がって機密書物庫の方を睨み付けるイルダーの目線は、まるでこれから狩りにでも向かうかの様な肉食猛獣を想起させる。

「誰かこの中で、あの機密書物庫に近付く怪しい人影を見た者は居ないか?」

 作業をしている人員に向かって声を張り上げるイルダーだが、その場に居る全員は揃えて首を横に振る。

「いいや、俺は見てないぜ」

「私も見てないわよ」

「僕も見てないっすよ」


 どうやら目撃情報が無い、と言う事はますます怪しい。

「やっぱり怪しいぜ、こりゃあ」

「エルマンもそう思うか?」

「ああ。本棚を倒したのは恐らくカモフラージュ……それも、これだけの大掛かりな作業をさせるだけの人員が必要なだけの騒ぎを起こすのに1番手っ取り早い方法なら、これ位しか思いつかねえだろうし」

 目撃情報が無いイコール、誰も機密書物庫に近付いていない訳では無い。

 むしろ「機密書物庫に近付く隙を作る為にわざと本棚を倒した」と言うのが凄く自然な考えだ。


 不信感が拭えないイルダーは、勝手な行動とは分かっているが中に入るべくエルマンを促す。

「あの中に入るぞ、エルマン」

「そうするか。ったくよぉ、ギルドの奴から依頼が来たからこっちに来たって言うのに、何で俺達がこうやって近くに居る時に限って……」

 ぼやきつつも機密書物庫の方へと足を進めるエルマンを肩越しに見て、彼を促したイルダーは不安を払うかの様に腰に提げている愛用のロングソードの柄を1度だけギュッと握り締める。

「ここに来る前に色々と話したと思うけど、あそこは機密書籍がギッシリ詰まっているのに比例して封印も強力なものが掛かっているのは覚えているな?」

「関係者以外立ち入り禁止」の札が掛かっているドアを開けて、機密書物庫へと続く通路を進みながらイルダーが自分の斜め後ろを歩くエルマンに問う。


「それなら聞いた。ギルドの冒険者だとSランクの冒険者以外は入れないんだろ? じゃあAランクの冒険者の俺達には関係ねーもん」

「他人事みたいに言うんだな」

「他人事っちゃー他人事だぜぇ? ……ここに来る前の俺達ならな」

 最後の一言だけエルマンの声のトーンが変わり、同時に彼の目つきが鋭いものに変わる。

 何故なら今、彼等が真っ直ぐ進んでいる薄暗くて短い通路の床に、まだ真新しい靴跡がうっすらと見えるからだ。

 壁に備え付けのランプはあってもやや薄暗いこの通路で、イルダーよりも視力の良いエルマンが肉眼ではハッキリと分からない様な「それ」を見つけたのである。

「その足跡がそうだとでも?」

「そうだ。まだ真新しいから間違いねえ……この先に誰かが入り込んだ形跡だ。それも封印を破ってな」


 そう言われたイルダーは、やおら腰のロングソードを抜いた。

「準備は大丈夫の様だな。なら……行くぞ!」

「ああ!」

 もし本棚を倒してまでここに入り込んだ人間が居るのであれば、ギルドから依頼を受けてここにやって来た身としてはこれ以上勝手な行動をさせる訳にはいかない。

 2人は早足で通路を駆け抜け、その突き当たりにあるドアを目指した。

 この通路より先に書物を持ち出すのはNGと言うルールがあるし、そもそも封印が掛かっているならば本来誰もこの先には居ない筈だが、後ろからイルダーを追い掛けるエルマンの耳にそのイルダーの緊張した声が届く。

「……エルマン」

 呟くイルダーの視線の先には、魔術の封印でロックされている筈なのに少しだけ開いている機密書物庫のドアがあった。

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