100.とある記憶の潜入作戦
(俺が何かの映画だったかで見た記憶があるんだが、セキュリティの厳重な金庫に潜入する為に騒ぎを起こして、そのセキュリティガードの気を逸らすって話があった様な……)
余り記憶力が良くないニールだが、それでも何とかその作戦内容を思い出しに掛かる。
(確か1人が騒ぎを起こして……それ以外の3人はその騒ぎを起こしている内に潜入したって話だったな)
だったらそれを今度は自分が実行する、とは言うが易しの行うが難しである。
このKOTOWAZAは「言うのは簡単でも、やるのは難しい」と言う意味らしい。
そもそもその映画では全部で確か4人と言う多人数だったからこそ成功した話であって、現在1人しか居ないニールでは人数が足りないのは見て明らかだ。
(まずいな、これは完全に手詰まりか……!?)
ユフリーやシリルが居ればと思うのだが、彼等も彼等で大変な事になっているので贅沢は言えない。
何とかして潜入する手立てを考えないと……と思いつつ視線を辺りに巡らせてみるが、目に入るのは大量の本が詰まっている本棚ばかりである。
(本がこれでもかと詰まっている本棚しか無いな)
本棚だからそれは当たり前じゃ無いかとセルフ突っ込みをかますニールだが、その瞬間に彼は頭の中に1つのアイディアを思いついた。
しかしそれには多大なリスクが伴う。
(俺1人で出来るか……?)
うーんと腕を組んで考えてみるものの、迷っている時間は余り無い。
その作戦を実行すれば図書館中がパニックになってしまうだろうが、それで機密書物庫に入る為の時間を稼げて見張りの帝国騎士団員達の気が逸らせるのであれば、それ以外の作戦は考えつかない。
作戦の為に必要なのはある条件だ。
(この辺りなら丁度良さそうだな)
本棚の1つを見上げてニールは心の中で呟く。
機密書物庫に続くドアからはちょっとだけ距離があるものの、丁度帝国騎士団員達からは死角になる位置だし、他の利用者も職員の姿も周りには見当たらない。
実行するなら今しか無い、と考えたニールは本棚の縁につま先を掛け、グッと力を込めて本棚の2段目、3段目と上って行く。
本が沢山詰まっている本棚は重い。
紙の重量と言うものは意外に侮れないもので、1枚だったら息を吹けば飛んでしまう位に軽くても、それが本棚一杯となると簡単に人間を押し潰してしまう程だ。
だから本棚を倒して帝国騎士団員達と他の利用者、そして図書館の職員の目を逸らそうと考えたニールだが、彼は過去の経験から「棚の下の方は重い」と言う事を知っているのである。
下の方に行けば行くだけ上に置いてある物の分の重量が増えるし、その分安定性も増している。
反対に上の部分は重量が軽く重心も不安定なので、少しの力でも簡単に押し倒せたり引っ張り倒せたりする。
そう、今の本棚の様に。
(1番上のこの部分で……そして裏に人は居ない……チャンスだ!!)
出来れば被害を最小限で留めたい。
だからこそ事前に他の人が本棚の陰に居ないかを確認し、倒しても本だけがばら撒かれるかどうかで済むかをチェック済みだ。
ニールは本棚の1番上から覗ける範囲だけを覗いて最後の安全確認を行い、作戦開始。
今の自分が飛びついている本棚から、足を伸ばして十分に蹴り飛ばせるだけの距離の狭さで後ろにも本棚がある。
これだけ多くの書物を保管している国立図書館だからこそ、まるで迷路でも作るかの様に所狭しと本棚が立てられているのだ。
(良いぞ良いぞ、良い感じだ)
本棚の1番上に手を掛け、後ろの本棚に向かって思いっ切り足を伸ばして一瞬だけ本棚の間に自分の身体で橋を作る。
その橋は本棚を蹴った事ですぐに崩れ、崩れた橋の片方を支えている本棚がギィィ……と音を立てて傾き始めた。
「ふっ!」
息を吐いてニールは床に着地し、素早く本棚から離れて様子を観察。
「ほ、本棚が!!」
「崩れるぞ、危ない!!」
帝国騎士団員や他の利用者の慌てふためく声が聞こえるが、1度倒れてしまえば止める事は出来ない。
まるでドミノ倒しの如く本をばら撒きながら、ドッカンドッカンと音と埃の煙を立てて次々に倒れて行く。
(うおおやべえ!!)
全部で5つの棚を倒し、阿鼻叫喚の状況を作り出しているその横でニールは機密書物庫のドアへと向かってダッシュ。
そこには見張りの帝国騎士団員達はもう居なかった。
(まさか、こんな所で俺の映画やドラマ鑑賞の趣味が役に立つとは思わなかったぜ)
ニールの口元から思わず苦笑いがこぼれる。
彼は職業柄、演技の研究で普段から色々な映画を見ている。
スタントの仕事もたまに入るので、見る映画のジャンルとしてはアクションの比率が高くなってしまいがちなのだが、恋愛映画も見るしホラー映画も、それからドキュメンタリー映画も見る。
それから映画に限らず、長編のシリーズ物のテレビドラマも録画して繰り返し見て演技の研究をしたりストーリーを楽しんだりもしているニールだが、その数多くの鑑賞経験で上手く機密書物庫へと潜り込む隙を作る事に成功したのだった。




