99.国立図書館
(ショップで聞いた話によれば確かこの辺りだった筈だけど……あれか?)
あのショップの店主とその妻から聞いた、ニールが向かおうとしているその場所の情報。
それはこのソルイール帝国のみならず、エンヴィルーク・アンフェレイアと言う世界に関しての書物が多数保管されている、直方体型のシルエットが特徴的な茶色い外壁の建物の国立図書館だった。
その国立図書館目指して、ニールはギルドの冒険者達に見つからない様にしながらようやくここまでやって来た。
思えばあのユフリーの話をヒントにしてここまでやって来ただけの話で、もしかしたらこの図書館には何も無いのかも知れない。
(でも、ユフリーがああ言ってるんだったら見るだけ見てみる価値はあるだろうな)
出来れば……いや、そんな中途半端な希望では無くて「ここに地球に帰る為のヒントがあってくれないと困る」位の、上から目線とも言えるその希望を胸にやって来た国立図書館。
「はい、こちらが館内の案内図です」
「どうも」
入り口のインフォメーションカウンターで館内の地図を借りて、そのついでにこの図書館に関しての色々な情報をニールは聞き出し始める。
ギルドの冒険者連中とはまた違い、それこそファンタジー作品のテンプレートとも言える様な甲冑に身を包んだ人間が、国立図書館の建物の外や中の至る所を警備している。
彼等もまた帝国騎士団の団員だ。
帝国騎士団からは今までメインの存在で追い掛けられる事はされていないのだが、エジットと仲の良い帝国騎士団長セレイザの息はここの騎士団員にも確実に掛かっているだろうな……とニールは説明を聞きながら思っていた。
国立、と言われるだけの事はあってこの図書館には数多くの貴重な書物が保管されているのだが、ニールはその説明を受ける中で「機密書物庫の事は今初めて耳にした」との演技も交えて、結果としてかなり重要なヒントを手に入れる事に成功した。
「あれ? この3階の機密書物庫……って書いてるのはどんな所なんだ?」
「そこは立ち入り禁止の場所です。国家機密になる様な特別な書物が貯蔵がされている書物庫ですから、一般の方は元よりかなり有名な冒険者の方でも立ち入りが禁止されています。入室出来るのは帝国騎士団員か、ギルドに登録されている方ですとそれこそエジット様の様にSランクの冒険者のみとなります」
「へぇ、そうなのか……」
それをインフォメーションの人間がベラベラ喋って良いのか? とニールは困惑するものの、それだけ大層な書物が貯蔵されている様な場所であればやっぱり気になってしまう。
ニールはまず一通りこの図書館を見回ってみて、そして隙を見て潜入する事を目論み始めた。
(しっかし、国立図書館と言われるだけの事はあるんだな。何処もかしこも本ばかりだけど、この中から地球への帰り方のヒントが載っている本をピンポイントで探し出すのは流石にきつい話だ……)
かなり広い図書館の内部を埋め尽くすかの如く並んでいる多くの棚には、その棚の数に見合うだけの本がギチギチに詰め込まれる状態で保管されている。
それこそ、日本に旅行した時に見掛けた東京の満員電車もビックリな状態の本棚の多さは、これからの地球への帰り方捜索の困難さとプレッシャーを無言でニールに与えた。
それに、まだここにその帰り方のヒントがあると決まった訳でも無いのだからますます気が重い。
(……ま、やるしか無いだろうな……」
この町に来て早々にあれだけの騒ぎを起こし、その上パーティメンバーとはぐれてまで自分はギルドの冒険者の連中から逃げて来た。
いずれこの図書館にも、自分以外の逃げた4人を含めて捜索の手は及ぶだろう。
だから時間を余り掛けられない事もあり、ニールは地図を片手に図書館の中を歩き始めた。
しかし。
(だーめだ、この図書館では帰り方のヒントなんてサッパリ見つかりそうに無い……)
そもそもこの図書館が広過ぎるんだよ、と図書館の利用客で賑わう一角でニールは悪態をつく。
何かヒントになりそうな本は無いか探していたのだが、およそ20分位掛けても収穫はゼロのままだった。
これ以上時間を掛けていたら、いずれはギルドの冒険者の連中までここにやって来てしまうのは想像に難くない。
(このまま当ても無く探し続けても効率も悪いし、無駄に時間ばっかり食うだけだぞ)
ブラブラと探し続けても見つからないとなれば、やはりあの3階にあると言う機密書物庫しか気になる所は他に無い。
そもそも図書館の至る所で帝国騎士団の団員が目を光らせて見張っている以上、迂闊に本棚を探し回るのは怪しい行動として咎められるだろう。
かと言って機密書物庫に入り込むのもかなり難しそうだ。
「立ち入り禁止」と書かれた札を吊り下げてある、地球でも美術館等で良く見かける鉄製のポールの間にロープを繋げた、機密書物庫への簡易バリケードを突破するだけでは無理だ。
国家機密になる様な特別な書物が保管されている、とインフォメーションからも聞いているのでまさにトップシークレットな場所だろう。
となれば、その出入り口になっている扉の横に騎士団員2人がそれこそまるで美術館の彫像の如く、直立不動で警備をしているのも頷ける光景ではある。
(くそ……どうすればあれを抜けてあのドアの向こうに入って行けるんだ……?)
何か良い手は無いだろうかと考えていた矢先、ふと過去の記憶から蘇って来た「とある潜入作戦」がニールの頭を過ぎった。




