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9.路地裏にて

 路地裏へと着地したニールは、とりあえず表通りに出る為に路地裏を歩き回る。

 さっき少しばかり睡眠をとったとは言ってもまだ十分に眠れてはいなかったのだが、そこはカラリパヤットのトレーニングで培ったこの疲れにくい身体のおかげでそこまでの疲れは感じていなかった。

 だが、そんなニールにはまたもやトラブルが待ち受けているらしかった。

 この町の地理には当然全く通じていないニールは適当に路地裏を歩き回るしか無かったのだが、何回路地裏の角を曲がって別の路地裏に入ったのだろう……と自問自答し始めた時だった。

(おい……何かやってるぞ)


 ニールの視線の先には、1人の男の老人がいかにもと言う荒くれ者達に絡まれている光景があった。

 その時、ニールにはその老人がいじめられていたかつての自分と同じだと言う事に気が付いた。

 そう考えると、自然と足取りは荒くれ者達の方に向いていた。

「おい、何してるんだ?」

「何だぁ、てめえ?」

「見りゃー分かんだろ、金借りてんだよ」

「……それはつまり、恐喝じゃ無いのか?」

「ああー、うっせーなぁ!!」

 荒くれ者の1人が殴り掛かって来たが、ニールはそのパンチを手で弾いてその男を後ろに投げ飛ばす。


 それを見た他の荒くれ者達が色めき立ち、ニールに向かって来た。

(なかなか多いが、あの山道の時に向かって来たあいつ等程では無い事だけは確かだ!!)

 1人が蹴り掛かって来たので、そのキックをして来た左足のすねを自分も左足の裏を使って蹴ってブロックし、そのままの流れで左足を使って相手の胃袋を確実にキック。

 その男が倒れた所で次に殴りかかって来た女の腕を取って、突っ込んで来た勢いをそのまま後ろに逃がして投げ飛ばす。

 だが次の瞬間、ニールが投げ飛ばした隙を狙って別の女がニールの後頭部に良いハイキックを放つ。

「ぐぅ!?」

 急所の塊である頭に不意打ちを食らい、そこに今度はさっきキックをブロックした男の左ストレートがニールの顔面へ。

 続いて投げ飛ばした女が立ち上がって来て今度はダッシュからの膝蹴りをニールの胸へ。

「ぐへぇ!」

 最後に今まで黙っていたリーダー格らしき大男が、膝蹴りでよろけたニールの頭に思いっ切りパンチを食らわせれば、そのショックでニールは気絶してしまった。


 目が覚めると、自分が毎朝見上げているシミの付いた天井よりも更に汚くて古いのが丸分かりの、木製の天井が視界に飛び込んで来た。

(……あれ……?)

 ニールはゆっくりと身を起こして周りの状況、それから気配を確認する。

(何処だここ……確か、俺……)

 自分はあの時、路地裏で4人にやられてしまってそのまま意識を失ってしまった筈。

 なのにここは、明らかに路地裏の薄汚れた石畳の地面では無かった。

 と言う事は誰かが自分を運んで来たのだろう……と推測したものの、まず確認するのは別の事だった。

(金とスマフォは……ああ、無事だな)

 パンツの中に隠しておいたのが幸いして、どうやら金もスマートフォンも無事だった様だ。


 かつ上げでも、パンツを下ろしたりするレベルまで相手の服を脱がそうとする人間は殆ど居ない。

 なので金と一緒に纏めて入れておいた方が便利だろうと言う事で、スマートフォンもそこに入れておいたのが功を奏した様であった。

(くそ……やられたか。やっぱり大人数相手にするのは挟み込まれない様にするべきだったのに……油断した)

 自分の慢心が原因だった。

 あの時大人数に山道で勝てたから、今回も勝てるだろうと思って踏み込んで行ったらこのざまである。

 カラリパヤット歴20年、カラリパヤットのインストラクターの資格もインドまで行って習得して来たのに、これじゃあ不甲斐無さ過ぎる結果では無いか。

 頭もまだズキズキする。

 余り動かさない方が良いよなーと思うニールの目の前に、とんでもない人物がこの後姿を現わす事になろうとは、この時のニールには想像も出来ない事であった。


「あら、気がついたの?」

「……!?」

 部屋のドアをガチャリと開けて入って来たのは、ニールにも見覚えのある人物だった。

「あんた、どうして……?」

「どうしてって……倒れてたからここまで連れて来たのよ」

「いやいや、そうじゃなくて……何で君がここに居るのかって事だよ」

「え、だから貴方をここまで連れて来て傷の治療とかをしていたのよ」

 何だか話が噛み合っていないニールと、あの最初の村に居た筈の酒場の従業員の女。

 そもそもあの村からはかなり距離がある筈なのに、何で彼女がここで自分の看病をしているのだろうか?

 そもそも、ここは本当に自分が意識を失ったあの町にある建物の中なのだろうか?

 考えれば考える程に頭が混乱してしまうニールは、一旦深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。話が段々とややこしくなって来たから一旦状況を整理しようと思うんだが」

「そうね、私もその方が良いと思うわ」

 酒場で出会った、この垂れ目が特徴的な女と一緒に物事を考えた方が問題を素早く解決出来ると踏んだニールはゆっくりとベッドから起き上がった。

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