第六話~決着~
はい、第六話です。いつも遅くてすいません。
拙い部分しかありませんが、それでも宜しければ読んでください。
急いでダンジョンに戻る。入り口にはギトギト・アブーラは居なかった。まぁ、いない方がいいが。ダンジョンの階段を駆け降りる。
マップを開くと赤い丸と青い丸が動いているが先ほどの場所からはさほど動いていないようだった。
「なぁ、魔力は回復したか?」
「あぁ、体力、魔力共にほぼ回復した。」
「よし!急いで向かうぞ!」
「わかった!」
アレックスさんの元へ急いで向かう。激しいぶつかり合いの音が聞こえる。そこに着くとアレックスさんはボロボロだった。
「アレックスさん!!」
「なっ!ヤクモ!?なんで来た!」
「何でって、助けに来たんですよ!」
すると、キメラスネークはこちらに突進してきた。
「くっ!危ない!」
アレックスさんは俺をかばうがキメラスネークの横から火の矢が飛んできた。
「もう一人いるぞ!父の敵ここで取らせて貰う!」
「・・・まぁ、そういう事です。」
「なるほど。だが、やつは普通のキメラスネークと違うぞ。」
「そこについては作戦があります。」
「ほう、なんだい?」
「ただ、これは『簡単で難しい作戦』です。二人で対処します。アレックスさんはここから離れてください。」
「なるほど、しかし二人で勝算はあるのか?」
「正直確率は低いですが、一番勝率が高い方法です。」
「なら、私が加わろう。」
「な!アレックスさん!無理しないで下さい!」
「無理・・・か。ヤクモ、希望は時として無理なことをも可能にしてしまう。なら私もその希望に賭けようと思う。」
おいおい、まじかよ。普通の人間なら倒れてんぞその傷。だが、漢が一度やると決めたんだ。無下にすることはできないな。
「なら、頼みましたよ!アレックスさん!作戦の内容はあいつの口を開けてその中にアリアの魔法をぶちこみます!」
「なるほど、『簡単で難しい作戦』か。」
「来ます!アレックスさん!」
キメラスネークは尻尾を使い薙ぎ払いをする。アレックスさんは後退するが俺は前に前進した。
「おい!ヤクモ危ないぞ!」
「大丈夫ですよ!」
こちとら数学と科学だけは人並みに得意でなぁ!尻尾の真ん中を体の中心で薙ぎ払いしているのであれば、真っ直ぐに行けばあいつに近づけるはずだ!
予想通り、尻尾の先端は明後日の方向へ行っているがこちらまでくる気配はない。急いで口へと向かう。キメラスネークは俺の方向を向いている。それはかなりの好都合!威嚇したキメラスネークは口を開ける。
「そう簡単に二回もくらうかよ!盾状態!」
キメラスネークの中で手に入れた盾を出す。直径が俺の身長ほどある盾を縦にし口が完全に閉じないようにする。
「やぁ、お待たせ。」
「アレックスさん!」
「牙は任せたまえ!はぁ!」
右手の斧で牙の根本を攻撃すると同時に左の斧で攻撃し、へし折った。すげぇ!!
するとキメラスネークは怯んだようで口を大きく開け、体を仰け反らせようとするが
「させるかよ!クリス!!」
クリスを出して顎ごと地面に固定する。その間にもう一本の牙をアレックスさんが折っていた。これで噛まれる心配はないな。
するとアレックスさんは斧を捨て、キメラスネークの上顎を閉じないように支えていた。身体からは血が滲んでいた。するとアリアが先ほどまで魔法を撃っていたアリアがこちらに走って来た。
「アリア!今だ!!」
「任せろ!求めし我の灼熱の火よ、我が名に従い敵を焼き尽くせ・・・。『フレアフルバースト』!!」
赤い魔法陣がアリアの目の前に現れ、その円から火柱がでてきた。火柱は一直線にキメラスネークの体を通り、体を焼き尽くしている。焦げた匂いが辺りに広がる。アリアが魔法を終えたと同時にウィンドウが開かれる。
『この『ダンジョン』のボスを撃破しました!』
まじかよ。倒しちゃったよ。
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁ!!終わったあぁぁぁぁ!!」
「父さん・・・仇は取ったよ。」
「全く、君たちは無茶するね。まぁ、私もだな。」
三人は顔を見合せ笑いあった。今日を生きた。死ぬかも知れない状況でだ。自然と笑顔もですだろう。しかし、何かが引っ掛かる。
「しかしこのフロアのボスがあれだと、下の階層のボスは厳しいな。」
「・・・待って下さい。アレックスさん。今なんて言いました?」
「ん?下の階層のボスは厳しいなと言ったが。」
「違います。その先です。」
「このフロアのボスって事かい?」
この『フロア』のボス?おかしい。俺のウィンドウにはこの『ダンジョン』のボスと表記されている。
「アレックスさん。一つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「下の階層からボスって上に上がってくるもんなんでしょうか?」
「いや、無いだろう。そんな事があるとすれば下の階層はボスがいなくなるからね。」
俺の中の引っ掛かりが解けた。つまり、ここのダンジョンのボスは下に『何か』が居たからここまで逃げてきた。つまり下の階層に居るやつは・・・。
「ナギさん!!」
『ひゃい!な、何ですか!?いきなり!』
「お願いです。このダンジョンの敵を全てマップに映して下さい!」
『いきなり何を・・・』
「早く!!」
『は、はい!』
急いでマップ上に敵のアイコンを写すが、それぞれどの階層も敵がいない。一番下の階層・・・10階層にはどす黒い丸があった。
「お、おい。ヤクモどうしたんだ。いきなり大声をあげて、それにナギさんやら、マップって単語が聞こえたが・・・。」
「アレックスさん。一刻も早くここから逃げましょう!」
「なっ!一体どうし」
「説明はお店でします!」
急いで籠手にキメラスネークと牙を喰わせる。
ウィンドウがでてたがそんなの確認してる暇なんてない!急いで出口へと駆け出す。幸い敵もでてこなくダンジョン入り口に着いた。もう一度マップを見るが先ほどの場所から動かない。
「見逃し・・・いや、興味はないって所だろうな。」
「さぁ、説明してくれ。一体どういう事なんだ?」
適当に誤魔化しても信じてくれないだろう。なら、正直に言った方がいいか。
「俺、実は神から能力貰っていて、その内の『マップ』を貰ったんです。」
「なっ!神だと!?どの神なんだい!?」
「えーと、一応ブレイドって神なんですけど、今日は奥様のナギさんって神ですね。」
「ふ、二人も・・・。」
「お前は一体何者なんだ?」
「俺は、八雲正義だよ。それ以下でもそれ以上でもないな。」
「いや、一度話を戻そう。その『マップ』はなんなんだい?」
「ダンジョン内を階層別、さらに敵、味方の判断ができます。」
「・・・。」
アレックスさんが絶句してる。それはそうだろう。だって今考えたらチートだもん。
「あー、ナギさん。バラしてもよかったんですかね?」
『うーん、信頼できる人でしたら大丈夫じゃないですか?』
「この二人は信頼できますので、俺と同じ様に声を聞かせてあげてください。」
『はーい。えいっ!』
「一体どういう。」
『あ、お二方とも聞こえますか~?』
「「!?!?」」
信じられないと言うような顔をしている。アリアに至っては杖を構え辺りを見渡している。おい。神だぞ。やめとけ。
『そんなに固くならず、私はブレイドの妻のナギと申します。よろしくお願いしますね。』
「神と会話できるとは・・・一生かけても会話できぬと言うのに。」
アリアは目を白黒させ口をパクパクさせている。
「まぁ、そういう事です。ちなみに先ほどのキメラスネークはここのダンジョンのボスだったんですよ。」
「な、なんだって!?それは本当か!?」
「はい、しかも一番下には俺たちでは絶対に倒せない敵がいます。」
『え?どういう事ですか?』
「どす黒い丸があったんですよ。あれって危険だから『マップ』にある機能なんですよね?」
『いえ、敵は赤い色、味方は青い色の丸のみで表示されますよ?』
「・・・!!」
背中にゾクりと嫌な汗をかいている。あいつは、いつでも殺せるとこちら側に干渉したんだ!つまり、神にも対抗できる力があると考えられる。
頭を抱え込んだまま座り込む。
「お、おい。大丈夫か?」
アリアがこちらを覗き込む。大丈夫じゃない。何がいる?考えろ・・・。考えるんだ!
『そういえば、先ほどの男はどこに行ったんですか?』
「男?あの太った男でしょうか?」
アレックスさんとナギさんが他愛ない会話をしている。
『ええ、その人このダンジョンの欲望アイテムを持ち出したんですよ!まったく!』
「・・・!それだ!」
『いきなりどうしたんですか!?』
「ナギさん欲望アイテムって誰が作っているんですか?」
『あれは・・・。あれを作っているのは、私たちとは異なる神。『邪神』です。』
「なっ!邪神だって!?」
アリアが吠える。
「やはり。」
「どういう事なのか説明してくれるかい?」
「まず、状況を整理したいと思います。まずはアレックスさんのお店に行きましょう。」
全員頷く。俺は振り向いてしまわない様に急いで、その場を離れる。いつまでも拭いきれない不安と共に・・・。
「お!兄貴お帰り!って!めっちゃボロボロじゃねぇか!なにしたんだ?」
「あぁ。ただいま。まぁ、色々あったんだ。」
「ふーん。そうか。まぁ、無事ならいいか。」
色々で済ませないで下さいよ・・・やばかったんですからね?
「お?そっちの姉ちゃんはなんだ?」
「私はアリアだ。見た通りダークエルフだ。不愉快だったら外にいる。」
「でーじょーぶ、でーじょーぶ。気にすんな!」
バーンさんはニカッと歯を見せ笑う。アリアも安心したのかホッと胸を撫で下ろした。
「えらい遅かったけどダンジョンそんなに深く潜ったのか?」
「いや、敵が少々手強くてな。」
「あのダンジョンそんな強い敵がいるのか!?」
バーンさんが驚いた表情を見せる。
「まぁ、もう大丈夫だろう。多分。それより、ヤクモ。先ほどの話聞かせてくれるかい?それと、バーン、薬を持ってきてくれ。」
「あいよ。」
と、バーンさんは薬を取りに行き、アレックスさんは俺たちを奥のリビング(?)に案内してくれた。長いテーブルに椅子が五つ置いてある。その内の奥の椅子にアレックスさんが座る。
深いため息をつき、上着を全て脱ぐ。見事にスマートな筋肉、無駄がない。だが所々、傷がある。そして横腹辺りにも先ほどの戦闘で出来たであろう傷があった。
「見苦しい物を見せてすまないな。この傷は冒険者の頃についた傷だ。気にするな。」
「いえ、大丈夫です。それよりお腹の傷、大丈夫なんですか?」
「これか?見た目ほど深くはない。2、3日すればすぐに治るさ。」
「兄貴~、薬と包帯と布、あと着替え持ってきたぞ。」
「お、すまないな。」
アレックスさんは薬を半分ほど飲み、残り半分を布にかける。その布を横腹にあてその上から包帯を巻く。そして普段着らしき服を着てこちらを向いた。
「さて、先ほどの話だが。一つ頼みがある。」
「なんですか?」
「バーンにも神の声を頼む。」
「あ、はい。了解です。ナギさん頼みます。」
『はいはーい。』
ノリが軽いな。まぁ、これで全員がナギさんの声が聞こえるようになったな。
「にーちゃん何の話をしてるんだ?」
『もしもーし、聞こえますか?』
「あ、すいませーん。今日は店じまいですー。また明日お越しください。」
『はーい。って!お客さんじゃありませんよ!?私はブレイドの妻のナギと申す神です。以後お見知り置きを。』
「あ、神様でしたか!・・・って!!神様ぁ!!?こ、これはとんだ失礼を!」
『いえいえ、構いません。それではヤクモさん。説明をお願いします。』
「はい。先ほどダンジョンに潜った時にキメラスネークが現れまして。」
「キメラスネークか・・・厄介な敵だな。そいつがそこら辺にうようよ居たのか?」
「いえ、そいつはそのダンジョンのボスでした。そいつの中からこの人を救出し、なんやかんやあって倒しました。」
「ふーむ。色々ヤバいってことは伝わったけど。」
「本題はここからです。キメラスネークはダンジョンのボスだったんですよ。しかも地下10階の。」
「え?どういう事だ?しかもボス部屋をぶち破ってきたってのか!?」
「ボス部屋がなにかは今の俺には、わかりませんが、まぁ、そういう事でしょう。そして、俺が考えていることが正しければ、地下10階にいるのは『邪神』です。」
「はぁ!?なんだって!?じゃ、邪神!?」
見事なリアクション。だが、みんな同じ反応をするだろう。
「実はこのダンジョンに入って暫くしたときに確かギトギト・アブーラってやつにぶつかったんですよ。」
「ギトギト・アブーラではなくカネモチ・ジャララだがな。」
と、アリアがツッコミを入れる。
「・・・そいつが、欲望アイテムを持っていまして。ナギさんが言うにはそのアイテムは邪神が作ってるということでしたので、おそらく地下には邪神がいます。」
「おい、どうするだよ!とりあえずそのカネモチだかギトギトだか知らんがそいつを捕まえようぜ!」
「ダンジョンを出た時は居たんですが、帰ってくる時にそいつは居なかったんですよ。馬車と一緒にね。」
「つまり、ヤクモ。あの男は逃げた・・・。そういう事かい?」
アレックスさんの言葉に頷く。確かに俺たち二人がダンジョンに入る時にはもう居なかったから今から追いかけようにもどこに行ったかも不明だ。
「そうだ!リカさんに言えば探してくれるのでは?」
「彼女達はもう、帰ったよ。」
「ええっ!早くないですか?」
「それは、そうだろう。エーベルを衛兵に渡さなければいけないし。それにエーベルがいなくても明日に帰る予定だったさ。彼女達もギルドの経営があるからね。」
「うっ、確かに。」
「なんだったら行くかい?」
「どこにです?」
「彼女達のギルドへ。」
「えっ?」
こうして明日、俺はリカさん達のギルドへ向かうことになった。向かわざる負えないんだけどさ。
「さて、ヤクモ。キメラスネークの件についてだが。」
忘れてた!!邪神がどうこうで頭がいっぱいだった!
「えーと、とりあえず広い場所に行きましょうか。」
「うむ。そうしよう。」
俺達は、店から少し離れた場所へ移動する。そしてウィンドウを開き、キメラスネークの死体を外に出す。
「うおっ!!でっけぇぇぇ!!!」
「戦闘中は気にはしなかったがやはりこのキメラスネークは別格にでかいな。」
別格ってことはこいつよりでかいのは現れないんですね?そうなんですよね?よかったー。
俺の心配は少し収まった。さてと、敵を見たら恒例の~。
「鑑定!」
と、目の横でピースを決めてみる。もちろんただのおふざけだ。
「・・・。」
同時に冷ややかな視線も頂いた。はい、調子に乗りました。すいません。
〈鑑定〉
キメラ・スネーク
状態:死亡
邪神の依代
「!!」
考えるより言葉が先に出る。
「喰え!籠手!」
もう一度籠手に戻そうとするが謎の黒い手が、籠手の頭を地面に叩きつけたと同時に黒い霧になって籠手に戻っていった。こいつ!強い!?
「ははっ!外だ・・・、外に出たぞ!!何百年ぶりだぁ?まぁいいか。」
『気をつけて下さい!あれは邪神です!』
「あれが、邪神・・・。」
ゴクリとアレックスさんが唾を飲み込む。
「あ?お前らが俺を出してくれたのか?はいはい、ごくろーさん。それじゃあ死ね!!」
咄嗟にアリアを横に蹴り飛ばす。するとアリアが居た所に俺の籠手にそっくり・・・いや、全く同じのやつが通り過ぎる。
「あ?邪魔してんじゃねえぞ?クソガキぃ!」
『破魔の光!』
辺り全体が光で包まれる。あまりの眩しさに目を瞑る。
「があああああああ!目がぁ!」
「ナギさん!」
『異空間!』
すると横からまた同じく籠手と一緒のやつが邪神の両腕、両足、首元に噛みつく。
「クソッ!離せぇ!離せってぇんだ!」
「やぁ、ちょっとお話しようか。」
別の異空間から俺の元凶、ブレイドがひょっこりと顔を出し邪神の顔を左手でアイアンクローしている。
「げっ!てめぇは!?」
「駄神!」
「あ、八雲さんお久しぶりです。今もの凄く失礼なこと言いませんでした?」
「そんなことよりなんでお前がここにいるんだ?」
「・・・ちょっとした野暮用です。」
そう言いながら邪神の方を笑顔で見ている。だが、明らかに殺意がこもっている。
「またご迷惑をかけてしまいましたね。・・・そうだ!」
ゴソゴソと右手でポケットを漁っている。そして、何かを見つけた様だった。
「これどうぞ。」
指輪を渡してきた。その指輪はゴツゴツとしたアクセサリーはなく、シンプルなシルバーリングだった。
「え?おまっ、奥さんがいるだろ!」
「何の勘違いをしてるんですか!!?」
よくよく鑑定すると『使役の指輪』と書かれていた。
「多分だと思いますが、私の正体にお気づきかもしれませんが、私は邪神と神の間に産まれた存在なのです。」
「・・・やはりか。」
「やはりと言うのはどういうことだいヤクモ?」
「俺がギルドカードに登録するときに信仰する神の欄にブレイドの名前を記入したんですが、マリアさんから『ブレイドなんて神は居ない』って言われました。」
「・・・ええ。私の生まれは非常に『稀』と言っていいでしょう。」
「つまり稀だからこそ存在を隠したいってところか。」
「それもあるでしょうね。・・・さて、邪神をどうにかしないといけないのでこれにて、失礼。」
ペコリと頭を下げ邪神を異空間に連れて行った。邪神急に喋らなくなったな。なんかこういうときって一番イヤーな予感がするんだよねぇ。
「おい!私をいきなり蹴るとはどういう了見だ!!」
「あ、すまん!つい咄嗟に。」
「全く!」
腕を組んでめちゃくちゃ怒っている。後で日本の伝統『DOGEZA』をやっておこう。いや、本当にすまんかった。
そんな事より、今は邪神の残骸(?)のキメラスネークに目をやる。コイツを籠手に取り込むとどうなるんだろう。早速籠手をキメラスネークに向ける。
「喰え!籠手!」
すると、ウヨウヨと黒い物体が出てきた気のせいか、周りを見渡しているように見える。もしかしてさっきの邪神を気にしているのだろうか。
「大丈夫だ、あいつは今の所もう居ない。」
こっちを振り返り、頷いてからキメラスネークにかぶりついた。そんなに怖かったんやな。すまんかった。
無事に籠手の中に取り込む事ができた。続いて能力の『鑑定』をしようとすると、アレックスさんに声をかけられた。
「すまない、ヤクモ。少しいいかい?」
『鑑定』を一時休止しアレックスさんの方向を向く。
「どうしました?」
「キメラスネークの素材だが、少し分けてくれないか?もちろんお金は出す。」
アレックスさんのその言葉を聞き慌ててしまった。そもそもアレックスさんがいなければ俺はキメラスネークを倒せなかった。半分はアレックスさんが貰う権利がある。
「いやいやいや!お金はいりませんよ!アレックスさんのおかげでキメラスネーク倒せたんですから!半分は貰って下さい!!」
「いや、少しでいいんだ。半分も貰っても置く場所がないんだ。」
「あ、なるほど。そこは盲点でした。」
「フフッ。それじゃあ、牙一本と皮を少し、あと肉も少し多めに貰えるかい?」
「喜んで!」
『鑑定』から『解体』へ切り替える。確かアレックスさんが折った牙あったからそれと、皮を全体の30%、
肉は50キロでいいかな? と、ウィンドウで細かく設定する。牙はそのまま地面に置き、皮の上に肉を置く。
「こんなもんでいいですか?」
「充分すぎる、ありがとう。」
アレックスさんは皮の端を持って抱え上げ背負う、まるでサンタクロースの様に。いや、すごいな。
「そうそう、ヤクモ!忘れてた!」
「どうしたんですか?バーンさん。」
「お前の防具の採寸だよ!」
「あっ!」
「おっと、そうだったな。キメラスネークの皮もあるんだ、もっといいものができるだろう。」
「そうだな、んー。少し加算されっけどいいか?」
「そこまで高くならなければ。あ、あとアリアの装備もお願いしてもいいですか?」
「おう!いいぜ!とりあえず採寸だ。家まで来てくれ。」
「わかりました!アリアもそれでいいかい?」
「む・・・。まぁいいだろう。勿論女性はいるのだろうな。」
「いねえよ?」
「はぁ?」
「いや、だからいねえって。」
「・・・おい、ヤクモ。」
「それは知らん。」
「アンジェラに頼めばいいだろう?」
「「「それだ!!!」」」
ジャックポットに一度荷物をおいてスリープジュエルに向かう。丁度人が少ないときに来たようで、ミシェルちゃんが椅子に座りあくびをしていた。こちらに気づき、声をかけてくる。
「あ!ヤクモさん!お帰りなさい!ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも、ア・タ・シ?」
オッフ。そのおふざけはおいちゃんのおいちゃんに効くからやめてくれ。するとミシェルちゃんの後頭部めがけて平手が飛んでくる。
「ふざけてないで、ちゃんと案内しな!」
「はぁーい。」
頭を抑えながら頬を膨らませている。泣くまではいかなかったようだ。
「さてと、改めて、私にしますか?」
「変わってないどころか悪化してる!?」
「あははは!!冗談ですよー。あれ?アレックスさんとバーンさん!いらっしゃいませ!今日はこちらでお食事ですか?」
「いや、ちょっとアンジェラに用があってだな。」
「もしかして・・・駆け落ちですか!?きゃー!ロマンチックー!」
「それはない。」
「つまりそれはうちのアンジェラが魅力がないって事かしらぁ?」
「いつの間に!?」
「久々にキレちまったよ。表にいこうぜ。」
「待て待て待て待て!!一旦待ってください!」
「どうしたんだヤクモ。君が代わってくれるのかい?」
「嫌ですよ!?そうじゃなくて!アリアの採寸ですよ!アンジェラさんに頼むんでしょ!なんか殺し合いみたいなこと始めないでくださいよ!あとミシェルちゃんも煽らない!」
「テヘッ☆」
ぬぅ〜この小悪魔めぇ!可愛いけど!可愛いんだけども!オゥネェイさんに事のあらすじを邪神を隠して話す。
「えぇー!キメラスネークを倒したの!?というよりキメラスネークがあのダンジョンにいたのねぇ。」
「まぁ、そうなんですけど、なんか残念そうですね。」
「そぉよぉ。キメラスネークのお肉ってもの凄く美味しいのよ!美容にもいいしね!」
バチンとウィンクをする。いや筋骨隆々の人が言ってもわからんよ。
「と、とりあえずアンジェラさんに採寸を・・・。」
「私がするわぁ!」
「へぁ?お、オゥネェイさんが?」
「ええ!これでも昔は冒険者だったんだから!」
そういやアレックスさんが言ってたな。料理以外もすごいって。もしかしてものすごい冒険者だったのか?
「私の装備はぜーんぶ手作りなのよ!このエプロンもね!」
クルって回ってウィンクをする。すごいなぁ、装備全部手作りって。よーし!こっそり鑑定!
〈鑑定〉
名前:オゥネェイ
Lv:49
装備:純白鳥のエプロン
耐火の衣類
ベアリング
ん?ベア・・・リング?あれって確か殺傷能力が上がる指輪じゃなかったけ?そしたら、今この場でつけてるって事は・・・標的は・・・俺?いやまさか、あははははははははは。
「・・・?・・・!?」
「どうした?貴様、汗がすごいぞ?」
アリアが声をかけてくれて、ハッと我に返る。ここの人たちやばい人ばかりだ・・・!
「さぁ、こっちに来てちょうだいアリアちゃん!」
「う、うむ。わかった。」
奥の方へアリアが行ってしまった。
「あのー。」
「ん?どうした?ヤクモ。」
「俺も採寸おねがいします。」
「おう!お前の部屋で測れるか?」
「はい大丈夫です。」
「アリアちゃんの採寸終わったら部屋に案内するからね!」
「はい。お願いします。」
男三人で俺の部屋へ向かう。先頭は勿論俺。まぁ、俺が使ってるわけだから当然だが。
「アレックスさんは知ってるでしょうけど、ここが俺の今の家です。」
「へーここかぁ。俺らはここに泊まったことねぇからわかんなかったんだ!」
「採寸って上脱いだほうがいいですか?」
「え?あ、ああ。できればな。」
「・・・。」
上着を脱いでベッドに置く。そして、バーンさんのところへ向かう。するとアレックスさんの手が肩に乗る。
「一つ聞きたい。」
「・・・なんでしょうか?」
「君は何をそんなに『警戒』しているんだい?」
「気のせいですよ。警戒している相手に上半身裸になんてなりませんよ。」
「・・・・そうか。」
「あ、兄貴?なんか空気が重いんだけど・・・。」
「気のせいだ。さっ、採寸しようか。」
「お、おう。」
まずは腕の長さを測るため腕を横に伸ばす。ポケットから麻紐らしきものを取り出し手首辺りから反対の手首まで伸ばし麻紐を小型のナイフで切る。何かブツブツ言っているが聞こえない。
次に腕を下ろし、肩幅を測る。そしてまたブツブツ言っている。 そして、背中、胸囲、腹囲を測る。
「ヤクモ。」
「なんです?」
「痩せたほうがいいぜ!」
「余計なお世話です!!」
採寸が終わり、服を着る。バーンさんがブツブツとまだ言っていた。
「よしこれなら!!!」
いきなり大声を上げたから心臓が飛び出るかと思ったわ!
「お前の持ってるキメラスネークを関節の所に使って防御を高めようと思うんだ!わりぃけど、あの嬢ちゃんの分の素材は全くねぇんだ。だから、もう一回あのダンジョンで今度は採掘してきてくれねぇか?」
「わかりました。ってことは今度はバーンさんがついてきてくれるんですか?」
「いや俺は鍛冶仕事があるから無理だぜ?」
「ということは、引き続きアレックスさんですか?」
「私も流石に寝ないと体が持たないから今回は行けない。」
「つまり、オレ一人ですか?」
「いや、ぴったりなのが一人いるだろう。」
「え?誰ですか?」
「オゥネェイだよ。」
「」
言葉を失った。
〜続く〜
裏話
異様に長い馬車の中で怪訝そうに男を見つめる女性がいた。
「はぁー、なんで私がこんな事しなきゃいけないのかしら?」
女性は眼鏡を直しまた男を見つめる。この男は賞金首の男で今からギルドに戻るついでに衛兵にこの男を突き出す予定だが、なんせその書類記入がめんどくさい。しかも終わってもギルドの仕事があるのだ。一応こちらのギルドに所属をしているので、株は上がるが・・・。
「ミカさん大丈夫ですか?」
そう言ってこちらをのぞき込むギルド職員。帽子に羽が一枚ついている新人だ。この子に村のギルド出張を教えるつもりが、とある青年に予定を狂わされたのだ。
「ええ、問題ないわ。」
「疲れってお肌の大敵ですから!これでも飲んでリラックスしましょう!」
目の前に、紅茶がおかれる。適度に暖かく飲みやすかった。これで、しばらくは私の精神は持つ・・・はず。
「そうそう!この前町においしいパンケーキがあったんですよ!今度一緒に食べに行きませんか?」
「そうね・・・考えておくわ。いい方向にね。」
「はい!」
もう少し頑張りましょう、今度は変なことが起こりませんように。
「あ、ミカさん。」
「何?どうしたの?」
「さっきのヤクモさん魔力なくてギルドカード(仮)になってました。」
「・・・まぁ、そのうちギルドに顔を出すでしょうからその時に血液で登録し直しましょう。」
「はい!」