敵、出現
鏡見さんが敵といった存在はどうやら女の人みたいだった。
というのはさっきは暗闇にいたからかよくみえなかったのだが近くで見ると
まあ出るところ出てるし、ただし顔の方は仮面をかぶっていて分からない。
仮面の特徴として大きく4の文字が・・・つまり死。殺されるってこと?
「貴方、ワタシを監視していた人間の仲間ですね。だってあいつらと同じ気がしますもの
ワタシの大嫌いな匂いがね。さてなんでワタシを監視していたのか話してもらいましょうか。」
どうやら鏡見さんはこの正体不明の女の人と戦う気のようだった。
でも一応は警戒しているようでなかなか仕掛けようとはしない。
さっき僕に仕掛けたみたいに簡単には行かないみたいだった。
「どうして仕掛けないんですか?」
「答えは簡単よ。監視していた人間なんかとは桁違いに強いからよ。
いくら凛くんで回復したとはいえワタシでも勝てるかどうか。」
「そもそも敵ということが勘違いじゃないんですか?」
「ワタシが追われていたのがこいつだから間違いないわ。監視者を倒してから
ずっと追われていたの。エネルギーが回復していなかったら逃げることしかできなかった。
でもここで決着つけて晴れて自由の身よ。」
「ところで最大の疑問なんですけど、なんで監視されてるんですか?」
「それが分かれば苦労はしないわ。生まれてからずっと監視されてる身にもなってみなさいよ。
うっとしいことこの上ないわ。」
「生まれてからなんですか?」
「ええ、生まれてから1度しかこいつらを出し抜いたことがないわ。これで2度目。
3度目はないと考えた方がいい。だからここで倒しておくのが一番だと思ったわけ。」
「へぇ、僕まったく関係ないですよね。帰ってもいいですか?」
「いや、関係なくもないわ。凛くんにも監視者がついていた。
てっきりワタシの監視者かと思い、倒してしまったけど。」
「僕にも監視者が、そんな馬鹿なことが」
「ありえるわけない。とでもいいたいの?だいたい凛くんみたいな一般人が
気づけるわけないでしょう。」
「ワタシでも気づけたのは、あのころからだもの。」
なんかそのときのことを思い出しているみたいだ。
鏡見さんにとってはとても大事な思い出らしい。
だがらそれについては訊くの躊躇われた。
「ともかく、ワタシと凛くんにはあの仮面の女を倒さないと未来はないってわけなの」
そこで始めて仮面の女が口を開く。
今まで僕たちの会話を待っていたみたいだ
律儀な人だな。
「そんなことはない。君たちが今後一切出逢わないと誓えるなら見逃してあげてもいいわ。
もちろん監視はつけさせてもらうけどね。」
「どういうこと?」
「下手に藪を突いて蛇を出したくないのよ。我々はね。で返答は?」
「ワタシは嫌。別に凛くんに会わないのはいいとしても
監視されるなんてもう真っ平ごめんね。」
「僕は」
「もちろん。いやに決まってるわ。監視されるなんて誰でも嫌なはず。」
「それは貴女の答えであって彼の答えではない。で返答は?」
「僕は監視されてもいいです。でもそれは知らなかったら。知ってしまったので
だから監視は御免です。もちろんその返答にはNOで。」
「残念だわ。藪をつつくなんてことはしたくなかったんだけど。
十二賢の一人、コードネームは「四」(し)。覚えなくてもいい。
すぐに忘れるから。」
そのセリフが終わると鏡見さんが動く。
つづいて四が動くがそのうごきは素人の僕が見ても遅い。
先制攻撃はどうやら鏡見さんのようだ。
思いっきり殴りかかる。って殴るの? なんか不思議な力を使うんじゃなくて。
四の仮面に思い切り当たるがびくともしない。攻撃が効かないと分かると
瞬時に元の場所に戻る。
「うそっ。ワタシの力を受け止めた。」
「何を驚いているんですか?」
「凛くん。君は馬鹿なの。いくらワタシが女だとしてもあの速さで
殴ったのよ。 微動だにしないっていうのはおかしいわ。」
「反応できない速さってどういうこと。これでも警戒していたのに。
警戒LV2にUpと。でも、この程度なの。」
「そんなわけないでしょう。この仮面女。全部はいてもらうんだから。」
そういうと鏡見さんは先ほどよりもさらに速く動く。
目で捉えるのがやっと、それはどうやら四もそうみたいで反応できていない。
鏡見さんが四の体を捉える。今度は蹴り。それも踵落としだ。
これを喰らったら一溜まりもないだろう。思いっきり頭に入る。
まさに会心の一撃。でも鏡見さんから聞こえたのは
「うそっ。効いていない。」
という割とやばめなセリフだった。
「えっと。それで終わりなの。確かに普通の人に対しては有効でしょうけど
能力者に対しては効かない。」
「なめんじゃないわよ。」
というとさっきよりもさらに速く動こうとするが、
「いい加減、見飽きたわ。地に這いつくばれ。」
という四の言葉で鏡見さんは動けなくなる。
「なんで動かないんですか?」
「動けたらとっくに動いているわ。」
「そういうこと。彼女はアウト。多分動けないわ。君はどうする?」
「いやどうするって言われても、そもそも僕と彼女を監視していたのは何故ですか?」
「それは言えないの。守秘義務。」
「では貴方たちは何者です?」
「正義の味方ね。」
「胡散臭いですね。なら貴方たちの目的は?」
「世界平和よ。」
「ますます胡散臭いですね。そのためなら、犠牲は問わないとでも?」
「その通りね。」
「ところでその仮面は?いややっぱりいいです。」
「もうそろそろ時間稼ぎはいい?そんなことしても彼女はもう動けないと思うわ。」
「わざわざ分かっていて付き合ってくれるなんて律儀ですね。
最初も不意うちすれば僕と鏡見さんなんか簡単に倒せたでしょうに。」
「いや、そうするわけにもいけない理由があるの。」
「そっちにも事情があるってわけですか。
ところで僕と鏡見さんはどうなるんですか?」
「ただ忘れてもらうわ。それだけ。殺しはしないわ。」
「それを信用しろとでも。」
「信用しなくてもいいわ。どちらにしろ忘れてもらうのだから。」
「ふーん。殺しはしないんですって。鏡見さん、どうします?」
鏡見さんはどうやって四の束縛から抜けたのか分からないけど
とりあえず立っていた。長い髪の毛を逆立てて。
「まったく。ワタシもなめられたものだわ。敵に背を向けて、悠々とおしゃべりだなんて
もう止めた。遊ぶのは止めて、真面目に戦りましょうか。」
その瞬間、鏡見さんの手から凄まじいエネルギーが放たれる。
当然、凄まじい力を感じたのか。四はその場から飛びのこうとするが
遅い、あまりにも遅かった。鏡見さんから放たれた力が直撃する。
今度はさっきみたいに無事ということもなく無様にふきとばされる。
がすぐに立つ。直撃したにもかかわらずあまりダメージはないみたいだ。
「へぇ。あれを受けて無事なんてどういう体してるのよ。」
「いや効いたわ。完璧に油断。まさかあれを抜けるなんて。警戒LV最大に変更ね。」
そういうと急に場が重くなる。雰囲気が重くなるのではなく実際に重い。
自分の体がまるで自分の体じゃないみたいに。
それを鏡見さんも感じたのか、
「なにこれ。自分の体がこんなに重いなんて、まさか」
「その考えで多分正解よ。」
「じゃあ私がぶん殴っても蹴っても効かなかったのは?」
「重力を操作し、無効化したの。」
「そんな簡単に能力をばらしていいの。」
「どうせ忘れるから問題はないわ。」
今度はさっきとは違い四が攻撃に転じる。
ゆっくりだが確実に鏡見さんに近づく。
さっきよりも強い重力がかかっているのか鏡見さんは動けない。
「なんなのよ。これ。いつもより力を使ってるのに全然動かない。」
そして鏡見さんを掴み、上にぶん投げた。
「うそでしょう。」
ただそれだけの行動だったはずなのに鏡見さんは風船のように軽やかに飛ぶ。
飛んだあとに待つのは落下だ。目算で10m以上は飛んでいる。落ちたらただじゃ済まない。
最悪死ぬ。さすがに焦った僕はあわてて受け止める。だが思ったより衝撃はない。
「ちょっと力加減間違えたわ。さすがに殺すのはまずいのよね。」
どうやら四が重力を操作して僕への衝撃を軽くしたみたいだ。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫?そんなのもちろん大丈夫なわけないでしょう。あなたも体験してみる?
三途の川が見えるかと思ったわよ。」
そういう鏡見さんはちょっぴり涙目だった。
「遠慮しときます。」
「でも、おかげでいいこと思いついちゃった。」
「いいことってこの状況をなんとか出来るんですか?」
「ええって、いつまでお姫様抱っこしてるのよ。降ろしなさい。」
とりあえず鏡見さんを下ろす。そして改めて訊き直す。
「でどうするんですか?」
「それはこうするのよ。」
そういって僕の手を握る。
「何ですか?これから愛の告白でもするんですか。」
鏡見さんは顔を真赤にして否定する。
冗談なのに。
「違うわよ。凛くん。まあ見てなさい。」
「まさか」
何故か有利だったはずの四が焦っている。
仮面かぶってるからよく分からないけど。
「いくら、仮面女が強いからって無限の力をもってるわけじゃない。
それならこちらは無駄にエネルギーの多い凛くんを使うまでよ。」
そのとき僕の体が光りだす。
まるで先ほど鏡見さんにエネルギーを吸われたときみたいに。
「嫌な予感がひしひしするんですけど。」
「ええ凛くんの考えたとおりよ。まずは一発目。」
さっき放たれたの数十倍のエネルギーが四に向かう。
形振り構っていられないのか。場の重力が軽くなる。
直撃はまずいのだろう。なんとかその力を上に弾く。
「あれを耐えるなんて、凄いわね。でも場の重力が軽くなったということは
どうやらワタシの考えは正しいようね。行くわよ。二発目」
さっきよりもさらに大きくなった力が放たれる。
だがそのエネルギーをなんとか四は止めている
「本当に凛くんは凄いわね。これだけ使っても全然減る気配すらない。」
「思ったんですけど、あれまともに当たるとどうなります。」
「間違いなく死ぬわね。」
「そんな冷静に返さないでくださいよ。どうするんですか?」
「まあいいじゃない。ドンマイ、ドンマイ」
「ドンマイじゃーない。」
その叫びと同時に四に力が直撃する。
だがそのあとに残ったのは無残な死体ではなく、大きく空いた床のあなだった。
「なるほど、自分に重力をかけて床から逃げたのね。」
「そんな冷静に敵の逃げ方を解説している場合ですか?」
「どうせ追っても無駄よ。だって気配すら感じないもの。」
「じゃあ」
「ええ、結局何も聞くことができなかったってこと」
「それなら僕は何のために戦ったんだぁー。」
という僕の空しい声が校舎内に響いたとか響かなかったとか。