人間採集キット
「ご覧ください。街は、突如現れたドローンのような飛行物体の出現で、大パニックになっています。――オオッと」
マイクを持ったレポーターが、右へ左へと三三五五に逃げ惑う人々にぶつかられたり避けたりしながら、混乱の様子を実況している。彼らの上空には、レポーターの言った通り、四枚のプロペラのようなもので浮遊する機械が、縦横無尽に飛び回っている
と、そのとき。機械の中央にあるリング状の部分から七色の不気味な光線が発射され、その延長線上にいたサラリーマンは、光線を浴びた途端、まるで霧か煙のように姿を消してしまう。
「おわかりいただけたでしょうか。このように、光線を浴びた人は、手品のイリュージョンのように忽然といなくなってしまうということで、ネット上では、スマートフォンによって撮影された関連動画が、枚挙にいとまがないほどの本数、アップロードされており。――ワーッ!」
中継の途中でレポーターに光線が当たり、一瞬、しばらくお待ちくださいというテロップが表示された後、画面は素早くスタジオに切り替えられた。
「やはり、これは異星人による侵略戦争の幕開けではないかと思うのですが」
「馬鹿を言ってはいけません。そんな空想科学映画のようなことが、実際に現実社会で起きるはずないでしょう。これだから、クリエーターは想像との区別がつかなくて困ります」
「まったくそうだ。これは、反社会的勢力の過激派組織による陰謀に決まってます」
「それこそ、任侠映画の世界の話じゃありませんか。アホらしい」
「海外の大学院で博士号を取得している物理学者と政治学者を相手に、アホらしいと言うとは何事だ。撤回しろ」
「その通り。発言を訂正したまえ」
「はいはーい。高校を中退した若輩者が、過ぎたことを申し上げました~。これで満足ですか、先生様?」
討論の場は白熱しているが、感情的に持論を主張するばかりで、一向に理性的な議論とならないまま、平行線を辿り続けるばかりだった。
*
ところ変わって、ここは、ドローンのようなものを操作している異星人の母船の中。ここでは、クラゲとイヌを足して二で割ったような軟体の獣が、縮小化して転送された人間に触手を刺して動きを止めたあと、昆虫の標本でも作るかのように展翅板らしきものの上へとピンで固定して並べていく。
そこへ、同じような姿をしているが、大きさが一回り大きい異星人がもう一体現れ、作業中の小さな一体に向かって話しかける。以下は、その内容を日本語訳したものである。
『ずいぶん、たくさん捕まえたんだな』
『うん。パパがくれた採集キットのおかげで、いっぱい捕まえられたよ。でも、みんな同じような姿をしてるんだね』
『カイシャインばっかりだな。シュフとか、ゲーノージンとかは捕まらなかったか?』
『まだ見つかってないよ。あっ、でも。ジタクケービーンは捕まえられたよ』
『ほぉ、それはレアだな。――間違えて、幼人を捕まえないようにしろよ』
『わかってるよ。成人だけしか捕まえないから』
『よしよし、偉いぞ。それじゃあ、ママのごはんが出来上がるまで、もうひと頑張りするんだぞ』
『は~い』
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その後も、地球人が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていることは微塵も考慮せず、異星人は自らの娯楽のために採集を続けたのであった。