表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫の夢   作者: 鈴木あみこ
13/22

好きだった人

 

「直、体調良いなら買い物お願いできる?」


 最近始めた編みぐるみ。紙袋に毛糸とかぎ棒、鋏を入れておけば何処ででも出来るから、なかなか便利で楽しい。

 一階の居間のこたつで編んでいたら、お母さんに声を掛けられた。

「いいよ、何買ってくればいいの?」

「待ってて、いまメモ書くから。夕飯のおかずなの。スーパーで全部買えると思う」

「分かった。支度してくる」

 近場だからウィッグでなくて蓄熱式のニットの帽子。ちょっとおばさんっぽいけど、暖かいからいいよね? 部屋着だけど、コートを着るから分からないよね? なんて、ぶつぶつ言いながら支度をして、メモとお金を受け取ってブーツの中に足を入れた。

 コンタクトをするのは特別な日だけ。

 だって目が疲れるんだもん。

 黒縁眼鏡だけど、まぁいいか。


 玄関を出て暫くすると、後ろから何か付いて来るような気配を感じ、振り向くと猫の十色がトコトコ付いて来てた。

「やぁ、十色なあに? ストーカーみたいだよ?」

 しゃがんで十色と向かい合う。


「おいで」


 両手を広げると十色は嬉しそうにひらりと私の腕の中に舞い込んだ。

 十色の毛はふわふわで長毛だ。

 なので大きく見えるけど、とても細く華奢で軽い。


 十色は私に抱っこされるのが好きだ。たぶんハルコさんを思い出すのだろう。

 私の首筋にふんふんと鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。

「だから、それ、やーめーてー。背中がぞわっとするんだよー」

 顔を仰け反らせて十色から離れようとしたら、十色は「仕方ない」と、言うように首を振り、喉を鳴らせた。


 ***


 これから買い物に行くスーパーは、私が高校を卒業してから一年と少し勤めていた。

 支店をいくつか持つスーパーで、従業員もみんな良い人ばかりだった。

 野菜を切ったり、計ったり、袋詰めしたりの単純な作業は一年半という短い期間で終わった。

 1日4時間だけの短時間のパートだったけど、生鮮という場所はとにかく寒く、野菜は重いので体力も使う。だから体調の悪化と共に迷惑がかかるので辞めた。


「えっと、お豆腐。ねぎ、挽肉・・・・」

 メモに書いてある食材をカゴにいれる。

 どうやら今夜は麻婆豆腐豆腐らしい。

 お母さんは気を使ったのか、重いものは入っていなかった。


 会計の時に、仲の良かった澤田さんのレジに並び、少し近況を話して分かれた。


 スーパーの外で待っていた十色は、帰りは私の横を歩く。いくら十色が軽くても、荷物を持って十色を抱いて歩くのは私には無理。

 ある意味これもデートかなぁなんて、ぼんやり考えながら歩いた。


 ***


「なお! 直だろ?」

 低い男の人の声。

 振り向くと、小学、中学と一緒だった湯澤誠人ゆざわまさとが走ってきた。

「久しぶり」

 白い息を吐きながら、私の横に並んだ。

「やあ…」

 しまった。まさか同級生に会うなんて…油断してた。

 しかも誠人。

 帽子でなくてウィッグにすればよかった。お化粧もちゃんとして、服も着替えるべきだった。


 誠人はそのまま、私と同じ歩調で隣を歩き出した。

「直、来年の成人式出るのか?」

「…どうかな? 体調にもよる」

 誠人とは中学3年の時に同じクラスになった。

 特に親しかった訳ではないけど、知らない人でもない…視界に入ると私の体温が少し上がり、鼓動がすこし早くなるだけ…。

 ほんと、ただそれだけ。


 学生時代、体の事や髪の事にはほとんどの人が触れる事はなかったが、まれに咲江や同種の人達のようにあからさまな好奇心をぶつけてくる人はいる。

 まぁ、基本的に私と関わろうという人はそうそういなかったが…。

 誠人はクラスの誰とでも仲良くできる温和な性格と、見上げるような高身長。がっしりとした男らしい体格で長い足。

 顔は特別整っている訳ではないけれど、一重で細い目はいつも笑っている印象で、優しさを滲ませていた。

 聞かれたくない質問をぶつけられて返答に困っている時は、相手を呼んで私から遠ざけてくれたり。荷物を持っている時には、ドアをさりげなく押さえてくれたり。

 始めは特別扱いされてるのかな?って勘違いして…それから、目で追う様になって気が付いた。誠人は自分の視界に入った人みんなに優しいって。

 私だけじゃないって分かったから、それからは特別だなんて自惚れる事も無かった。

 それでも、一度目で追ってしまうと、なかなか離す事はできなくなって…。

 嫌な事があっても、誠人に話しかけられると嬉しくて。

 席が近くなっただけで学校が楽しくなったり。

 体育の授業の時も、保健室からグラウンドを眺めていたら校医の先生にからかわれてしまったり。

 熱が出て学校へ行けないとがっかりしたり。

 灰色だった中学校生活を楽しくしてくれたのが誠人だった。


 そんな人柄だから、女子からは密かに人気があった。

「あれで顔がよければ」なんて失礼な言葉を出す女子も多くて、私は「顔が良くなくて良かった」と、本人にはとても言えない事を思っていた。

 高校も同じ所に行きたかったけど、誠人はバスと電車を乗り継いで1時間以上はかかるサッカーで有名な高校に推薦で決まってしまい、私は通学に対する体の負担を考えて、一番近い高校を選んだ。


 その程度の関係だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ