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猫の夢   作者: 鈴木あみこ
12/22

十色は十色

 

「わあ!」


 深夜、人の気配に気がついて目を開けると自室のベッドの上で、目の前には十色のどアップ。

 めちゃくちゃびっくりした! 心臓止まるかと思った!

「と…といろ? 近いよっ! 軽く死ぬよ!?」

 十色の綺麗な顔がもっと近づいてきて…びっくりした私は目を見開いて動けないでいた。そして十色の長い腕が背中に回され、ぎゅっと抱きしめられた。


 わわーーなに?


「と、十色? ど…どうしたの?」

 最近は夢なのか、現実なのがが分からない。

 夢だとしたら感触はやけにリアルだし、現実だったら辻褄が合わない。


「直は…微かだけど、やっぱりハルコと同じ臭いがする」


 十色は私の首筋に鼻を近づけ、ひくひく臭いを嗅いだ。


 ぎゃーやめてくれ!


 さすがに夢でもダメ! くすぐったくてゾクゾクする!

 ぐっと十色を押し退けようと、両手を十色の胸に当てた時…。


「ハルコ…」


 十色の絞り出すような切なそうな声が耳に響いた。


 ハルコさん…。十色の一番好きな人…。


 十色の頭に両手を舞わして回して小さな頭を抱きしめた。そして右耳の三日月型のピアスを見つめた。


 ***


 どれくらいそうしていたのか、十色が首を上げ、私を見下ろす。


 はっきり見えていた十色の顔が離れたために、少しぼやけた。

 私は極度の近視。眼鏡がないとほとんど見えない。ベッドボードをまさぐり、眼鏡を探した。

 視界がはっきりするといつもの十色とは何かが違う。


 ん? 首? なにか巻いてる?


 いつもは黒一色の十色のスタイルなんだけど、首元に赤いハンカチが見えた。


 結び目に手をやり、引っ張ると簡単に解けた。見覚えある赤いハンカチが十色の細い首からひらりと落ちた。


 見覚えのある、由香の赤いハンカチだ。


 十色をじっと見つめる。

 黒猫と同じ鳩羽色の宝石のような瞳。右耳の三日月型のシルバーピアス。


 ああ、そうか。

 十色は黒猫だ。

 驚くほど簡単に、府に落ちた。


 十色の人なつっこい笑顔が迫って来て我に帰る。

「直、好き」

 十色は私の頬をペロッと舐めた。

「ぎゃ! 十色! それはダメ!」

 ぐいっと両手で十色を押し退けた。

「いやなの?」

「いやとかじゃなくて……」

 もごもごと口ごもって、言葉にならない言葉を呟く。

 十色はもう一度、私の背中に腕を回し、きゅうっと優しく抱きしめた。

「ハルコ…」

 又、切なく呟く。


 まったく、なんだろねこの子は。そんな声出されたら、怒れないじゃない。


「直の匂いはハルコを思い出す。この部屋も微かだけどハルコの匂いがする。だから…直、好き」

 まったく、正直だなぁ。私はハルコさんの身代わりかい…。私が傷つくって思わないのかなぁ? 

(まぁ…猫だから仕方ないか…)

 そう思うと、妙に納得する。

 十色の気紛れな言葉、態度。私に気遣う時もあれば、無関心だったりもする。


 うん。確かに猫だわ。


 気になる事は沢山あるけど、痛む頭で色々考えてもきっと答えは出ない。


 だから、暫くはこの不思議な状況を楽しむ事にしよう。



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