策謀巡る捜査線
決戦前日の午前7時、ジョージタウンの次の駅、トマスリバーにて。
「それじゃ皆、出発だ」
半数を前の駅に残し、10名となった人員を前にし、ローは指示を出す。
「次の便に乗り込み、スリーバックスに到着後、マーティン班は貨物車に潜んで待機。午後1時になったらビル前の第1ポイントに向かってくれ。
バロウズ班は到着後すぐに駅を出て、第2ポイントに。それから俺の班は、午後2時まで駅で待ってから、第3ポイントに行くぞ」
「……」
ところが――誰ひとりとして敬礼もせず、姿勢も正さず、「了解」の一言も発しない。
「なんだ?」
ローがけげんな顔をし、尋ねたところで、背後からとん、と肩に手が置かれる。
「え……」
振り向いた次の瞬間、前の駅で降りたはずのダンが怒りを満面ににじませた顔で、ローのあごを殴りつけてきた。
「ぎゃっ!?」
「お芝居はそこまでだぜ、リーダー」
「な……何故?」
情けなく尻もちを着き、そのまま動けないでいるローに、ダンが拳銃を向ける。
「何でここにってか? てめーの企みを見抜いてたからだよ。
大体、無茶な話じゃねえか。いくらバレるかもって言ったってよ、20人プラス3人の大軍を、わざわざ3人、4人に分けるなんざ、自殺行為もいいところだ。各個撃破して殺してくれって言ってるようなもんだろ。
じゃあどうして、そんなことをするのか? 簡単な話だ、殺してもらおうと図ってたんだ。俺たち特務捜査局にとって憎むべき凶悪犯であるはずの、トリスタン・アルジャンにな」
「ば、馬鹿な! なんで俺がそんなこと……」
弁解しかけたローに、エミルも拳銃を向けつつ近付いて来る。
「それも単純な話ね。あんたがそう頼まれたからよ。今度はスミスだかジョンだか知らないけどね。
昨夜、確かにあたしたちはジョージタウンで降りたわ。今日の昼の便で、スリーバックスに向かうってことでね。
でもその前にちょっと、電話を掛けてみたのよ。特務捜査局にね」
「……!」
エミルの話を聞き、ローの顔から血の気が引く。その真っ青な顔を憮然と眺めつつ、アデルが話を継いだ。
「特務局に電話してみたら、ミラー局長からものすごく驚かれたよ。『なんで今まで電話してこなかったんだ』、ってさ。
どうやらあんたがご熱心に電話してたのは、特務局にじゃなく、もっと別のところだったってことだ。
で、本当はどこに電話してたのか、ミラー局長を通じて電話会社に調べてもらった。そしたら……」
そこでエミルがニッと笑い、ふたたび話を続ける。
「A州、セントメアリー――スリーバックスの先にある駅に何度も電話してたってことが分かったわ。
つまりあたしたちの動きは、組織にバレてるってことよね。あんたが逐一報告してくれたおかげで」
「し、知らん! なんだよ、組織って?」
ローは白を切ろうとするが、エミルはそこで、ダンに向き直る。
「ダン、こいつの身体検査して。三角形のネックレスか何か、持ってるはずよ」
「よし来た」
ダンはごそごそとローの懐を探り、「あったぜ」と答える。
「これか? この、三角形と目みたいなのが付いた奴」
「それね。もう言い逃れできないわよ、リーダーさん?」
「う……ぐ」
ローはそれ以上反論せず、うつむいて黙り込んだ。
「……しかし、となるとだ」
ネックレスを握りしめたまま、ダンが不安そうな表情になる。
「俺たちがこのままノコノコとスリーバックスに行っちまったら、返り討ちに遭うってことだろ? 何日も潰して折角ここまで来たってのに、退却しなきゃならんってのは悔しいぜ」
「そうとも言い切れないわよ」
エミルがパチ、とウインクする。
「トリスタンはあたしたちが来ていることを知ってはいても、こうしてスパイがバレたことについては知らないわ。
罠を張ってると高をくくって、堂々と真正面から乗り込んでくるはずよ。それこそ、あいつにとって最も大きな隙になる。
だから、結論はゴーよ。このまま22人総出で、あの化物を退治しに行きましょう」