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牛狩りの時

 パン、と火薬が弾ける音が響くと同時に、ディミトリの姿はトリスタンの前から消え失せていた。

 だが――。

「私をなめるなよ、アレーニェ!」

 すかさずトリスタンは、天井に向かってもう一発放つ。

「うっ……」

 一瞬間を置いて、うめき声と共に白い塊がどさり、とトリスタンの前に落ちてきた。

「流石はトリス。僕の動きを、見切っていたか」

 力無く笑うイクトミのほおからは、ぼたぼたと血が滴っている。

「とは言え、どうにかかわしはしたがね」

「この前のような道化振る舞いはどうした、アレーニェ?」

 トリスタンはイクトミを見下ろし、三度撃鉄を起こす。

「お嬢に気に入られようとしていたようだが、滑稽はなはだしい。何の効果も無い。惨めなだけだぞ、アレーニェ。

 それとも我々の目をくらまそうとしていたのか? だがそれも無意味だったな。世間の有象無象共に『怪盗紳士イクトミ』などと己を呼ばせていい気になっていたようだが、我々の目は少しもごまかせない。

 そう、お前のやってきたことなど、何一つ実を結びはしないのだ。我々に楯突こうなど、所詮は愚行に過ぎん」

「……ご高説を賜り大変痛み入りますが」

 と――イクトミの口調がいつもの、慇懃いんぎんなものに変わる。

「わたくしはいくら無駄だ、無意味だと罵られ、なじられようとも、その歩みを止める気など毛頭ございません。

 それがわたくしの、成すべき宿命でございますればッ!」

 ふたたび、イクトミは姿を消す。

「くどいぞ、アレーニェ!」

 トリスタンが吼えるように怒鳴り、拳銃を構えた瞬間――周りの棚や机、さらには窓や壁に至るまで、ぼこぼこと穴が空き始めた。

「ぬう……ッ!?」


「撃て撃て撃て撃てーッ!」

 外では特務局員がガトリング銃を構え、掃射を始めていた。

 その横にはアデルたちと、縛られた上に猿ぐつわを噛まされ、完全に無力化されたローと、そしてディミトリ、さらにはどう言う経緯か、アーサー老人の姿までもがある。

「ビルが倒れようと構わん! 中はトリスタン一人だけだ! ビルごと葬ってやれーッ!」

 ダンの号令に応じ、ガトリング銃に加え、他の者たちも次々に銃を構えて、ビルに向かって集中砲火を浴びせる。

(……なあ)

 と、アデルが小声でエミルに尋ねる。

(ボールドロイドさんの話じゃ、中にイクトミがいるんだろ?)

(ええ、協力を取り付けたらしいから。どうやって接触したのか知らないけど)

(流石と言うか、何と言うか。

 でもあそこまで撃ちまくられたら、イクトミの奴、蜂の巣になってんじゃないか?)

(心配無用)

 エミルの代わりに、ディミトリの縄をつかんでいたアーサー老人が答える。

(彼ならもう既に、ビルを出ているはずだ)

 続いて、エミルもうなずいて返す。

(でしょうね。問題はトリスタンの方よ)

(問題って……、蜂の巣っスよ?)

 けげんな顔で尋ねてきたロバートに、エミルは首を横に振って返す。

(あいつがこの程度でくたばってくれるようなヤワな奴なら、苦労なんかするわけ無いわ)

(へ……? い、いや、あんだけ撃ち込まれてるんスよ? 普通、死ぬっスって)

(言ったでしょ? あいつは普通じゃないのよ)

 問答している内に、ビルの1階部分がぐしゃりと潰れ、2階・3階も滝のようになだれ落ち、土煙の中に沈んでいく。

「もが、もが……」

 真っ青な顔で様子を見ていたディミトリが、猿ぐつわ越しに泣きそうな声を漏らす。

「残念だったな、ディミトリ・アルジャン。お前のお城、消えて無くなっちまったぜ?」

 ディミトリの襟をつかみ、ダンが勝ち誇った顔を見せつける。

「お前も兄貴も、まとめて絞首台に送ってやるぜ! もっとも兄貴の方は、その前に土の下らしいけどな」

 土煙がアデルたちのいるところにまで及び、自然、局員たちの攻撃の手が止む。

「いくらなんでも、もう……」

 誰かがそう言いかけたところで、エミルが叫ぶ。

「まだよ! 止めないで! 撃ち続けて!」

「え……?」

 局員たちが何を言うのか、と言いたげな顔をエミルに向けた、その瞬間だった。

「ぐばっ……」

 その中の一人の顔が、まるで壁に投げつけられたトマトのように飛び散った。

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