表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

猛火牛、来る

 ジョージタウンで作戦会議が行われた、その2日後。

 駅に掛けられた時計が2時40分を指すとほぼ同時に、列車がスリーバックス駅に到着した。

「……」

 到着と同時に、一瞬、熊と見紛うほどの筋骨隆々の男が、のそりと客車から現れる。

 くだんの「猛火牛」こと、トリスタン・アルジャンである。

「……ふむ」

 彼は辺りをうかがい、むすっとした表情のまま、駅を後にし、通りを闊歩かっぽする。

 その間にも時折、彼は周囲に視線を向けていたが、その都度安心したかのような、しかし、どこか腑に落ち無いと言いたげな鼻息を漏らし、歩き続ける。

 やがて目的の場所――弟の経営するガンスミス店が入った3階建ての木造建築、レッドラクーンビルの前に着く。

「……」

 そこでももう一度、トリスタンは周囲を見回し、首を傾げる。

 が、それ以上何かするでもなく、彼は店に入った。

「ディム、私だ。少し早いが、来たぞ」

「ああ、兄さん」

 店の奥から弟、ディミトリ・アルジャンが手を拭きながら現れる。

「いや、時間通りだよ。3時きっかり」

「そうか」

 トリスタンは自分の懐中時計と、壁に掛けられた時計とを見比べ、またわずかに首を傾げた。

「ではお前の時計が早いようだ。

 私の時計は駅の時計と合致していたが、こちらとは合っていない」

「いいじゃないか」

 ディミトリは肩をすくめ、ふたたび店の奥へ戻る。

「2つ時計があるんだ。同じ時間を示したって無駄だろ」

「変わり者だな、相変わらず」

「僕に言わせりゃ、兄さんも相当さ。なんだってそこまで神経質に、時間を気にするのさ?」

「それが時間と言うものだ」

 トリスタンは奥へ進まず、店の中央に佇んだまま、弟の背中を眺めている。

「私には、守らぬ人間の方が信じられん」

「人それぞれ。合わせようって無理矢理言う方が、僕にはどうかしてると思うけどね」

「その点は相変わらず、意見が合わんな」

「逆に言えばその1点だけさ。他はわりと合ってるじゃないか」

 奥から戻ってきたディミトリが、左手に持っていたコーヒー入りのカップを差し出す。

「これもね。バーボン嫌いだったろ?」

「当然だ」

 トリスタンはカップを受け取り、掲げてみせる。

「酒は人を堕落させる」

「出た、兄さんの流儀その1」

 ディミトリはニヤニヤ笑いながら、右手のフラスコを掲げる。

「ま、どんどん飲んでよ。いっぱいあるから」

「いや」

 と、トリスタンはカップを傍らの机に置く。

「本来の目的を先に済ませておきたい。渡してくれ」

「ん? ああ、うん、拳銃だったね」

 ディミトリは棚から箱を取り出し、トリスタンに向かって開ける。

「はいこれ。M1874のノンフルート、6インチカスタム。しっかり整備しといたよ」

「うむ」

 トリスタンは拳銃を受け取り、懐に収め――ると見せかけ、それを突然、ディミトリに向けた。

「な……、何だよ、兄さん? 物騒だなぁ」

「妙なことばかりが起こっている」

 ディミトリの問いに応えず、トリスタンはじっとその顔を見据えつつ、話をし始める。

「お前から銃を受け取るため、この町に来た。それ自体はいつものこと、至極まともな出来事だ。疑いの目を向ける余地など無い。

 疑うべきはこの町に着く2駅前、ジョージタウンからのことだ。私に対して、妙な視線が向けられているのを感じていた。明らかにあのいぬ共、連邦特務捜査局の奴らのものだ。

 なのでいつもの如く、組織に確認を取ってみれば、確かに私を拿捕せんと向かっている一団があると言う。数は20名。だが組織からの指示により無力化されており、後は私が各個撃破すれば終わりだ、との返答も得ていた。

 故に待ち構えていたが、ジョージタウンにおいても、その次のトマスリバーにおいても、そしてここ、スリーバックスに到着しても、視線は感じれど、姿をまったく現さず、何か仕掛けてくるような気配も無い。

 そして極めつけは――ディム、お前のことだ」

 かちり、と拳銃の撃鉄を起こし、トリスタンは続けて問う。

「お前の瞳は私が知る限り、この31年間ずっと、緑色だったはずだ。

 だが今のお前は何故、茶色い目をしているのだ?」

「……っ」

 飄々(ひょうひょう)と振る舞っていたディミトリの顔に、ここで初めて、焦りの色が浮かんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ