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さらなる危機

《……そうか》

 電話の向こうから帰って来たミラー局長の声は、ひどく落ち込んでいた。

「申し訳ありません、局長」

 答えたダンに、ミラー局長が《いや》と返す。

《君の責任では無い。と言うよりも、責任を追求できる状況には無い、と言った方が適切だろう》

「……と、言うと?」

《結論から言おう。

 連邦特務捜査局はその権限と機能を、連邦政府からの命令によって停止された》

「な、何ですって? 一体、どう言うことなんですか?」

 思いもよらないことを耳にし、ダンは声を荒げる。

「トリスタンの確保は、元から失敗の危険が大きかったんですよ? 実際に失敗したと言って、それだけで……」

《その一件だけでは無いのだ》

 そう前置きし、ミラー局長は話を続ける。

《実は君たちの他に3件、同時に派遣を行っていたのだ。

 君たちが発つ前後、いくつかの事件の捜査進展、もしくは解決に足る情報が入り、君たちも含めて4チーム、合計64名もの人員を合衆国中部・西部に送っていたのだ。

 だが、……君たちの中にスパイがいたことから、おおよその想像は付くだろう?》

「……まさか」

 ダンの顔から血の気が失せる。それを見越したかのように、ミラー局長が《そうだ》と答えた。

《結果から考えるに、特務捜査局には相当数のスパイがいたらしい。君たち以外の3チームはすべて消息を絶ち、誰一人として、ワシントンに戻って来ない。

 事態を重く見た司法省は先程、特務局の業務停止を通達した。こっちに残っていた局員は全員拘束され、監視下に置かれている。私にしても、このオフィスに軟禁されている状態だ。

 これまでの実績の低さから鑑みても、復活が認められることはまず、有り得ないだろう。恐らく君たちが成功していたとしても、覆ることは無い。

 特務捜査局は、もう終わったのだ》

「そんな……!」

《……スタンハート捜査官。頼みがある》

 と、ミラー局長の声が、これまでより一層、悲痛なものに変わった。


《私は、君たちに対して一つ、裏切りを犯していた》

「な、……何です、それは?」

 ごくりと唾を呑んだダンに、ミラー局長が恐る恐ると言った口ぶりで答える。

《何も、私も実はスパイだったなどと、とんでもないことを言うつもりは無い。裏切りと言うのは、言うなれば、人事に関する操作だ。

 私はある者に身分を偽らせ、特務局の捜査員として入局させたのだ。君たちには、その人物の名前は、サミュエル・クインシーと聞かせていた。

 だが、実際には……》

 続く局長の言葉に、ダンは耳を疑った。

「……はぁ!? あ、あいつがですか!?」

《そうだ。

 頼む、スタンハート。あいつを助けてくれないか? 頼めるのは現在拘束されておらず、監視も受けていない君たちだけだ。

 もし引き受けてくれれば、私に出来る限りのことは尽くさせてもらうつもりだ。

 だから、……頼む。あいつがいなくなったら、私は、……私は……!》

「……」

 ダンは黙り込み、その場にしゃがみ込んだ。

《スタンハート? どうした?》

「……俺一人でどうにかなる問題じゃ無いのは、分かってますよね?

 残った仲間の中で動けるのは、俺を除けば2人しかいないんです。それと、パディントン探偵局の奴ら3人。

 探偵局の奴らが手を貸してくれたとしても、6人です。たった6人で、サムを助け出せって言うんですか?」

《法外な頼みであることは、十分に承知している。成功の可能性は極めて低いだろう。

 だが、私には頼むしか無いんだ》

「……10分、時間を下さい。相談してきます」

 そこで、ダンは電話を切った。


 アデルたちのいる小屋に戻ってきたダンは、ミラー局長から依頼された内容を皆に話した。

「……は?」

 当然と言うべきか、全員が唖然とした顔になる。

「い、いや? どう言うことだよ、それ?」

「言ったままだ。

 特務局は壊滅した。残った局員は全員、拘束・監視されてる。

 そして生き残った奴でサムを助けてこい、……だとさ」

「前2つはまだ納得できる。当然の処置だろうからな」

「だがワケ分からんのは3つ目だ」

「何でわざわざこの状況で、サムを助けに行かなきゃならないんだ?」

 異口同音に尋ねてくる皆に、ダンは苦い顔を向けた。

「その、……これも今聞かされて、俺自身もマジかよって思ってることなんだが」

 と、ダンをさえぎり、エミルが口を開いた。

「あたしは知ってたわよ。サムのこと」

「え?」

 目を丸くするダンに、エミルがこう続けた。

「本人から聞いたもの。『事情があるから』って。

 あたしは手を貸すわよ。あの子、助けに行きましょう」

 その一言に、アデルが手を挙げる。

「お前がやるってんなら、俺も行く。坊やには世話になってるしな」

「ありがと」

 エミルが笑みを返したところで、ロバートも続く。

「さっきも言った通りっス。お二人が行くなら俺もっス」

「と言うわけで、これで3人よ。で、話を聞いたあんた自身は?」

 エミルに尋ねられ、ダンは顔を帽子で覆いつつ、うなずいた。

「やるよ。事情を聞かされたら、嫌って言えねえよ」

「その事情って結局、何なんだ?」

 残る2人が尋ねたところで、ダンが答えた。

「結論から言うぜ。

 サミュエル・クインシーは偽名だ。本名はサマンサ・ミラーだとさ」

「……え」

「それって、つまり」

 エミルとダンを除く全員が、驚いた様子を見せる。

 それを受けて、エミルがこう続けた。

「つまり、そう言うこと。『あの子』は局長の娘なのよ」

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