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子猫と猛火牛の交錯

「……う……!?」

 アデルは自分の右腕から血煙が上がるのを目にしたものの、それが何を意味するのか、一瞬では理解できなかった。

 だが、ボタボタと滝のように流れる血と、そして右腕から発せられる激痛が、アデルにその意味を、無理矢理に理解させた。

「……あっ、が、……ぎゃああああっ!」

 こらえ切れず、アデルはその場に倒れ込む。

「あ……、兄貴ッ!?」

 ロバートが駆け寄ってくるが、アデルに応じる余裕は全く無い。

「うああ……うあ……いで……え……痛ええ……うあ……ああ……」

 口を閉じようとしても、勝手に悲鳴が漏れていく。

「ヤバいっスって、これ、血、あのっ、姉御、そのっ……」

 ロバートが顔を真っ青にし、エミルに助けを求めるが、エミルは既にその場にいない。

 その時、エミルはトリスタンに向かって駆け出しながら、弾を撃ち続けていた。

「Merde! Un salop! Quelle terrible chose tu lui fais!?(このクソ野郎! なんてことすんのよ!?)」

 その間にもトリスタンは、ダンの隣にいたもう一人を撃ち、残った1挺をエミルに向けていた。

「S'il te plaît, pardonne-moi,mademoiselle(お許しを、お嬢)」

 そして前回対峙した時と同様、トリスタンは7発目の銃弾を発射する。

 しかし――エミルはそれを事も無げにかわし切り、お返しとばかりに2発、反撃した。

「Je ne suis jamais surpris par un tel tour deux fois,un stupide(そんな手品で二度も驚きやしないわよ、おバカ)」

 流石のトリスタンもこれはかわせなかったらしく、1発は右肩を貫通し、そしてもう1発は額を削り、そのまま倒れさせた。


「……やった……?」

 地面に伏せていたダンが顔を挙げ、恐る恐るトリスタンに近付く。

「……ど、……どうだ?」

 拳銃を構えたまま、おっかなびっくりと言った様子でトリスタンの体を蹴り、動かないことを確認し、そのまま二歩、三歩と下がる。

「……やったぞ!」

 そう叫び、ダンはその場に座り込んだ。

 エミルも一瞬、ほっとした表情を浮かべかけたが――。

「……アデル! あんた、生きてる!?」

 エミルが振り向いたところで、ロバートが困り果てた声を上げる。

「あ、姉御、姉御、兄貴が、兄貴が……」

「……まさか」

 エミルが慌てて駆け寄り、アデルの側に座り込む。

「バカ! こ、こんなところで、あんな奴のせいで、……そんな……」

「あー、と」

 と、真っ青な顔をしていたエミルの肩に、とん、と手が置かれる。

「俺のために感動的に泣いてくれるのはすげー嬉しいが、まだ死んでねーよ」

「……え」

 むくりとアデルが上半身を起こし、左腕でロバートを小突く。

「腕を貫通したから心底痛いっちゃ痛いが、指は普通に動かせるし、出血もヤバいってほどじゃない。骨だとか血管だとか、致命傷になりそうなところはそれてくれたらしい。

 だからロバート、お前も泣いてないで、さっさと手当てしてくれ。痛すぎて、マジで気ぃ失いそうだ」

「へっ? ……あ、兄貴? 生きてるんスか?」

「死んでてほしいのかよ、てめーは?」

「いやいやいやいやそんなそんな、んなこと無いっスって! あ、えーと、手当てっスね? すんません、すぐ!」

 ロバートにたどたどしく止血を施してもらいながら、アデルはニヤニヤとエミルに笑って見せる。

「ほれ、エミル。俺にいつまでも構ってないで、さっさとトリスタンを確保してこいよ。殺したとは言え、奴なら死んでも生き返ってきそうだからな」

「……そう、ね。一応、縛るくらいのことはしておきましょうか」

 そう言って振り返ったところで、ダンが既に、トリスタンを縛っているのが確認できた。

「こっちも死んでないみたいだぜ。脈があるのを確認した。気絶はしてるがな」

「あら? 額を撃ったのに?」

「それなんだが、骨がちこっと見えてる程度の銃創だ。どうやらかすめただけらしい」

「……流石に『猛火牛』と言うべきかしら。あたしに反撃されてなお、紙一重でかわしてたのね」

 ため息をつくエミルに、止血を終えたアデルが軽口を叩く。

「どっちもどっちだな。お前だってトリスタンの最後の1発、ひらっとかわしてたじゃないか」

「あいつが7発撃てる特殊拳銃を持ってるってことは、前回の時点で分かってたことだもの。今回だって土壇場で使ってくるだろうってことは、予測できてたわ。

 ま、自爆覚悟でM1874を使われてたら、どうなってたか分からないけど」

 そこで3人同時にため息をつき――今回の大捕物は、一応の収束を迎えた。

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