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銃の整備屋

 一般的に広く認知されている形での回転式拳銃リボルバーが軍だけではなく民間にも普及しだしたのは1830年代、コルト・パターソンと呼ばれるモデルの登場以降とされている。

 その後に登場したコルト・SAAシングルアクションアーミーやウィンチェスター・M1873ライフルと言った「西部を征服した銃」などに印象付けられるように、西部開拓史を語る上で、「銃」の存在は不可欠である。

 この「超兵器」が無ければ、アメリカに渡った移民たちが19世紀中に西部開拓を終わらせることなど、到底できなかっただろう。


 勿論――これは銃に限らず言えることであるが――昨今のファンタジー作品の如く、一度買えば永遠に使い続けられるような代物ではない。

 砂塵吹き荒ぶ過酷な環境を渡り歩く際にも常に携行され、使用する度に強力な火薬の力を受け止めるのである。ろくな手入れをしなければ10年どころか、1年や半年ももたずに壊れてしまう。

 かと言って「相手を撃ち殺す度丁寧に銃身を掃除する、几帳面な荒くれガンマン」などと言う存在が普遍的であったとは、到底考えにくい。それ故、この時代のガンスミス(銃の整備屋)はそれなりに、食いっぱぐれるようなことは無かったのだろう。




「いらっしゃいませ」

 A州スリーバックスの市街地、レッドラクーンビル。

 西部では珍しい、3階建てのその木造建築の1階に店を構えるそのガンスミスは、その日も陰鬱な態度で客を出迎えた。

「銃を直してほしいんだが、どのくらいかかる?」

 そう尋ねつつ、客は腰の左に付けたホルスターから拳銃を抜き、台の上に置く。

「モノは、……ええと、……SAAの、4と4分の1インチ、……45口径ロングコルト弾、……ええと、……うん、……はい。

 ライフリングとか、シリンダーとか、……全部、泥が溜まってる。傷だらけだ。沼にでも落としたんですか?」

「んなことはどうでもいいだろ? 俺はいくらかかるかって聞いてるんだ」

 苛立たしげに尋ねてきた男に、ガンスミスは慌てた口ぶりで答える。

「ああ、ええ、すみません。ええと、そうですね、4ドル半、いえ、4ドルで」

「ああ?」

 値段を聞いた途端、男はバン、と台を叩く。

「高すぎる。2ドルに負けろ」

「無理言わないで下さい。ほとんど全ての部品、換えなきゃいけませんし」

「全部だぁ? ここはどこだ? ホットドッグ屋か? あの万力はパン挟むヤツか? 違うだろ? ここがガンスミスだって聞いたから俺は来たんだよ、ここに」

「ですから、4ドルいただければ」

「高いって言ってんだろうが!?」

 男はいきりだち、腰の右に付けていたホルスターからもう一挺、拳銃を抜いて構えた。

「2ドル、いいや、1ドルでやれ。さもなきゃてめーにくれてやるのは1セントの鉛弾だ」

「……はぁ」

 ガンスミスは台の上に置かれた、泥だらけの拳銃に視線を落とす。

「盗品だな、このSAA」

「な、なんだと? てっ、てめっ、適当こいてんじゃねえぞ!」

「職業柄、適当は嫌いでね。

 あんたが普段愛用してる2インチモデルは利き腕ですぱっと抜ける位置にあったけど、こっちのはそうじゃない、左のホルスターから抜いてた。そのホルスターにしても、ベルト穴が2つほどズレて広がってる。あんたのじゃないってことだ。

 銃にしても、泥は付いてても錆や腐食は無い。そんなに長時間、水に浸かってた感じじゃないな。本当の持ち主を撃ち殺した後、沼の中に落っこちたのを奪って自分のものにしようとしたけど、泥や石ころが詰まったせいでどう頑張っても引き金引けなかったから、僕のところに持ってきたってところかな」

 ガンスミスの推理は、どうやら寸分の狂いも無く的中したらしい。男の顔色が、みるみるうちに青くなっていったからだ。

「だっ……、だ、だったら、どっ、どうだってんだ!?」

「もういいよ。相手するの、めんどくさいし」

「は?」

 男がけげんな顔をした、次の瞬間――ぱす、と小さな音と共に、男の額に穴が空いた。


「君みたいな馬鹿を相手にする気は無いよ。じゃあね」

 その陰気なガンスミス――ディミトリ・アルジャンは硝煙をくゆらせる、妙な銃身の付いたデリンジャー拳銃を台の上に放り投げ、ぶつぶつと一人言をつぶやきながら、壁に掛けられた電話に向かった。

「あと5日だっけ。……やれやれ、せめて兄貴が来るのが明日だったら、手間も省けるのにな。

『ゴミ掃除』も面倒になったもんだ」

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